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伯爵令嬢は公爵様の『錨』となる ~偽りの婚約から始まる、たまゆらに縛られない本当の愛~  作者: 藍沢 理
第6章 謀反

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第35話 反逆の狼煙

 早朝の光が、隠れ家の窓から差し込んでいた。


 王都の下町にある古い酒場の地下室。そこに集まった騎士たちの顔は、一様に厳しい表情を浮かべている。彼らは皆、ユリウスに忠誠を誓う者たちだった。


 部屋の中央に立つユリウスの瞳には、もはや迷いの色はなかった。エレナと父の死を経て、彼の中で何かが変わった。悲しみを力に変え、鋼の意志が宿っている。


 ――父上、エレナ。あなたたちの犠牲を、無駄にはしない。


「諸君」


 ユリウスが口を開いた。その声は、静かだが力強い。


「父王レオニード陛下は、崩御された」


 騎士たちの間に動揺が走った。


「陛下が……」

「セレスティア様の仕業か」

「あの魔女め」


 ユリウスは手を上げ、騎士たちを制した。


「父は私を守るために命を捧げた。最後まで、王として、父として戦い抜かれた」

「殿下……」

「もはや躊躇している時ではない」


 彼は剣の柄に手をかけた。


「セレスティアの暴挙を討つ。これは反逆ではない。正義の戦いだ」

「はっ!」


 騎士たちが一斉に膝をついた。


「我らは殿下と共に」

「命を懸けて戦います」

「正統なる王位継承者、ユリウス様のために」


 ユリウスは騎士たちを見渡した。その数は二十名ほど。セレスティアの軍勢に比べれば圧倒的に少ない。だが、彼らの瞳には確かな決意が宿っていた。


「今日の正午、セレスティアは、父王の崩御と自らの摂政就任を祝う式典を開く。その場で私は、真実を民衆に告げる」


 ユリウスが告げると、騎士たちの顔に緊張が走った。



 正午。王都の中央広場は、多くの民衆で埋め尽くされていた。


 壇上には豪華な玉座が設置され、そこにセレスティアが座っている。金の装飾が施された摂政の衣装を纏い、満足げな笑みを浮かべていた。


 大神官が彼女の横に立ち、祝福の言葉を述べている。


「新たなる導き手、セレスティア様の御世の始まりです」

「たまゆらの秩序は、より完璧なものとなるでしょう」

「無響者どもの排除も、間もなく」


 民衆は困惑していた。国王の突然の崩御、そして王女の摂政就任。あまりにも急激な変化に、誰もが戸惑いを隠せない。


 その時、広場の入り口から馬の蹄の音が響いてきた。


「何者だ」


 セレスティアの私兵が動いた。


 現れたのは、ユリウスだった。白い軍馬に跨り、少数の騎士を従えて堂々と広場に入ってくる。その姿は、まさに王子そのものだった。


「ユリウス……」


 セレスティアの顔が険しくなった。


 民衆がざわめき始める。行方不明だった第一王子の登場に、期待と不安が入り混じった視線が注がれる。


「国民よ!」


 ユリウスの声が、広場全体に響き渡った。


「真実を聞いてほしい!」


 ユリウスは馬から降り、民衆の前に立った。


 セレスティアは壇上から彼を睨みつけている。大神官も、苦々しい表情を浮かべていた。


「父王レオニード陛下は、病で崩御されたのではない」


 ユリウスの言葉に、民衆が息を呑んだ。


「セレスティアのクーデターにより、幽閉された」

「嘘です!」


 セレスティアが立ち上がった。


「父上は過労で倒れられたのです」

「違う! 君は大神殿と結託し、父上から王位を奪った」

「証拠はあるのですか」

「私自身が証人だ」


 ユリウスは民衆に向かって叫んだ。


「父は最後まで、この国と民のことを思っていた!」

「黙りなさい!」


 セレスティアの声が鋭くなった。


「反逆者が何を言っても無駄です」

「反逆者は君の方だ、セレスティア」

「わたくしは、この国を正しい道へ導こうとしているだけです」

「正しい道? 無響者を火刑に処すことが正しいのか」


 民衆がさらにざわめいた。無響者の中には、恐怖に震える者もいる。


「秩序を乱す者は排除されるべきです」

「それは間違っている」


 ユリウスは聖剣ソラリスを抜いた。陽光を受けて、刃が眩く輝く。


「全ての民に、平等な権利がある。たまゆらの有無で、人の価値は決まらない」

「甘い理想論です」

「いや、これが私の信じる正義だ」


 セレスティアの顔が怒りで歪んだ。


「反逆者を捕らえよ!」



 セレスティアの命令と同時に、彼女の私兵たちが動き出した。


 だが、その瞬間、民衆の中から声が上がった。


「ユリウス様!」

「正統なる王子殿下!」

「俺たちはユリウス様につく!」


 王国騎士団の一部が、ユリウスの側に立った。日和見をしていた騎士たちも、ユリウスの言葉に心を動かされたのだ。


「裏切り者が! 全員、処刑です!」


 セレスティアが叫んだ。


「やってみろよ! 正義は我にあり!」


 ユリウスが剣を構えると同時に両軍が激突した。


 剣と剣がぶつかり合い、金属音が広場に響き渡る。魔法が炸裂し、石畳が砕け散った。民衆は悲鳴を上げて逃げ惑う。


 セレスティアも壇上から降り、響鳴者(ハーモニクス)の力を解放した。複数の魂脈が不協和音を奏で、周囲の者たちを混乱させる。


「わたくしこそが、この国の法です!」

「違う!」


 ユリウスが彼女に向かって駆けた。それを見たセレスティアが短剣を抜く。


「君は道を誤った!」


 兄と妹の剣が激突した。二人の間に火花が散る。

 王都の広場は戦場と化した。かつて平和だった王都に、血と炎の嵐が吹き荒れる。

 ユリウス軍とセレスティア軍。二つの勢力に分かれた騎士たちが、互いの正義を掲げて戦い始めた。


 内乱の始まり。


 血で血を洗う戦いの幕が上がった。


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