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084 お金は大事だよ~。よ~く考えよう~。

 崖から台車ごと落ちたと思ったのに……



「蓮さま……なんで空から???」



 何故か俺たちはヴィヴィ食堂の天井を突き破り、店内に落下していた。



「それに……何ですか! その女の人は……!!!」


「ハガガ?(あれ? ここどこ?)」



 エリカは俺の頭に齧りついたまま、埃だらけの眼鏡を拭った。




 ◇     ◇     ◇




「なるほど――ダン! じゃああの後、ここからかなり離れたところの崖から落下したのに――ドンッ! 何故かヴィヴィ食堂に落ちてきたと――ズバッ! しかし、このグランボアの腕……とてつもなくデカいな。よくこんな怪物の腕を獲ってこられたな……ほら、ヴィヴィ!」


「はい! しかし――ザクッ。不思議な事もあるものですね――シュッシュッ。チエさま、何か分かりますか?――ビリリィ。でもこの肉……素晴らしいですよ――スパッ」



 合流したサリサと共に、ヴィヴィが豚の腕を綺麗に解体していく。会話をしながらも的確に処理された肉は艶々と表面が煌めいている。食識の眼(ガストロヴィジョン)で見てもSSランクの最上級の肉だった。



「ヴィヴィ、骨はスープに使うんだよな? バキィ!」


「はい! 余すことなく全部使いますよ。骨もそうですが、皮の部分もバルトさんが欲しいと言っていたので――スパスパッ。冷蔵庫で増やしましょう。牙は……どうなんでしょう? 増えるんでしょうか――ススゥ。まあ、入れてみたら分かりますね」


「はぁ~、二人とも手際がよかねぇ……私には無理ばい」



 料理からっきしのばあちゃんと俺は、二人の作業を感心しながら見つめている。



《ヴィヴィさま、先ほどの問いですが……》


「チエちゃん、何か分かったの? 俺たちあの時どうなったんだ?」


《確かにあの時、蓮さまとエリカさまはここから離れた場所に居ました。そしてグランボアとの戦闘で、蓮さまは新しい能力、というか……力に目覚められております》


「あ……開錠(アンロック)か」


《はい。あの状況で考えられる仮説は……開錠(アンロック)で『次元の扉を開き』ヴィヴィ食堂にワープした……ということです》



 豚の時は次元の狭間に迷い込んでしまった。そして今度はヴィヴィ食堂……何か法則性があるのか?



《恐らくは……蓮さまの心に反応して、『開く場所が決定される』たぐいのものではないでしょうか》


「そういえば、崖から落ちた時は、ヴィヴィのラーメンが食べたいと思ってたかも」


《はい。蓮さまの心の声は私も聞こえていました》


「蓮さま……それ……とんでもないスキルなのでは……蓮さまが思えばどこにでも行けるって事でしょう? 凄いじゃないですか!」


「え? いや、まあ……そうなの? かな? へへ」


《蓮さま……調子に乗らないでください。これはあくまで仮説ですし、もしそうだとしても制御の仕方が全く分かりません。リスクの方が大きすぎます。また身体を無くしたいんですか?》


「う……すいません」


「はあ? 蓮ちゃん身体無くしたと?」


《ええ。次元の狭間で私と同じような思念体になっておられました》


「じゃあ……あん時私が感じた蓮ちゃんの魔力が無くなった感じ……それやったんやね」


《蓮さま。開錠(アンロック)はむやみに使うべきじゃありません。もっと時間をかけて検証を重ねる必要があります》


「わ、わかったよ」



 俺のスキル『鍵』……最初はしょぼいスキルだと思ってたけど……次元を開くって……なんかかなりヤバめ能力なのかも。



「まあ、蓮の頑張りで、無事に豚を手に入れたんだ。とりあえずはそれで良しとしよう。それはさておき……蓮……バルトの所にいったあの女は何なんだ? なんだかやたらお前と距離が近かったようにみえるが……」


「え? ああ、彼女はエリカって言って、俺が豚との戦闘で死にかけたところを、助けて……くれてはないけど、色々良くしてくれたんだ。あ、サリサ、新しい服を頼んでもいいかな? さすがにこの季節の夜に上半身裸はこたえたよ。まあ、エリカとひとつのマントに包まって、彼女がさすってくれたから、かなりギンギンに温まったけどね」


「はぁ?! 蓮……お前……今なんて言った?!」


「蓮さま……不潔です!」


《あなたという人はまた……そのような言い回しを》



 あれ……? 俺また変な言い方……した?


 サリサとヴィヴィの眼がすわっている……解体用のナイフを片手に二人が俺ににじり寄ってきた! こ、これは……解体(バラ)される勢いだ! に、逃げよう!



「悪い! ちょっとエリカの様子を見てくるよ! ばあちゃん! あと頼むね!」



 ――「おい! 蓮!」「蓮さま! お待ちなさい!」――



「はいよう。へははぁ……相変わらずやねぇ。いってらっしゃ~い。さあ! サリちゃん、ヴィヴィちゃん! 作業ば続けるばい! 私、早くラーメン食べたいんやき!」


「はい……」


「くそ! いつもいつもあいつは……!」



 俺はエリカの様子をみに、スミスマルチーズへと向かった。




 ◇     ◇     ◇



 

 ――「どうだい? バルっち。直りそうかい?」――



 スミスマルチーズにつくと、エリカとバルトがノコノコくんを修理できるか見ていた。二人ともノコノコくんに夢中で、俺が来ていることに気付いてないみたいだ。



「ほうほう! 多分大丈夫だよぅ。いくつか部品を取り換えれば動くはずさぁ」


「そうか! よかったなノコノコくん! 直るってよ!」


「それにしてもエリカちゃん、また面白いものを作ったねぇ。これさぁ、僕たちも使わせて貰えないかなぁ? 量産すれば、作業効率が上がるよぅ。あ、もちろん発明者のきみには売り上げの何%か収めるからさぁ」


「バルっち、何を水臭いことを言ってるんだ。そんなもの自由に使ってくれて構わないよ。理導(りどう)の普及こそボクの使命なんだから!」



 ああ……こんなの権利を主張したら、莫大な財産が築けるはずなのに……金に頓着がないのも天才あるあるなんだろうな。



「いやぁ! それはダメだよぅ! これはきみのアイデアなんだからぁ!」


「いいっていいって! アイデアなんてどんどん湧いてくるんだから。気にしないで使ってくれ。それよりさ、しばらくここに住まわせてくれないか? 新しい理導具を作ろうにもラボがないとどうにも……」


《!!! 蓮さま!!! これは……!!!》



 エリカのラボ発言にチエちゃんが思いっきり喰いついた。チエちゃんはエリカに小村電器店の店主になって欲しい……エリカはラボを探している……これは渡りに船じゃないか。



「ここを? うーん、僕は構わないけど、蓮さんに確認しないとねぇ。彼がここの王様だからさぁ」


「その件だったら、大丈夫だよバルト」


「あ、蓮さん」


「蓮くん! ノコノコくん! 直るみたいだ! ボクは嬉しいよ!」


「よかったなエリカ」


「蓮さん、豚狩り、大変だったんだってねぇ。何やらとんでもないサイズの豚の腕を持って帰ってきたって、みんな騒いでたよぅ」


「うん、ぼっこぼこにされたけどね……運よく? 腕と牙だけ持って帰ってこれた」


「牙、楽しみだなぁ! いい素材になるよ。あ、その件って?」


「うん……エリカ。あのさ、よかったらうちの商店街で店主になってみないか?」


「店主?」


「小村電器店っていうんだけど……多分……いや、絶対エリカは気に入ると思うんだ」


「電気店?! 電気って雷の事かい?!」


「いや、その電気じゃないんだけど……」



 俺は小声で続けた。



「雷の力を使った……機械みたいなものの専門店なんだ……だから公には開店できないんだけど……エリカのラボに丁度いいかなと思ってさ……エリカならきっと使いこなせると思うんだ……」



 埃だらけの眼鏡の奥のエリカの瞳が、燃え上がったように見えた。



「ちょうどいい!!! こなせる!!! 最高じゃないか、小村電器店!!! まるでボクの為の店みたいじゃないか! そこを使えるなら、ボクは店主にだってなんだってなるぞ! なんならきみの下僕にでもなんでもなろう!!!」



 下僕って……この娘は本当に……ぶっ飛んでるな……でも、だんだん慣れてきた。こういう破滅型天才にはちゃんとしたスポンサーやパトロンがついていないと、大変なことになる。ここは商工会職員の腕のみせどころだな。



「いや、店主になってくれるだけでいい。それと、ノコノコくんみたいなエリカの考えた理導具を使わせてもらいたい。もちろん、お金は払います」


「だからお金はいらない――」


「エリカはそのお金で、新しい理導具の開発をすればいいじゃないか。材料費もバカにならないだろうし、お金は必要だよ」


「う~ん……理導(りどう)をお金に……う~ん……そういうことじゃないんだよなぁ~。蓮くん~。違うんだよなぁ~。もっと浪漫のある話なんだよ……あ……急にやる気が無くなってきた。どうしよ」



 物づくり至上主義型の天才か……こういうタイプは本当に商売に向いてない。だが――



「……エリカは理導(りどう)を多くの人に知ってもらいたいんだよね?」


「そうさ! ボクは理導(りどう)の素晴らしさをみんなに知ってもらいたい! こんなに面白い世界があるって事を! でも……ヒズリアの人たちは魔導ばっかりで……あ! 別に魔導を否定している訳じゃないんだ。ただ別の考え方もあるって知って欲しい」


「だったらさ……なおさらお金取らなくちゃ」


「はぁ? なんでそうなるんだ?」


「お金はね、信頼の証なんだ」


「信頼の証?」


「そう。粗悪なもの、必要ないものにお金は出さないだろう? 良いもの、必要なものに人は働いたお金を出す。そして良いものには人が集まって、お金が生まれる。そうやって世の中は回ってるだろ?」


「……うん」


「お金を貰うって事は、「あれは良いものだよ」って信頼を得ることと同じなんだ。そしてその信頼は、丁寧に仕事をしていれば、どんどん広がっていく。もちろんそうなるまでは簡単じゃない。だからお金を生むって事はとても意味のあることなんだ」


「なるほど……そんな風に考えたことはなかったな……」


「今は公に開店は出来ないかもしれないけど、俺はエリカの理導(りどう)はとても素晴らしいものだと思ってる。だからお金を払うんだ。俺の言ってること……伝わる?」


「……うん。なるほど……そうだね。うん。貰おう。きみからお金を……そしてさらにいいものを作る……そしてさらに信頼を得る……信頼は……広がる……理導も……そういうことかい?」



 ――※ 久しぶりに注釈入ります! ※――



「そう! 俺はそのお手伝いをしたいんだ。


 きみの事が必要なんだ。(※理導が必要なんだ)


 きみが欲しい。(※理導の力を貸してくれ)


 一緒に、この街で暮らさないか?(※一緒に、商店街をもりあげましょう)」



《ああ……! また紛らわしい言い方を!》



 エリカは急に頬を赤らめ、大粒の汗をかき始めた。



「ほほほ、欲しいだって?! ボボボ、ボクは下僕にはなるって言ったけど、お嫁さんになるとは言ってないぞ!!!」


「は? お嫁さん???」



 ――カランッ……



 入口の方でナイフが落ちたような音がした。そこには鬼のような顔のヴィヴィが頭を伸ばして立っていた。



「おい……蓮さま……胸騒ぎがしたので様子を見に来てみたら……あなたって人は次から次に……同じ手を……」



 ヴィヴィはゆっくりと解体用のナイフを手に取った。



「ふんぬーーー!!! もう許しません!!!」


「蓮くん! ボクはお嫁には行かないぞ! まだ! 今は……まだ!」


「まだってなんですかーーー!!!」



 こうしてヴィヴィを落ち着かせるのに時間がかかったが、エリカは小村電器店の店主になることになった。



《蓮さま。本当にいつか刺されますよ?》



 はい……気をつけます……











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