083 エリカ、俄然、興味湧く
「おいおい、やめときなって。このクエストに参加してるのは俺のパーティーだけじゃないんだぜ?」
「しらん」
「これだけの魔物だ。他にも4パーティ、30人編成で参加してる」
「しらん!」
「それだけの数の冒険者から――」
「しらん!!! 人のものを暴力で奪おうとするやつの言葉なんて聞かん! この森は俺たちの国、ツクシャナ共和国だ! 好き勝手はさせない!」
「……こいつ……!!!」
ここでパーティーのメンバーがリーダー格に耳打ちした。
「ボス……こいつ……もしかしてツクシャナ共和国の王、タナカ・レンじゃないっすか? あの建国宣言の時の、あの地味な……」
悪かったな地味で。そうだな……当り前だが、派手に建国宣言したんだ……顔バレしてるってことか。
「マジか……こいつが新興国の王……そんなやつがなんでこんな所をうろついてんだよ」
「ボス……Sクラスの裏クエストに……こいつの……」
「へぇ……そりゃすげえな……魔物の調査なんて馬鹿らしくなってくる内容じゃないか」
小声でよく聞き取れなかったが……Sクラス? 裏クエスト? なんだか嫌な予感がするな……どう考えても俺が関係してそうな雰囲気だ。
「予定変更だ。豚の腕やその女のガラクタはいらねえや」
「ガラクタ?! おいきみ! それはあんまりじゃないか?! これはボクが一生懸命考えて作ったんだぞ! 理導をバカにするな!」
「理導? なんだそりゃ。ふん! ただ木を切るだけの道具だろうが。そんなもん魔法があれば簡単にできる。初級魔導にも劣るつまらんガラクタよ」
「初級魔導……こ……こ~の~や~ろ~! 取~り~消~せ~!」
――ドゥルンッ!!! ブイィィィン!!!
エリカがチェーンソー的なものを振り回しながらリーダー格に歩み寄る。現代人の俺からすると、このビジュアルは無茶苦茶怖い!
「おい! エリカ! やめろ!」
「うお! なんだこいつ! 急にキレやがった!」
「お前は……バラすぅうう~~~!!!」
何言ってんのこの娘! 怖すぎるんだけど!
――ブイィン! ズルッ! ドテッ!
「ほぎゃあ!!!」
「エリカ?!」
エリカはチェーンソー的なものの重さに振り回され転んでしまった。地面に落ちた的なものは、そのままリーダー格の男の元へ地面を這っていく。
「おお?! あっぶねえ……な!――っと!」
――ガキン! ギギギギギ!
リーダー格は的なものに剣を突き刺し、動きを止めた。
――……ブィィィ……ぷすんっ
「ああ! ボクの『ノコノコくん』が!!!」
あれ、ノコノコくんっていうのか! ノコノコくんは破壊され完全に動きを止めてしまった……
「エリカ! 危ないから下がってて! あときみ、ちょっと怖いよ!」
「でもこいつ! ボクのノコノコくんを……理導をバカにしたんだぞ! ああ! どうしよう……ノコノコくん壊されちゃったよ……蓮くん……」
エリカはへたり込み、今度は涙目で俺を見上げた。マジで何なんだこの娘……
「蓮くん……ノコノコくんの仇をとってくれぇ!!! うおお~!!!」
「えぇ?! あ、ああ……うん」
「ノコノコく~~~ん!!! ボクを置いて死ぬなぁ~~~!!!」
エリカは地面を拳で叩きながら泣いている。さっきはまた作ればいいって言ってたじゃないか……この娘……非常に……非常に刹那的な感覚の持ち主……なんだね。これ……天才あるあるなのか? マジで危なっかしくてみてられない。
そうこうしているうちに、ギルドの男たちが剣を抜き俺を取り囲む。
「おい、兄ちゃん……いや、ツクシャナの王様よぅ。悪いがあんたの身柄……押さえさせてもらうぜ。へへ……こりゃついてるぜ。Sクラスの裏クエストなんて、クリアすれば一生遊んで暮らせるじゃねえか」
同時に6人か……面倒くさいな……神槌で迎撃してもいいが、昨日の豚との闘いでかなり消耗しているし、こいつらの実力もよく分かってない状況で切り札を使いたくない。それにこいつらの装備、金属製でかなり堅そうだ。逆に俺の拳がやられるかもしれない。
「おい、お前ら! 暴れられたら面倒だ! 一斉にいくぞ!」
金属製……? 纏雷か? いや、纏雷は範囲が狭い。ぐちゃっとこられたら、必ずどこかはダメージを喰らう。鎖と施錠のコンボも6人一斉じゃ手が足りない……それに俺の魔力調整技術じゃ、こいつらを殺してしまうかもしれない。
どうする……ああ~、出力を抑えてこいつらが痺れる程度に雷撃を喰らわせられたらなぁ……
《蓮さま……施錠の錠前が使えるかもしれません。今、何個まで出せますか? 出せる限り蓮さまの周りに配置してください》
(出せる限り? あ、ああ……やってみる)
施錠は以前、4個まで出したことがある……とりあえず出せる限り――
「今だ! かかれ!!!」
冒険者たちが一斉に飛び掛かってきた! まずい! 急げ!
「施錠!!!」
――ガキガキガキンッ!
8個まで出せた……! 俺、成長している……豚との戦いが、何かを変えたのか? 錠前は俺を囲うように空中に浮かび、立方体の檻を形作っている――で、チエちゃん、これからどうすんの?!
やば! もうそこまで剣先が――
《蓮さま! 纏雷を! 調整は私が!》
「わかっ――纏雷!!!」
――パリッ! ヴゥーーーン! パリリリリ!!!
雷撃は俺の身体を纏ったかと思うと、錠前を伝い放電していく。錠前から錠前へ連鎖的に雷撃が廻り、俺を中心にまるで雷撃の箱のようになった。
――「「「ぐががあああ!!」」」――
一斉にかかってきた6人の男たちは、その雷撃の箱の中で感電し痙攣している。俺が纏雷を解くと、男たちはその場に崩れ落ちた。
「なにこれ……こわ!」
《錠前で誘導し立方体状に雷撃のエリアを作る……思ったよりうまくいきましたね。施錠の数が増えたのがよかったです》
「まるで雷撃の監獄だな……」
《ふむ……監獄施錠とでも名付けましょうか?》
「なにそれ……かっこいいじゃん」
リーダー格の男は、まだ意識があるらしく痙攣しながら俺に話しかけてきた。
「……お前、これ……雷属性じゃねえか……ツクシャナの王は……神の槌を……神槌を使うのか……」
神槌……神の槌……すなわち雷の事だ。俺とチエちゃんが身体の超加速を神槌と名付けたのも、それが由来だ。そして雷属性はこの世界で禁忌。これまでなるべく隠してきたが……俺が大狸商店街の代表でありツクシャナの王になった以上、もう隠し立てできない。
だけど……建国宣言の時に覚悟は済ませた。俺はもう逃げも隠れもしない。禁忌だろうがなんだろうが、これが……俺だ。
リーダー格の男は横たわったまま続ける。
「雷帝……神槌の雷帝の再来か……あんた……これが教会にバレれば、大変なことになる――」
「このやろ~~~!」
――ガイン!
「ぐはぁ! ううぅ……」
エリカはお茶を沸かす鍋を、リーダー格の顔面に喰らわせ気絶させた……
「ざまあみろ! ばかたれ!」
ほとんど虫の息だったのに……容赦ないな……ここでサリサが念話で話しかけてきた。
(蓮! いいぞ! よくやった!)
(サリサ……でも、雷を使う事、バレたよ)
(ふん、構うものか。スパイもいるしバレるのは時間の問題だ。だが……念には念を入れて、そいつら……消すか? そこらに吊るしておけば魔物が綺麗さっぱり喰ってくれるぞ?)
(いや! いいよ! なに怖い事言ってんだ。俺は普通の商工会職員だぞ? そんなこと出来るか)
(相変わらずのあまあまか……それよりお前、強くなってないか? 今度私と手合わせしよう。本気でな)
(しないって。どうせ俺がボコられるの目に見えて――)
――「おい! こっちで何か物音がしたぞ! 豚がいるかもしれん!」――
そう言えばこいつら……他のパーティーもいるって言ってたな。まずい。ここから早く離れないと。
(サリサ、悪い。他の連中がこっちに来てる。切るぞ)
(分かった。蓮、優しいのはいいが……時には非情になることも必要だぞ)
(……出来れば、一生普通の商工会職員でいさせてくれ。じゃあな――ブツン)
声が近づいてきた。早くここから離れたいが、この台車を引いていたらあっという間に見つかってしまう……どうしよう。
「おい! 蓮くん! いいい今! きみが使ったのってもしかして……雷属性の魔法か?!」
「! エリカ! しーーー! 声! 大きい! 気づかれる! 静かに!」
「雷か?! そうなんだろ?! そうだよな!」
エリカは俺の言葉になど耳を貸さず、俺に詰め寄ってくる。
――ズルッ! ドン!
「ほぎゃ!」「うわ!」
エリカは興奮のあまり足がもつれて、俺に寄りかかる形になってしまった。俺もバランスを崩し、二人は台車の上に倒れ込んだ。
エリカは俺の上に乗ったまま、興奮した様子でさらに捲し立てる。
「本当にきみは何なんだ! まさか雷を使うとは! 何てことをしてくれるんだ! ああ……堪らない……ボクは俄然、きみに興味が湧いてきた……いや、この出会いは運命だよ! そうだろ?! 蓮くん!」
――「おい! あそこに誰かいるぞ!」――
まずい! 見つかった!
「おい! エリカ! どいてくれ! 急いでここから離れないと!」
「いやだ! どかない! 離れない! ボクはきみを離さないぞ!」
――「見ろ! ヘッケルの奴らがやられてるぞ! あいつらの仕業か!」――
エリカは俺に抱き着き、何故か俺の頭にハガハガとかぶりついている!
「いででで! 何故噛む!!!」
台車の上で俺たちが暴れたので、車輪がその振動で回りだした……
台車はそのまま渓流の方へと向かい始め……あれ……これまずくないか?! この先は崖だぞ!!!
「おい! エリカ! マジでヤバいって! 離れてくれ!」
「ハガハガハガガ(嫌だっていってるだろ! 絶対に離さない!)」
――ゴロゴロゴオォ!!! ザンッ……!!!
台車は崖から俺たちごと宙に放り出された……!!!
この高さ……ヤバい……しかも下は岩場だ!!!
エリカは落下中にもかかわらず、俺に抱き着いたまま放そうとしない。両手両足でがっしりと俺を固定している! しかも思ったより力が強いぞ! この娘……マジでバカなの?! 天才なの?!
神槌を使おうにも、こう密着されてちゃ、雷撃がエリカを貫いてしまうだろう……打つ手が……ない?!
ばあちゃん、ごめん。せっかく豚の腕手に入れたけど……ラーメン、無理かも。
ああ、最期に勝っちゃんおいちゃんの作るラーメン――
いや、ヴィヴィが再現するラーメン……食べたかったなぁ。
――シューーーーー……ドガーーーン!!!
………………
…………
……
「いててて……」
あれ? 生きてる?
辺りは埃が舞い見えないが……
「ハガハガ」
エリカは構わずに俺の頭にかじりついている。
「あわわわわ……れ、蓮さま???」
え……この声……ヴィヴィ???
埃が落ち着いてきて、視界が戻ってくる……
そこにはフライパンとお玉を持ったヴィヴィが目を白黒させ立っていた。
「え? ここは……何で???」
俺たちが落下したのは、なんと――ヴィヴィ食堂の中だった。




