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081 エリカ

 意を決して開錠(アンロック)を使ったのに……


 また目の前が真っ暗だ……


 これがチエちゃんの言っていた次元の迷子って事か?!



(チエちゃん! どうしよう! また真っ暗だ! チエちゃん! いる?!)


《蓮さま! 落ち着いて! います! いますよ! 落ち着て! 目は?! 開きますか?! 呼吸は?! 身体、ありますか?!》


(め、メ、目ぇ! 呼吸! 息!)



 俺は意識を集中し、息を吸うと同時に思いきり目を開いた。



 ――ざりぃ! げほぅ!!! げほぉおい!!!



 目を開いた途端、何かが目の中に入り激痛が走る。それと同時に口にも何か入ってきて、俺は激しくむせ返った。


 反射的に顔の周りを両手で払おうとするが、手が動かない!



「げほ! げぇ~~~ほぅ!!! いでえ! 目が! 目がぁ~~~!!!」



 俺は天空の城ラ○ュタのム○カの様に叫んだ……


 声! 声が出る!!!


 それにこの目と口に入ってきたもの……この匂い……土?!



《蓮さま! 身体! あります! 動いて! 蓮さま埋まってます!!!》


「わがっだ……!!! ヂエぢゃん……じんづい(神槌(しんつい))いぐじょ……!!!」


《はい!!!》



 俺は神槌(しんつい)を発動し、雷撃と加速で身体を覆っている土のようなものを吹き飛ばした。



 ――バリィッ!!! ボンッ!!!


 ――「ほんぎゃあああ~~~!!!」――



 誰だ?! 人の叫び声がしたぞ?!



「げほ~! げほ! げほ! 目ぇ、いって~……」



 ぼやけた視界に映ったのは、炎の揺らめきと、驚きのあまり腰を抜かしている若い女性だった。



「し、死体が生き返った~~~!!!」



 女は白目をむいて、そのまま気絶してしまった……


 女の手にはスコップが握られ、その脇にはどこからか摘んできたのだろうか……花の束が置かれていた。


 もしかして俺……埋葬されかけてた???




 ◇     ◇     ◇




「本当に申し訳ないね……まさか生きているとは……」



 この眼鏡の彼女の名前は、エリカ・シノザキ・ハーマイン。ミドルネームに日本の苗字が入っている……ファーストネームも日本名っぽい。



「ボクの早とちりで危うく、生き埋めにしてしまうところだった」



 そしてボクっ娘だ! ボクっ娘の眼鏡っ娘だ!!!


 見た目的にはいわゆるヒューマン。亜人系ではない。若干グリーンアッシュの髪の毛はきつめのくせっ毛で……というか、寝ぐせなのか、爆発ヘアだ。あまり手入れを……してなさそうだ。


 身なりは冒険者というより、探検家に近い格好。動きやすそうな服には、多くのポケットや物を下げるフックがついていて、探索に役立ちそうな道具が随所に仕込まれている。


 リュックの中にも沢山のキャンプ道具が入っていた。



 ――ズズズ~……



「あちっ……ふう……美味しいよ、ありがとう」



 彼女は目覚めたばかりの俺にお茶を入れてくれた。大きな丸太に腰を掛け、焚火を囲んで今こうして話している。



「いや~、ほんと、申し訳ない。メンゴメンゴ」


「それはもういいよ。聞いた感じでは実際死んでたような状態みたいだったし……」



 彼女が俺を発見した時、俺は身動き一つとらず、すでに心臓も止まっていたらしい。ただ不思議だったのが――



「何故か身体はずっと温かくて、生きてるのか死んでるのか、よく分からなかったから……とりあえず埋めた」


「とりあえず……」



 なんで分からないのに埋めるのだろう……



「それより、蓮くん、だっけ? きみ……凄いね!!!」


「え?」


「あのグランボアを倒したんだろ?!」


「グラン……ああ、あの豚? いや、一方的にボコられたよ。手も足も出なかった」


「手も足もって……腕を奪ってるじゃないか」


「はい?」


「いや、今、蓮くんが座っているそれ」


「え?!」



 暗闇で気づかなかったが、俺が腰かけていたのは、あの豚の腕だった。



「このサイズ、あり得ないよ! 普通の個体の何倍のグランボアなんだい!」



 豚の腕の断面は、まるで鋭利な刃物……いや……プリンをスプーンで掬ったかのように、滑らかに切り取られている。これも開錠(アンロック)の影響なのか?


 視線をふと横にやると、俺が折った豚の牙が地面に突き刺さっていた。



「この牙……エリカが突き刺したの?」


「ん~ん。違うよ。ボクじゃないよ。君が倒れてた時から刺さってた」



 この刺さり方……相当な力だ……てことは、豚が刺していったのか?


 豚のあの眼。


 確かに感じた――繋がり。



「……この牙は……贈り物ってことか……もしくは、預かっておけってことかな……」


「なぁなぁ、蓮くん蓮くん、この牙、最高の素材だぜぇ。この森にさ、新しい街が出来たんだけど、そこにボクの知り合いの腕のいいドワーフがいるんだ! 最近そこで店を構えたらしくてね。持ってったらいい装備を作ってくれるんじゃない? 知ってる? その街」



 腕のいいドワーフって……バルトのことか?



「あ、ああ。まあ知ってるっていうか……俺、その街の代表なんだ」


「ええ?! そうなんだ! へえ~、君が『救い主』ってやつなのか?」


「あ、いや……救い主はまた別にいて……まあ俺のばあちゃんなんだけど」


「はあ~、そうなんだ。あ、ボクもさ、その街に行くから、明日ご一緒しようぜ!」


「明日?」


「そうさ。今日はもう暗いから、ここで野宿しよう。グランボアの腕と牙があるんだ。恐れをなして、魔物なんて近づいてこないさ」



 そうだな……夜の森は魔物たちが活発になるもんな……



「しかし立派な牙だなぁ。ブルっ……はぁ、秋になって夜の冷え込みが強くなってきたね。焚火を絶やさない様にしないと。蓮くん、寒くないの? 服、ボロボロだけど」



 本当だ。グランボアとの戦闘でジャケットは吹き飛んでしまった。シャツももうボロボロで身体を覆っている面積の方が少ないかもしれない。



「うん、ちょと寒いかな」


「そうだ。雨風用のマントがあるから一緒に包まろうぜ。ボクも寒いし」


「え、一緒に?」



 エリカはリュックの中から薄手のマントをガサガサと引きずり出し、マントを羽織って俺に手招きした。



「そうさ。身を寄せ合った方が温かいだろう?」


「いや! でもエリカは女の子だし……」


「ボクは気にしないよ。合理的にいこうぜ」



 合理的って……いや、俺が気になるんだけど……



「いいからおいで。風邪ひくよ!」


「じゃ、じゃあ……失礼しまぁす……」



 俺が遠慮がちにマントに入ると、エリカは躊躇なく肌を合わせてきた。



「やっぱりくっついていた方が温かいぞ。なぁ蓮くん!」



 エリカの顔が近い!!!


 こ~れ~は~……まずくないか?


 夜の森で年頃の男女が一つのマントに包まり温め合う……


 しかも俺は上半身ほぼ半裸……



「へぇ、蓮くん、結構いい体つきなんだな? やっぱり冷えてるぞ。さすってやろう」


「え?! いや! なんで?!」



 エリカは掌で俺の胸のあたりをさすり始めた。



「こうやってさするとな、摩擦という熱で温かくなるんだ。遠慮するな、僕の掌も(ぬく)もるし」



 ――さすさす……さすさす……さすすすす!!!



「ほら、温まってきただろう? これが摩擦熱だ」



 温まるというより……熱い!!! エリカは手袋をしてるからいいだろうけど、俺は素肌だぞ!!! 皮膚が剥ける!!!



「いや! エリカ! もういい! うん! 温まった!」


「そうか? まだ冷えてるように感じるが。もっと他の所もさすってやろうか?」



 そう言ってエリカはさらに身を寄せてくる。


 なんだこの子……これ、素でやってのんか?!


 まつ毛、なっが~……それに何だかいい匂いが……


 こ~れ~は~……いかん!!!



「いや! もう十分!」


「ふ~ん……ふあ~あ……温まると眠くなってきたな。穴掘りってのは意外に疲れるもんだ。ボクは身体を使うのが苦手なんだよ。蓮くん、悪いがボクは先に寝るよ。大きめの木をくべたから火は大丈夫だと思う。じゃあ、おやすみ……」



 そういうとエリカは俺の胸にもたれ掛かり、すやすやと寝息をたて始めた。


 何なのこの子……距離感がおかし過ぎるだろ……


 俺はその後、緊張のあまり暫く眠ることも出来ず、ただエリカを起こさないように固まっていた……




 ◇     ◇     ◇




 ――チュンチュン……


 ――コンコン……ギギギギギ……ギュイーーーン!



 鳥の鳴き声とともに何か木を削るような音で俺は目を覚ました。


 この音……聞き覚えのある音だ……


 音の方を見てみると、エリカが木を削って何かを作っていた。



「ふう! これでいいんじゃないかな」



 エリカが作っていたのは木を削って作った車輪のついた台車だった。



「よう! おはよう! 蓮くん! 風邪ひいてないか?」


「おはようエリカ。うん、大丈夫。それよりこれ、凄いな。よく一人でこれだけのものを……」


「これでグランボアの腕と牙を簡単に運べるぞ! この車輪も摩擦の応用なんだぜ? こうやって車軸で摩擦の面積を減らすことで、重いものも簡単に……」



 エリカが摩擦の説明をしているが、それより気になるのは……エリカの手に握られている道具だ。あれは……普通ののこぎりとかではなく……俺たち現代人にとっては見慣れた――



「ああ、これかい? これはボクが設計したのこぎりさ。簡単に木を切れるんだぜ。いいだろう?」



 その形は紛れもなく、俺たち現代人が使っているチェーンソーにそっくりだった。



「改めて自己紹介しておくね。ボクはエリカ・シノザキ・ハーマイン。たぶんこのヒズリアで唯一の……理導士(りどうし)だ!」



 ――ギュイイイイン! ボトッ! ズガガガガ……



 エリカは決め台詞を言った後、チェーンソー的なものを落とし、的なものは地面で暴れまわった。



「ほんぎゃ~~~!!! あぶ! あぶ! 蓮くん! 止めて~~~!!!」



 これが、眼鏡っ娘でボクっ娘でドジっ娘の――


 天才理導士(りどうし)であるエリカとの出会いだった。











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