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077 愛~宇宙の味~

 ――「えっと……これがラーメンという食べ物ですか……」――



 ヴィヴィが江藤書店から持ってきたラーメンに関する本を読みながら、興味深そうに尻尾を揺らしている。


 ホシノエから帰ってきた俺たちは、その日のうちにヴィヴィ食堂で小麦を挽き、小麦粉にした。そして俺たちの帰りを待っていたサリサは……



「おい、蓮、伊織……ファクタからの接触もあったというのに、食べ物の事とは……お前ら、いい加減にしろよ?」



 少しイラついたように圧をかけてくる。使節の件もあるだろうが、多分声をかけずホシノエに行ったことに腹を立ててるんだろう。



 ――ガリッ! ボリッ!



 冷水器から出たお冷の氷をガリガリとかみ砕きながら、俺を睨みつけている。



「そもそもだ。私はお前の何なんだ? えぇ? なぜ私に声をかけずに行くんだ? んん? 私はお前に求婚までしているんだぞ? ガリッ! ないがしろにし過ぎじゃないのか? おい、こら、蓮。聞いているのか? おい、なぁ。なぁってばりばりばり!!!」



 サリサが俺の顔の真横で氷をかみ砕く。



「ごめんって!!! 今度からはちゃんとお前に声かけるから! やめて! その氷かみ砕くの! 怖いから!」


「そんなに大層なものなのか? そのラーメンというのは? ファクタの使節より大切なのか?」


「いや……大切って言うか……いや……うん……大切かもしれない」


「な・ん・で・だ・よ! たかが食べ物だろ?!」


「た、たかが?! おい聞いたかばあちゃん! こいつ今、ラーメンの事を『たかが』といったぞ!!!」



 サリサを含め、恐らくヒズリアの住人は分かっていない。小麦がもたらす食の革命を。そして日本が誇る最強の麺、国民食ともいえるラーメンの重要性を!



「サリちゃん……勝っちゃんラーメンの復興……これはこの大狸商店街始まって以来の最重要事項ばい! 何を差し置いても豚骨ラーメンを復活させます! これは救い主の……命令です!!!」


「ふん。命令と来たか……別にお前らの望みを邪魔しようってわけじゃない。ただそのラーメンってものが、どれほどのものなのかピンとこなくてな。なんだ? トンコツってのは? ラーメンには種類があるのか?」



 きたきたきた……ラーメンに種類があるのかって? 伝えなければ……豚骨ラーメン発祥の地、福岡県出身の俺がその魅力を伝えなくて誰が伝えるんだ!



「いい質問だ。サリサ……ヴィヴィも一緒に聞いてくれ。豚骨ラーメンとは何かを……!!!」



 俺は二人をテーブルに座らせ、語りかけた。



「いいか。まずラーメンというのは俺の国では『国民食』として愛されている。そしてラーメンの魅力は海を越え、国境を越えて愛されるようになった食べ物なんだ」


「す、すごいな……そんな食べ物があるとは……」


「その麺というのは小麦が主原料なんですよね?」


「そうだ。だが、麺だけじゃラーメンは語れない。絶対に必要なのがスープだ。これが奥深い。さっき豚骨がなんだといったな、サリサ」


「あ、ああ……」



 いつにない俺の真剣な眼差しにさすがのサリサもたじろぐ。



「ラーメンには数多くのスープがある。味噌、塩、醤油、魚介、白湯、他にもまだまだ……数え上げればきりがない。だがな……俺の生まれた国、福岡県で生まれたラーメン……それが豚骨ラーメンだ。なぁ、ばあちゃん」


「そうばい……勝っちゃんのラーメンも豚骨やった……」


「そして……まぁ俺の主観でもあるが……世界で愛される国民食ラーメン……そして数あるラーメンの中で最もうまいのが……豚骨だ……!!!」


「も、最も……ですか? 蓮さま……」


「そうだ。世界に誇る味……奇跡の味といっていい」



 ――「「ごくり……」」――



「白濁のスープに細めの麺、チャーシューを添え、薫り高い細切りのネギを散らす。熱々のスープから湯気の粒子が立ち昇り、鼻を刺す野趣あふれる豚骨の臭みが食欲を掻き立てる」


「え? おい、蓮……トンコツってのは、く、臭いのか?」


「ああ、臭い。ものによるが、この臭みが豚骨スープの特徴だ。だがサリサ……それも一口スープを飲めば、がらりと印象が変わる」


「ど、どう変わるんですか?」


「まあ待て、ヴィヴィ。まだ飲むのは早い。まずは目で味わおう」


「め、目ですか?」


「スープの表面には薄っすらと油の膜が張っている。これは豚の油、ラードだ。このラードの膜が甘味を足すとともに、スープが冷めるのを抑える。あまり意識しないが重要な点だ。ラーメンは冷えたら壊滅的にまずくなるからな。ある意味、熱を食す食べ物だといっても過言ではない」


「熱の料理……つまり賞味期限が短いという事ですね」


「そうだ。ラーメンの美味さの魅力はその短さにある。いわば……刹那の煌めき――」


「刹那の……おい! 蓮! もう前置きはいい! 味を! 味を教えてくれ!!!」



 ヴィヴィもサリサも真剣な眼差しで俺の話に耳を……いや、五感を傾け、未だ食べたことのないラーメンという食べ物に想いを馳せている。任せろ、ラーメンよ……俺がお前の魅力を余すことなくこいつらに伝えてやる!!!



「ふふふ……ラーメンをどこから食すか……スープか? 麺か? それともチャーシューか? 名店といわれる店ではスープから飲まないと店から放り出される、なんて話も聞くが、俺から言わせればそんなものは……食べる者の自由! どこらからでも好きに食べたらいい!!!」



 ――「そうだ!」「その通りです!」「そうばいそうばい!」――



 二人とももうラーメンの虜だ。サリサもヴィヴィも目を輝かせている。それより、ばあちゃんのよだれがヤバい。巫女服の胸元がぬったりと濡れている。え、泣いているのか? ばあちゃん。そうだよな、恋しいよな……勝っちゃんラーメン……待ってろ、今喰わせてやる!(想像だけど)



「だが……やはり店主のいう事ももっともだ……ここは基本のスープからいくのがおすすめだ。飲むか? スープ……」



 ――「飲みます!」「飲む!」「はよせんね!!!」――



「レンゲにすくったスープを一口……口に広がるのはこっくりとした豚骨のコク、そしてすぐさまに醤油ベースのかえしのキリリとした塩味が唾液の分泌を促す。臭みと感じていた匂いは、そのコクと混ざり合い『もう一口!』と思わせる原動力となる。臭い! いや……美味い!!! 止まらない……!!!」



 やばい、俺も喋りながらよだれが出てきた。このままこのスープを飲み干してしまいたい!!!(想像だけど)



「いや! だが待て、ここで衝動に任せてスープを飲み干しては台無しだ。次は麺だ。スープと絡ませながら麺をすくう。若干硬めに茹でられた細麺が、提供までにいい感じで火が通っている。ほんのりと小麦の香りが漂い、表面には艶々とスープと油をまとっている。落ち着け、熱いぞ。慎重に口元に運び、軽く一息、二息吹きかけ……人目など気にせず一気に啜る!!! ズルルルル~~~!!!」



 ――「「「うわぁ~……」」」――



「おほう! スープが絡んだ麺が口の中で踊りだす! サクッ! サクッ! 分かるか? 硬めに茹でられた麺は、僅かな歯ごたえを残し、心地よく咀嚼されていく! ダメだ! 止まらない! 俺は飢えた獣の様に、熱々の麺を恥ずかしげもなく啜っていく! 嗚呼! 何故だ?! もう麺が半分しかないぞ?! いや、構うもんか! 俺には……替え玉がある!」


「替え玉?! なんだそれは?! 蓮!」



 サリサが身を乗り出し、俺の胸ぐらをつかむ。へへ、興奮しやがって……たまんねぇだろ、たまんねぇよな?!



「サリサ! 博多のラーメンには替え玉システムというのがある! 麺だけおかわりが出来るんだ! 気にするな! 大食いのお前でも満足できるぞ!」


「うぇ?! お、大食い?! わ、私はそんなに大食いじゃないぞ!」



 俺はサリサの腕を振りほどき、さらに捲し立てる。



「うるさい! 黙れ! そんなことはどうでもいい! 替え玉だ! 次はカタ麺じゃなく普通麺で頼む! スープに浸かる時間が少ないからな! こうやってラーメン愛好家たちは麺の硬さを自分好みにカスタマイズするんだ!」


「お、奥が深いですね……ラーメン……ぐすっ」



 へへ……ヴィヴィまで涙を……待てよヴィヴィ。まだ泣くのは早いぞ。



「ああ……深い、どんぶりの中で刻一刻と表情を変える麺。その一瞬を自分好みにどう捕らえるか……それがラーメンを食べるという戦いなんだ。美味いなぁ……麺とスープが口の中で混然一体となる。しかし待てよ……ここにチャーシューが二切れある。タレで煮込まれた艶々とした薄切り肉……いや、店によってはこれでもかと火入れされたものある。いずれにしてもこれを頬張る……おい……おいおいおい! 何だこれは?! 豚のスープに豚の肉が合わないはずがないだろう! しっかりと味が染みた豚肉の旨味が口の中で爆発する! 美味い!!! 麺、スープ、肉! それらを一度に咀嚼する幸せ! ついでにネギもすくって、追いスープだ! 何だこれ……口の中に……宇宙があるぞ……俺の口の中で……宇宙が生まれた」



 ――「「う、宇宙……」」――



「そうだ……これが……豚骨ラーメンだ……視えるか? サリサ、ヴィヴィ……ファクタの使節なんて……どうでもいいだろう?」



 俺たちは瞳を閉じて、ただただ豚骨ラーメンに想いを馳せた――



「視える……視えるぞ! 蓮! 豚骨ラーメンが心の中にありありと!!!」


「私……このラーメンを作るために生まれてきたのかもしれない……いえ! きっとそうです!!!」


「ぶへぇ~!!! 勝っちゃ~~~ん! なんで死んだとね~~~! 私の胃袋を置いて~~~!!!」



 ふう……どうやら豚骨ラーメン魅力は伝わったようだ。勝っちゃんおいちゃん……俺、やったよ。



「それで蓮さま……その豚骨ラーメンの作り方とは……」


「それは……」


「それは――?」


 ・

 ・

 ・


「分からん!!!」



 ――ずこーーー!!! ドンガラガッシャーン……!!!



「おい! 蓮! お前いい加減にしろよ! ここまで煽っておいて作り方が分からんだと?! お前マジで吊るすぞ!!!」


「ひどいです蓮さま! それはあんまりです!」


「ちが! 俺は食べるだけで、作り方までは……チエちゃん! 豚骨ラーメンの作り方! 本ある?!」


《それが……ラーメンの食べ歩きなどの書物はありますが、レシピとなると……ございません。基本、ラーメンというのは店で修行して暖簾分けしてもらう風習がつよいですからね。レシピも門外不出のケースが多いです》


「だよなぁ……レシピ本ってのは家庭料理の為にあるようなもんだし、ラーメンなんて家で作ることはないもんな」


《まあ、基本的な作り方は分かりますが、勝っちゃん食堂のラーメンとなると――》



 ――ガタンッ!



 ここでばあちゃんが何かを決意したように立ち上がった。



「レシピがないんなら……私が味見するばい! どんだけ勝っちゃんの作る半チャーハンセットを食べたと思うとね! 味は私が覚えとる!」



 確かに……ばあちゃんほど勝っちゃん食堂に通い詰めた人間はいないだろう。レシピ再現の味見役にはうってつけだ!



「よし……味見はばあちゃん、調理はヴィヴィ……材料は俺とサリサで調達する! これで勝っちゃんラーメンを復活させる! いいな!」



 ――「はい!」「はいよう!」「私も食べるぞ!」――



 こうして最強の食べ物、ラーメンの復活劇が始まる……







蓮の「豚骨ラーメン愛」が爆発しました。


ラーメン好きに読んで欲しいです。


そして是非、感想を……


I LOVE TONKOTSU!

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