表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/156

057 救済活動(3)~キノ・ウキヤグラ~

 ――「みんな急げ!」――



 俺達はウォルトの後を追い、犬狼族の集落・ウキヤグラへ向かった。


 しかし、さすが犬狼族……濃い砂煙の中、足場の悪い渓谷地帯を風の様に難なく駆けていく。


 上流に向かうにしたがって、切り立つ岩肌は高くなり、川の流れも激しさを増す。水の濁りがさらに深くなり、土石に混じり建材だろうか、いくつもの木や衣服、生活用品が岩に引っかかっている。



「蓮ちゃん! ウォルちゃん速すぎる! 戦艦でいくばい!」


「わ、わかった! ばあちゃん頼む!」



 ばあちゃんがくさ手で作った籠に、みんなを乗せようとしたその時、アポロが声をあげた。



「ちょっと待ってください! 声……聞こえませんか?」


「え? 声?」



 その場にいたみんな、耳を澄ますが、何も聞こえない。



「ばあちゃん、森林探索のスキルって、ここじゃ無理か?」


「さっきからやっとるけど、森の環境じゃないと無理っぽいね……」


「アポロ、本当に声が聞こえたのか?」


「はい、間違いなく聞こえました……あ、また! こっちです!」



 アポロはひと際高い渓流の岩に飛び移り、声の方向を見つめる。激しい川の音で近くの声も聞き取りづらいというのに、本当に聞こえてるんだろうか?


「あ! あそこ!」とアポロが対岸の岩場を指さし声をあげた。



「人がいます! 伊織さま! あそこまで連れて行って下さい!」


「は、はいよう!」



 ばあちゃんは俺たちとアポロを回収し、アポロの示した岩場まで移動した。そこには流されてきた瓦礫の中に埋まる形で、犬狼族の少女がいた。


 アポロがいち早く彼女のもとへ駆けていく。



「アポロ! 気をつけろ! 川に落ちるぞ!」



 俺の注意も耳に入らない様子で、アポロは少女に話しかけた。



「おい! 大丈夫?! さっきの声、君だろ?!」


「う……」



 すぐに追いついたばあちゃんが、俺達を降ろして籠を解き、瓦礫にくさ手を伸ばす。



「アポちゃん! 瓦礫どかすけん、どいて!」


「お、お願いします!」



 ばあちゃんが瓦礫を取り除き、アポロが優しく少女を引きずり出した。しかし、少女は右足が折れており、意識が朦朧としている。



「ばあちゃん! くさ汁――」


「きみ! これを飲んで!」



 俺がばあちゃんに指示を出す前に、アポロが携帯していたくさ汁ポーションを少女に飲ませた。少女の傷はみるみると回復し、息を吹き返した。



「かはっ! けほっけほっ! うう……」


「大丈夫? 起きれる?」


「う! いた!」



 さすがにくさ汁ポーションでも骨折を瞬時に治すことは出来ないようで、少女は起き上がることができなかった。


「動かないで、待ってて!」とアポロはすぐさま、建材の端切れを少女の足に添え、携帯していた布で固定する。


 そのあまりの手際の良さに、俺たちはあっけにとられていた。



「アポロ、お前……」

「はへぇ~、意外やね」

「さすがディアナのお兄ちゃんですね」

「ふむ、素晴らしいの」

「完璧な処置でやす」


《………………》



 普段のアポロからは想像もできない迅速な対応だった。



「まだです! 身体が冷えてる……とりあえず、このマントを羽織って、濡れた服を脱いで。伊織さま! 乾いた木を集めてください!」


「は、はいよ!」


「ヴィヴィさま! 彼女の服を脱がすのを手伝ってあげて下さい。あと、伊織さまが木を集めたら火の魔法をお願いします!」


「う、うん! わかった!」


《アポロさま……素晴らしい……ちゃんと出来てますね……》



 ちゃんと? チエちゃん、何か知っているのか……?


 ヴィヴィがばあちゃんの集めた枯れ木に火を点け、暖を取らせた。少女の顔に赤みが戻り、先ほどまで震えていた肩も、次第に落ち着きを取り戻した。



「あ、ありがとう……わ、私、お家の中で寝ていたのに……なんで?」


「多分……君は家ごと土砂崩れに巻き込まれて、ここまで流されたんだと思う。きみ、名前は? ある?」


「……キノ」


「キノ。俺はアポロ。俺たち、君たちの村に行くところだったんだ」


「ウキヤグラに? どうして?」


「えっと……蓮さま」


「うん。初めまして、キノちゃん。俺は大狸商店街の代表をやってる、田中蓮といいます。よろしく」


「よ、よろしくお願いします……」



 俺は戸惑うキノに、ウォルトに頼まれ、集落の救済活動に来たことを伝えた。



「よかった……! ウォルトさん、救い主様の所へたどり着いたんだ! 救い主様が助けに来て下さるんですよね……!」


「あ、ああ」



 ばあちゃんへの期待が凄いな。救い主の噂が独り歩きしていないか? ここでばあちゃんが救い主と聞き、しゃなりしゃなりと歩み出て、キノに挨拶し始めた。



「どぉ〜もぉ〜ぅ、初めましてぇ、私が大狸商店街で稲荷神の巫女をしておりますぅ、江藤伊織と申しますぅ。世間では救い主と呼ばれておりますぅ。どうぞよろしくお願いいたしますぅ」



 相変わらずばあちゃんのあいさつは……しかも何故か、狐の折り紙を名刺のように渡している。あんたは営業のサラリーマンか。



「え、あ、はい、こちらこそよろしくお願い致します。伊織さま……えっと、これは?」


「うちの店のサービス品でございますぅ。うちの、こちらのアポちゃんが丹精込めて折りあげた、しおりでございますぅ。お守り代わりにでも使ってくださいませぇ」



 無性に腹立つな、この喋り方。



「救い主様のお守り……ありがとうございます! 大切にします!」


「ばあちゃん、挨拶はそこそこに。集落の様子が気になる」


「あへ! そ、そうやね」


「みんな、ウォルトの後を追うぞ」



 ――「「「はい!」」」――



「キノちゃん、ウォルトとはぐれてしまった、村まで案内を頼めるかな?」


「は、はい! あ、あの! かか様……私の母も近くにいたはずなので、もしかしたら私と同じように流されているかも……」


「わかった。君のお母さんも探しながらいこう」


「お願いします……!」


「アポロ……いける、よな?」


「……はい!」



 俺たちはくさ戦艦・伊織で上流へと向かった。その間、アポロはしっかりとキノを抱きかかえ、足に負担がかからない様にしていた。




 ◇     ◇     ◇




 キノの案内で集落に向かう途中、キノの母親や、川に流された救助者がいないか慎重に進んだ。切り立った山肌に作られた狭い道を、ばあちゃんが俺たちを乗せて進む。アポロは目と耳に神経を尖らせ、辺りを探っていた。



「誰も……いないと思います! 進みましょう!」



 凄い集中力だ。江藤書店が暇だと、駄々をこねていたアポロと同一人物とは思えない。村で確認するまでは何とも言えないが、幸い俺たちが向かう道のりでは救助者はいなかった。


 キノは、ばあちゃんから貰った狐のしおりを大切に握りしめ、母親の無事を願っていた。


 俺の見間違いだろうか、一瞬、狐のしおりが淡く光ったように見えた。


 上流に向かうにしたがって、瓦礫の数が増えていく。被災の規模が大きくなければいいが……



「もうすぐ村が見えます!」



 村に近づくと、人々の騒ぐ声が渓流の音に混じって聞こえてきた。




 ――――――――――――――――――――――――――――

 ◆ ツクシャナの森南西部・犬狼族の村【ウキヤグラ】 ◆

 ――――――――――――――――――――――――――――




 ――「ここが犬狼族の村、ウキヤグラか……」――



 切り立った山肌に沿うように、木造の小屋がいくつも建ち並んでいる。


 増水や鉄砲水から逃れるため、宙に浮いたような構造だ。ほとんどの家屋は床下は空洞になっており、風が抜けることで湿気を防いでいるのだろう。


 縄橋や木製の梯子が、高低差のある家々を結び、村全体が立体的な迷路のように広がっていた。



「ああ! 私の家が!」



 キノが対岸の村の中腹付近を指さし叫んだ。土砂崩れで山肌が大きく削れ、いくつかの家が巻き込まれている。村人たちが集まっているが、手が付けられないでいた。



「娘が! 私の娘が……!!!」



 崩れた小屋の近くでは、恐らく家の持ち主だろうか、犬狼族の女性が取り乱している。ウォルフがすでに到着しており、女性をなだめていた。



「……かか様! 無事だったんだ!」



 キノの目に安堵の涙が浮かぶ。良かった、どうやらあの女性がキノの母親らしい。しかし、他にも埋もれている人がいるかもしれない。



「行こう! 村の人たちを手伝うぞ!」


「はいよう! 任せんしゃい! みんな捕まっとき! はぁ~……」


「ば、ばあちゃん、ちょっと待て! この状態(くさ戦艦・伊織)じゃ、村の人たちが――」


「とお〜〜〜うぅ!!!」



 ばあちゃんは俺たちごと、ウォルトのいる対岸まで跳躍した。



 ――ひゅ~~~ん……ザスンッ



「へは~はは。こん位の距離やったら、楽勝やね!」



 村人たちは、あまりの出来事に耳を倒し、尻尾を撒いて硬直していた。そりゃそうだ。草の化け物がいきなり空から現れたんだ……誰でもこうなる。



「ばあちゃん……バカ……」


「あり? もしかして、これ、まずかったかね?」



 ――「ば、化け物だ!!!」「に、逃げろ!」「ひい! お助け~!」――



 誰かの一声で我に返った村人たちは、すぐにパニックになった。



「おい! 落ち着くっす! あの方は救い主さま――」



 ウォルトが村人たちを落ち着かせようとするが、パニックは収まらない。


 その時――



 ――ピイィィ~~~!!! ピィ! ピイィ~~~!!!



 アポロが大きな音で指笛を吹き、その音が渓谷に響き渡る。一瞬、村人たちの視線が音の出処、アポロに集まった。


 あとで聞いたことだが、犬狼族はこの指笛の音に敏感に反応するらしく、アポロはその事を知っていて、咄嗟に混乱を収めるのに吹いたという。



「みなさん! 落ち着いて下さい! 私たちは敵ではありません! あなた方の味方です!」



 アポロはそう言って、キノをお姫様抱っこして、くさ戦艦から降りていった。キノの母親が、娘に気付き駆け寄ってくる。



「キノ……キノ! あなた無事だったのね?!」


「かか様! 私、怖かった……かか様〜!!!」


「気を付けて、まだ足の骨折は治っていません。ゆっくりお願いします」


「は、はい! ありがとうございます……ありがとうございます!」



 アポロ……なんなのこの子……


 ここにきて、ちょっとカッコよすぎない?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ