054 金光刃物店(3)~王様~
「王様ぁ!!! どうしてここにぃ?! 一人できたのぅ?」
「そんなわけないじゃない。お付きの連中は、その辺りでわさわさしとるの」
なんてこった……クマロクの王様がいきなり現れた……なんで???
「いやぁ、ツクシャナイトの研究が一段落したからの、大狸商店街の王様と謁見しようと思っての、謁見の日取りを決める書簡を出そうと思ったんだけどの、どうせなら自分で持ってこようと思っての……ワシがきたよ?」
なにそれ、変な喋り方! いや、それ、もう日取り決める必要ないじゃん! もう謁見してるじゃん! なんだ、この王様……
しかしまずいな、本来なら日取りを決めて、俺がクマロクに行くべきなのに。
「あ、あの……初めまして、この街の代表を務めています、田中蓮と申します」
「おお! あなたが! 初めまして、クマロク王国の王、ヒーゴ・アースマインだの。以後、お見知りおきを」
俺はヒーゴ王と握手を交わした。なんてごつい手だ。完全に現役鍛冶師の手だぞこれ。
「すみません、本来なら、こちらからクマロク王国へ出向かわなくてはならないのに」
「いやいや! これはワシが勝手に来ただけの事だの! 新種の鉱石が採れる場所を早く見たくて来ちゃったの。何もお気になさらずに。ぷっぷぷ~」
……変わった笑い方だな……クマロクと言えば大国だ。その王様というからどんな威厳のある人かと思ったが、かなり親しみやすい王様なのかもしれない。バルトだって外務大臣なのにこんな感じだし。
「蓮どの、まずは……お礼が遅れた事をお詫びいたしますの」
「え? お礼?」
「先日の洞窟での事故、一人の犠牲者もなく済んだのは、あなたのお陰だと聞いておりますの……本当に……本当にありがとう」
「いや……あれは俺というか、ばあちゃんやサリサ、みんなの力があったから出来たことで」
「いや、バルトから聞いておりますの。あなたが何の見返りもなく、すぐに助ける判断をしてくれたと……まあ、その……あれだのぅ……いい加減……友好協定、結ばない? ワシらに恩返し、させない?」
…………はい?! おいおい、この人……何の脈略もなく、今いきなり国交の話ぶっこんで来た?! 冗談、じゃないよな。つぶらな瞳で優しい表情だが、瞳の奥が真剣だ。
「えっと~、ですね。それはバルトさんにもお伝えしたのですが、私ども今準備が整っていないというか、まだその時ではなくてですね」
「ふ~ん……まあ、クマロクとしては是が非でも、大狸商店街とは友好協定を結びたいんだけどの……ここに来る途中、街の様子を見て回ってきたけど、なんだか大変そうだの。準備ってその事?」
「そ、そうなんです。今は難民の対応や、ツクシャナの森の集落に救済活動を行う予定でして……あ、今もその為の装備をバルトに見繕ってもらってたんです」
「ツクシャナイトのプロテクターか……バ~ル~ト~! ずるいぞう! こんな面白そうな事、一人でやって~!!!」
わぁ……王様がいきなり切れた。でも、怒り方が、短い手足をばたつかせて、ぷんすか怒っている。むちゃくちゃ可愛いじゃない。
「ごめんよぅ、王様~。怒んないでよぅ~」
「ワシもここに住みたい。ここでバルトと研究したいの」
「だめだめ! 王様はクマロクでちゃんと王様しないと~」
「そうだよね~。それが王様の辛いところだの~。しかし、このプロテクター、かなりいい防具じゃの~。バルト、チエさんに感謝じゃのう」
え? チエさん?! この人、チエちゃんのこと知ってるの?
「初めまして、チエさん。バルトの研究相手になってくれて、ありがとの~」
《私の念話が聞こえるのですか?》
「聞こえるよ~。ワシの耳、特別製での。どんな音でも聞こえる『大地の律耳』 という、クマロク王族だけに伝わる、固有スキルなんだの。これ、鍛冶する時、すんごい役に立つんよ」
《素晴らしい耳をお持ちで。始めまして、知恵の宝庫、チエと申します。どうぞよろしくお願いします》
「あい。よろしくお願いしますの」
「王様は1000年前から続く、始祖の末裔なんだぁ。だから特別な力を受け継いでるんだよぅ」
固有スキル……以前サリサが、この世に数えるくらいしかいないって言ってたけど。1000年前……ローニャが生まれた時代か。
《先ほどツクシャナ原石が隕石であるとおっしゃいましたが、それは何ゆえ》
「ぷふふ、それはね、ワシと地質学者が導き出した答えなんじゃけど……知りたいかの?」
《はい! 是非! ご教授願えますか、ヒーゴさま!》
うわー。チエちゃん、王様にがっつりハート掴まれちゃってるよ。知恵の宝庫だけあって、知的好奇心には抗えないよな。
「でもタダでってのはの~。そうじゃ! その救済活動? ってのに、ワシも同行させてくれんかの?」
「え?! 同行?! いや、それは……」
「森の地質を調べたいし、それに、蓮どのの手腕を見せてもらいたいしの……未来の友好国として」
未来の友好国って……この王様、聞こえのいい言葉を使っているが、ようは品定めってことだろ? 飄々としてるが、とんだ食わせもんじゃないか!
《いいでしょう! 同行してください! 余すことなく、地質であろうが蓮さまであろうが見てください!》
「ちょ! チエちゃん?! なに勝手決めてんの?!」
まずいぞ。チエちゃんが知識欲に負けて暴走し始めた。
《蓮さま……蓮さまはお食事……好きですよね?》
「え?! ああ、まあ……人並みには」
《嘘おっしゃい! 人並みどころではありません! あなたちょっと異常です! 食に対する情熱が! いいですか? バレてないとお思いでしょうが、みんな気づいてますからね? その異常性》
「な?! 異常って、ちょっとだけだよ! ちょっと人より好きなくらいで……なんで俺の話になるんだよ!」
《私の知識欲は、あなたのそれと同じと思ってください。想像してください。食事のない世界を。想い返して下さい。ここへ来た時の、あの悲惨な食事を……》
「それは……結構つらいな。いや、あの頃の食事に戻るのは、絶対にいやだ」
《でしょう? 私が新しい知識を手に入れるのは、蓮さまが毎日美味しい食事をするのと同義。それほどの事なのです。生きることは食べる事、生きることは学ぶこと……お分かりですか?》
「わ、分かったよ」
「話はまとまったかの? 同行、許可してくれる?」
ヒーゴ王……研究者の心を分かってて、この提案したのか……やり手じゃないか。
「いいでしょう。チエちゃんはうちの大事なブレーンですから、彼女の知識が増えるのならば、それは今後の商店街の為になるはず。細かい約束事はあるとして、とりあえず……王様の同行を許可します」
「やったぁ! これでもっと詳しくこの森の調査が出来るぞ!」
「王様~、ずるいよぅ~、そんな話なら僕も行きたいなぁ」
許可を出してしまったが、まずかったかな。勝手に決めた事、ばあちゃんはともかく、サリサにこってり絞られそうだ。
《では、ヒーゴさま! なぜ隕石と思われたのかのご教授を》
「うんうん、それはの、この森の地形じゃよ」
《地形?》
「そうじゃ。この森はぐるりと高い山脈に囲まれておる。そして、その窪みにツクシャナの森がある。これは隕石が落ちた痕……巨大なクレーターだとワシは思うよ」
《クレーターですか! なるほど……》
「遥か昔、この地に魔力を持った巨大な隕石が落ちた。そして、この地形を作り出し、砕けた隕石から溢れる魔力は、生き物たちに進化をもたらした……と、これがワシの考える仮説じゃ。まあ、もっともちゃんと地質調査せんと、はっきりしたことは分からんがの!」
《いえ、素晴らしい仮説です。そう考えると全て納得がいきます。隕石ですか……ふむ》
「さすが王様だねぇ! そう考えると、ツクシャナの森の中心地、大狸商店街付近の洞窟に、ツクシャナイトが多いのも納得がいくねぇ。隕石の落下点だからねぇ」
大狸商店街が……隕石の落下点? まだ確証のある仮説じゃないが……なんだろう……そう聞くと、俺たちがここへ転生したことも、妙に合点がいく話だな。
「あ、あの~、お話、落ち着きました?」
俺たちが隕石の話をしている中、痺れを切らしたアポロが声をかけてきた。
「防具はこれでいいとして、その、そろそろ武器の方も」
「ああ、ごめんよぅアポロくん。ほったらかしにして~」
「あの、出来れば、この剣がいいんですけど」
と、アポロは派手な細工がしてある長剣を物欲しそうに指さした。しかしそれは、どうみても長すぎて、アポロの身体にはあっていない。
アポロ、まだ分かってないのか。武器というのは身体に馴染んでこそなんだぞ! ヴェレド時代のサリサに、全ての武器で干物判定をもらった俺が言うのもなんだが……
「ぷぅ~! 違うでしょう~。君にぴったりな武器は……これじゃないの?」
と、王様が隅に立てかけてあった、地味な棒を指さした。それはアポロのプロテクターにぴったりなホッケースティックだった。
「え……これ……ですか?」
「王様、やっぱり凄いねぇ。これ、この防具とセットで作った武器なんだよぅ。アポロくん~、僕もこれをお勧めするよぅ」
アポロは渋々、ホッケースティックを装備した。
「あれ? なんかこれ……軽くて、なんかしっくりきます。結構いいかも」
「でしょう?」
俺は鍛冶屋の目でホッケースティックを鑑定してみた。
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【ツクシャスティック】
属性 無属性
強度 ★★★☆☆☆☆ (Dランク)
物攻 ★★☆☆☆☆☆ (Eランク)
魔攻 ★☆☆☆☆☆☆ (特殊仕様)
俊敏 ★★★★★☆☆ (Bランク)
レア ★☆☆☆☆☆☆ (Fランク)
特殊効果
魔力蓄積型反発:魔力蓄積と空洞形状により、高反発な打面を構成。少ない力でも石などの物質を弾くことができ、中距離から遠距離の攻撃が可能。
魔力蓄積は打面のみであるため、僅かな魔力付与ですむ。
概要
鍛冶師バルトが開発した新素材で作った棒。軽量設計により、子供でも使いやすい。
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この武器もかなりの優れモノだ。何より、武器から防具まで、完全にホッケーキッズなアポロが……可愛い!
「おい! アポロ! これ、めっちゃ性能がいいぞ! 練習すれば中距離から遠距離の攻撃が充実すると思うよ! 弾けるモノなら、石っころでも何でもいけそうだから、弾切れの心配もいらないし。いいじゃん!」
「え……そんなにいい武器なんですか?」
「いい! 俊敏性なんてBランクもある! 近接戦じゃまだ子供のお前にはハンデがあるが、これなら距離をとって戦える! さすがバルト! いい武器だよこれ!」
「アポロくん……最新技術を~、詰め込んだ~、最先端の~、武器さぁ!」
「俺! この武器がいいです!!!」
そうだアポロ。子供は素直が一番だ!
というわけで、アポロの装備が整った。
外に出る頃には、朝日が昇り、街が賑わい始めていた。サリサにお礼を言いに俺たちはサロン・ド・サリサ向かった。
すでにチエちゃんが事の顛末を念話で伝えたため、サリサは王女らしい、しっかりとした態度でヒーゴ王を出迎えた。
しかし、俺は勝手に王様の同行を決めたことを、案の定こってり絞られた……
「いいか、蓮……絶対に、絶対に王に怪我を負わすようなことはするなよ……この街が滅ぶぞ!!!」
「は、はい……」
救済活動のメンバーが決まった。
代表者である、俺。
治療行為と主な戦闘を担う、ばあちゃん。
集落で食事の提供と指導を行う、ヴィヴィ。
集落の人たちの緊張を和らげるためのマスコット、アポロ。
道案内の、ウォルフとドンガ。
そして、森の地質調査(趣味)にクマロク王国・現国王、ヒーゴ・アースマイン。
なんだ、このパーティー……
ガッチャガチャだな。ちょっと不安になってきたぞ。




