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053 金光刃物店(2)~ツクシャナイト~

 ――「この新素材はねぇ、ツクシャナの森の洞窟で見つけた、新種の鉱石から作ったんだけど……なんと! 金属と泡の性質を持ってるんだぁ!」――



 俺とアポロは、まだ街が目覚める前の早朝から、バルトの鍛冶工房スミス・マルチーズに来ていた。



「じーーー……」



 新作のホッケープロテクターを身にまとい、アポロは、飾られている鉄の鎧を無表情でじっと見つめている。そっちが欲しいのね。



「泡の性質? 鉱石が?」


「そう、ツクシャナイトって名付けたんだけど、この鉱石、特殊な方法で精製して、いくつか工程を経ると――」


《……あの……バルトさま! すみません! 私も解説に加わらせて頂いても宜しいですか!》



 ここでチエちゃんが、我慢できず声をあげた。



「チエさんも解説したいのぅ?」


《それはそうでしょう。私もツクシャナイトの研究には携わっているのですから。バルトさまだけ解説するなんてずるいです!》


「チエちゃんも関わってるんだ?」


「そうだよぅ。チエさんと僕で色々試行錯誤して作ったんだよねぇ。もちろんいいよぅ! 一緒に解説しようねぇ」


《ありがとうございます!》



 というわけで、チエちゃんとバルトによる『ツクシャナイト解説講義』が始まった。




 ◇     ◇     ◇




《それではツクシャナイトについて、バルトさまと私が研究した結果を発表します》


「よろしくお願いします」



 大きな木の机の上には『ツクシャナイト』が置いてある。灰色の石で、触らせてもらったが、非常に軽くて硬かった。



「まずは鉱石の説明をしようかねぇ、チエさん」


《そうですね。鉱石や金属は本来、その内部で原子、つまり小さな粒が規則正しく、強く結びついてできています》


「強く結びつくって事は、硬いって事ね?」


《ええ。ですが、ツクシャナイトはその構造が特殊です。原子の結びつきに『空洞』があるようなのです。この空洞が――》


「ちょっと待って! 原子の空洞? そんな小さなものどうやって調べたの?」



 バルトが、ぼさぼさの髪の毛を掻き分け「ほうほうほう……それはねぇ」と、つぶらな瞳を覗かせ続けた。相変わらず、なんてマルチーズな瞳なんだ。



「僕が元々持ってた『鉱石鑑定眼』のスキルと『鍛冶屋の眼(ギア・ジャッジ)』を掛け合わせて『鍛冶神の審判ヘパイストス・ジャッジ』ってスキルが出来たんだぁ。


 『鍛冶神の審判ヘパイストス・ジャッジ』のお陰で、鉱石内部の構造や性質が、まるで手に取るように見えるんだぁ」


「すご……バルト……進化しすぎじゃない?」


「いやぁ。そうは言っても、現状を観察するだけで「なんでそうなったか」とかは分からないから、一生研究だよぅ。クマロクでも王様はじめ、研究者たちが新種の研究をしているけど、僕だって負けられないからねぇ」



 新種の鉱石の研究は、ドワーフの栄誉だって言ってたもんな。本当に石が好きなんだな。



《それでは次に、この性質がどのように装備に応用されているかを説明します》


「お、きた! 聞かせて!」


《ツクシャナイトのこの空洞……厳密には原子の欠損ですが、面白い性質に気付きました》


「ツクシャナイトは、高温で溶かして液状になっても、空洞が維持されるんだぁ。普通の金属じゃこうはいかない。面白い性質だよぅ」


《要するに、溶けて液状になっても、中はスポンジ状と思ってください》


「へぇ……溶けてもスポンジ……あ、だから泡の性質か!」


《そうです! さらに、この空洞には『魔力を蓄積する特性』があります。まるで魔力の貯金箱です!》


「しかもしかも! 低い温度で溶けやすくて、加工しやすいんだぁ! 溶けたツクシャナイトを型に流し込めば、空洞を含んだ、軽くて頑丈な防具がすぐにできるってわけさぁ!」


《なんと素敵な性質でしょう!》


「最高だよぅ!」


《ふふふ!》「ほうほうほう!」



 バルトのつぶらな瞳が、まるでおせちの黒豆のように輝いている。この二人、研究好きという点で、かなり気が合うんだな。



「まるで金属のウレタンフォームみたいだな」


《そうですね。実際にある金属フォームに、かなり近いと思ってもらって構いません。金属フォームは航空宇宙産業などで使われる、耐久性と軽量性をもった最先端の素材です》


「最先端……すげ……おい! アポロ! 聞いてる――」



 鉄の鎧をまだ見ているのかと、アポロに声をかけようとしたが――


 アポロはいつの間にか俺の隣に座り、目を輝かせてバルトとチエちゃんの講義に聞き入っていた。


 ふふ。いいぞアポロ! そうだ! 男の装備は見た目じゃない……性能だ!



「つまりだねぇ、アポロくんの今身に着けているプロテクターは、軽くて丈夫で、魔力による防御が出来て、加工しやすく、大量生産しやすくてぇ、新種の素材を使った最先端の装備ってことさぁ!」


「俺!!! このプロテクターがいいです! 蓮さま!!!」


「ああ! アポロ……ああ!!!」



 俺とアポロは、がっちりと熱い握手を交わした。確かに、ばあちゃんが言ってたように、こいつ……俺と似ているかもしれない。



「あ、大量生産できるから、レア度がFランクってことか!」


「そうだよぅ。ツクシャナイト自体は洞窟にゴロゴロ落ちてるからねぇ」


「なるほど……あ、ねぇねぇ。この素材さ、防具だけじゃなくて、色んな所に使えるんじゃない?」


「いろんな所ってぇ?」


「例えば建材とか。型に流し込めば、すぐに成型できるんだろ?」


《そうですね。これほど使いやすい素材を、防具だけに使うのはもったいないかもしれません。バルトさま、ツクシャナイトに改良を施して、もっと汎用性を高める研究をしましょう!》


「ほほほう! これは凄いことになりそうだねぇ! めっちゃ面白そうだよぅ!」


「俺! なんかこのプロテクター、めっちゃいい感じに思えてきました!」



 アポロも男の装備に目覚め、バルトもツクシャナイトの可能性に気付き、大盛り上がりである。早起きした甲斐があったってもんだ。



 ――「そもそも、何で空洞があるのかの?」――



「そうだよ……なんでツクシャナイトはそんな構造をしてるんだ?」


《蓮さま、良い質問です。ツクシャナイトの空洞部分……もともと何かがあった可能性がある。そして魔力の蓄積性能……バルトさま、あれを》


「ほうほう、任せて」



 チエちゃんに促され、バルトは、というより『二人の鍛冶師(ダブル・ハンマー)』の影の方のバルトが、うっすらと緑色に輝く鉱石を持ってきた。これ凄い便利じゃん。


 影バルトは、ツクシャナイトの隣に、その緑色の鉱石を置いた。


「この緑色の魔鉱石はツクシャナ原石。この灰色の石はツクシャナイト。どちらもツクシャナの森でしかとれない希少鉱石だよぅ。ツクシャナ原石は他では見られないくらい魔力を保有している、上質な魔鉱石なんだぁ」


《この二つの鉱石ですが、三か月前、フレイムリザードとマンイーターが現れた洞窟で採れました》


「ああ、あそこか」


「蓮さんはツクシャナの森から出たことないから知らないだろうけど、あそこの魔物の大きさは異常だよぅ。あんな大きなフレイムリザードもマンイーターも見たことない」


「そう言えば、サリサもそんな事いっていたような……」


《基本、魔物の大きさというのは、内包している魔力の総量に応じて、大きくなる傾向にあるようです》


「そうなんだぁ。ツクシャナの森全体を見ても、巨大で強力な魔物が多い……これはこの森の魔物が『魔力の保有量が多い』って事に直結するんだけどぉ、その由来がわからない」


《そこでツクシャナイトです。これは『元々、ツクシャナ原石だったのでは』と仮定しました》


「え? 元は同じ鉱石ってこと?」


「うん。ツクシャナ原石とツクシャナイトの原子構造はそっくりなんだ。違うのは、空洞部分に魔力があるか無いかの差だけだねぇ」


《そこでバルトさまと私は、ツクシャナ原石のもつ魔力が、長い年月をかけ漏れ出し、生き物の生態に影響を及ぼした……と仮説を立てました》


「そう考えればぁ、ツクシャナの森の魔物が異常に進化した説明も付くし、ツクシャナイトの空洞や、魔力蓄積の性質も納得がいくよねぇ」



 なるほど。だからこの森の魔物は強いってわけか。あ、でも……



「じゃあさ、なんでツクシャナ原石はそんなに魔力を持ってるの? その魔力はどこからきたの?」


「う~ん……それは分からないなぁ。僕が分かるのは石の性質だけだし、その辺りの事は、クマロクの地質学者たちの方が詳しいんだけどぉ……王様とかねぇ」



 ――「おそらくツクシャナ原石は、隕石の可能性があるの」――



「え! 隕石?! 隕石って――ん?…………だ、誰???」



 俺たち以外に、誰か……いる???


 その場にいた全員が予想外の声にフリーズする。


 あれ? この流れ……前にもあったような……


 声がした方に目をやると、机のふちから金色の角みたいなものが覗いている……俺たちは慌てて、カウンターの下を覗き込む。


 そこには、金色の王冠をつけたドワーフの姿があった。



「「どわーーーーーー…………ふ???」」



 俺とアポロは、いつぞやのばあちゃんとヴィヴィと同じリアクションをした。



「王様ぁ!!!」


「え?! 王様?!」



 なんてこった……この人がクマロク王国の王様……ていうか、この人、ちょっと前から会話に入ってたよね?! なんでドワーフって勝手に会話に入ってくるの?!


 そういう習慣でもあるのかよ!






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