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052 金光刃物店(1)~ホッケーキッズ~

 ――「蓮さま! 起きてください! 鍛冶屋! 鍛冶屋行きましょうよ!」――



 翌朝、まだ日が昇る前からアポロにたたき起こされた。夏の太陽より早起きとは。いや、こいつ寝てないな。眼が真っ赤だ。蝉もまだ泣いてないぞ。勘弁してくれ……



「ええ? いま何時? まだ暗いじゃないか。開いてないって」


「四時です! 大丈夫ですって! 鍛冶屋の朝は早いですから! はやくはやく!」



 アポロのテンションが明らかに上がっている。まあ、その気持ちは分かるぞ。新しい装備を貰えるって言われたら、俺が10歳だったら同じように舞い上がっているだろう。



「どんな装備が貰えるんですかね! 俺、カリスさんみたいな大剣使ってみたいんですけど! ああ~、でもタリスさんみたいな大斧もカッコいいかなぁ~! ぐお~! ドスン!って!」



 アポロよ。あんなデカい武器を渡されたら、お前、一歩も動けず旅に同行出来ないぞ。


 俺はまだ寝ていたかったが、あまりにもアポロがうるさいので、仕方なく朝の商店街を散歩がてら、スミス・マルチーズに向け出発した。




 渋ったものの、日が昇る前の商店街は、涼しい風が吹き心地よい。


 そういえば、まだばあちゃんと二人だけの時に、朝の商店街を散策したな。あの頃と違って、街には早朝だというのに人がちらほら見える。夜行性の亜人たちが、狩りや外壁の仕事を終え、キャンプ地に戻るところか。


 お、あの集団は……犬狼族か。



「蓮さま! 今日はお早いっすね!」と犬狼族のリーダー、ウォルフが尻尾を振りながら話しかけてきた。



「ああ、ちょっとね。今度の救済活動のための装備をね」


「こんな朝早くから……ありがとうございまっす!!! よろしくお願いしまっす!」


「ウォルフは? 仕事終わり?」


「はいっす! 俺ら犬狼族は食材の調達を任されてるっす! これからヴィヴィ食堂にこれを持っていくっす!」



 ウォルフ達犬狼族は、大きな荷車を見せてくれた。中には狩ってきた魔物と山菜などの食材がたくさんあった。食識の眼(ガストロヴィジョン)で見てみると、中々に良質の食材ばかりだ。ただ、魔物は戦った時に随分苦戦したのか、少し質が落ちていた。よくみるとウォルフ達も怪我をしている。



「ウォルフ、無理してない? 大丈夫?」


「え?! あ! 怪我っすか? 大丈夫っす! このくらい二晩寝れば!」



 二晩……それじゃ次の日は傷を抱えたまま、狩りに行かなくちゃならないじゃないか。それを無理っていうんだけどなぁ。



「ねぇ、どんな風に狩りをしてるの?」


「えっとっすね~……みんなで囲んで、おりゃ~って感じっすかね!」


「囲んでおりゃ~」



 聞くと犬狼族はその習性からか、とにかく大勢で獲物を囲んで、とにかく突っ込むという戦い方をするそうだ。それは格下であろうと格上であろうと変わらぬ戦法らしく、格下相手ならそれでいいだろうが、格上となると、あまり利口な戦い方とは言えない。


 だがその気質上、たとえ相手がどんなに強かろうが、それが犬狼族のやり方なのだという。



「なんだか野武士の突撃みたいだな」


「なんすか? 野武士って」


「いや。あのさ、自分たちより強い相手と戦うときは、もっと別のやり方というか、例えば距離をとって毒矢とか使えばいいんじゃないかな?」


「え~、毒矢っすか? 翼人族じゃないんすから~。そんな戦い方しませんよ~」


「翼人族は弓を使うんだ」


「そっす。あいつらやばいっすよ。空から滅多打ちっすもん。でもそのせいで、食材ボロボロになるんですけどね~」



 いや、君たちの食材もかなり痛んでるよ。そうか、種族間で得意な戦い方があるんだな。これはサリサに言って、種族間の協力体制を取った方がよさそうだな。



「とりあえず、なるべく怪我の無いようにね。ばあちゃんに言っとくから、あとでくさ汁飲ませてもらいな」


「う……伊織さまのくさ汁……わ、わかったっす」



 ウォルフ達犬狼族は、明らかに嫌そうな表情を浮かべ尻尾を下げた。分かりやすいなぁ。


 アポロは俺とウォルフとの会話中、早く行きたくて、遠めからじっと俺を見ていた。



「じーーー…………」



 猫特有のあの無言のアピールだ。ヴィヴィもそうだが、時折、猫亜人は言いたいことを口にせず、ただ無表情で見つめてくる時があるので、すこし戸惑う。が、ようは慣れだ。



「ごめんごめん。行こうか」


「はい!」



 要求が通ると、すぐに普段通り。これはこれで分かりやすい。




 ◇     ◇     ◇




 ――キン……キン……カキン……カンカンカン……



 商店街に槌の音が響いてる。鍛冶の音だ……アポロの言う通りこんな朝早くから作業してるのか。



「おはようございます! バルトさん!」



 スミス・マルチーズ――


 旧金光刃物店(かねみつはものてん)は、大狸商店街唯一の刃物の研ぎ屋だった。片田舎の商店街だったので、包丁研ぎだけでなく、鎌や(くわ)などの農作業用の道具の研ぎもやっていた。金光のおいちゃんの腕前は確かで、おいちゃんが研いだ刃物は恐ろしいほどよく切れた。そのおいちゃんの跡をバルトが継いだというわけだ。


 奥の作業場から、バルトが汗まみれで出てきた。そうか、夏場は涼しいうちからやんないと身体がもたないのか。ドワーフは暑さに弱いって言ってたもんな。いくらサリサの空調服を着てても、鍛冶場の熱気には勝てないだろう。



「おはよぅ! アポロくん早いねぇ。おはよぅ! 蓮さん」


「おはよう、バルト。いや、アポロがもうやってるから、早く行こうってせっつかれてね」



 アポロは、店内に所狭しと飾られてある、武器や防具に目を輝かせている。この年頃の男の子にはたまらないだろうな。



「サリサさんから話は聞いてるよぅ。アポロくんの装備一式だろぅ?」


「ああ。ほら、アポロ」


「あ! はい! きょ、今日はよろしくお願いします!!!」


「まずは防具からいこうかぁ。サリサさんからアポロくんのサイズは教えてもらってるから、こっちで見繕ったよぅ」


「え?! そうなんですか?! 俺のサイズ、いつの間に」



 アポロ、お前きっと、仕立屋の眼(テイラーズ・アイ)で勝手にみられてるぞ。生まれたままの姿を。これは内緒にしといてやろう。10歳の少年の心に傷がつく。



「アポロくんには、これがいいと思うんだぁ。うちの新作なんだけど」



 そう言ってバルトは軽装の装備一式を出してくれた。しかし、その見た目は異世界らしくなく、何と言うか……まるでアイスホッケーの選手がつけるヘルメットとプロテクターそのものだった。


 そのあまりに予想外の仕上がりに、アポロのテンションが明らかに落ちている。



「バルト、これって」


「うん。伊織さんの所の書物に『軽くて丈夫』って書いてあったから、僕なりにアレンジしてねぇ」


「とりあえず、つけてみようよ、アポロ」


「は、はぁ」



 プロテクター一式を装備したアポロは、どこからどう見てもホッケーキッズだった。いや、これはこれで可愛いぞ。それに、この既視感……この異世界で『現代社会感』があるのが何よりいい! 俺のスーツだけずっと浮いてたからな!



「アポロ! 似合ってるよ! ヘルメットなんか猫耳になってて可愛いじゃん!」


「かわ……いや……俺はかっこいいのが……はい……」


「これねぇ、見た目はあれだけど、凄いんだよぅ~」


「へえ、どんなの?」


「蓮さん、鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)があるんだから、それで視てみるといいよぅ。使わないと宝の持ち腐れだよぅ! ほうほうほう!」



 そうだった。金光刃物店の恩恵、鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)があったんだった。



「チエちゃん、鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)ってどんなだったっけ?」


《はい。鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)は――



 ――――――――――――――――――

鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)


 能力:

 ・装備の超鑑定:武器や防具を見ただけで、その素材、耐久性、付加効果、さらには隠された特性まで正確に把握可能。


 ・魔力付与視覚:装備に込められた魔力の流れを視覚化し、魔力効率を最大限に引き出す調整ができる。


 ・適応能力判定:装備を使用する者の特性(体格、魔力特性、戦闘スタイル)に基づき、最適な装備や改良点を提案可能。

 ――――――――――――――――――



 となっていますね。


 ちなみに、バルトさまの『鍛冶』のスキルは進化し、『二人の鍛冶師(ダブル・ハンマー)』となっております》


二人の鍛冶師(ダブル・ハンマー)? 二人?」


「ほうほうほう! よく見てよぅ蓮さん、ほらぁ」



 よく見ると、バルトの後ろに全く同じような、黒い人影があった。



「あ、本当だ! 薄暗くて分からなかった。なにそれ? 影?」


「影みたいに黒いけど、実体はあるよぅ~。こいつがなかなか便利でねぇ~。僕の思うように作業を手伝ってくれるんだぁ。鍛冶も倍速で進むよぅ!」



 元々バルトは凄腕の鍛冶師。それが阿吽の呼吸で動く、二人の鍛冶師(ダブル・ハンマー)を手に入れたことで、生産性が爆上がりしたらしい。



「僕のことはいいから、ほらぁ、鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)で見てみてよぅ~! 新作の性能~!」


「ああ、そうだな。じゃあ……鍛冶屋の目(ギア・ジャッジ)!」



 おお! 視界が緑色になり、アポロの周りに装備の情報が浮かんでいる! これは、まるでス〇ウターみたいじゃないか! なになに……



 ――――――――――――――――――

 【ツクシャプロテクター】


 属性 無属性

 強度 ★★☆☆☆☆☆ (Eランク)

 物防 ★☆☆☆☆☆☆ (特殊仕様)

 魔防 ★★★☆☆☆☆ (Dランク)

 俊敏 ★★★★☆☆☆ (Cランク)

 レア ★☆☆☆☆☆☆ (Fランク)


 特殊効果

 魔力蓄積型防御:魔力蓄積により、三度まであらゆる物理攻撃を無効化可能。ただし、範囲攻撃や魔法攻撃は防げない。


 魔力蓄積は装備者の魔力から行われ、再度魔力を充填すれば防御回数は回復する。満タンにするには一晩ほどかかる。魔力の再充填中は、通常の物防と魔防に依存する。


 概要

 鍛冶師バルトが開発した新素材で出来た軽装備。軽量設計により疲労が軽減され、俊敏性を求められる戦闘に最適。

 ――――――――――――――――――



「あらゆる物理攻撃を三度までって……バルト、これ凄くない?」


「ほうほうほう! 凄いでしょう~。これが新素材の効果なんだぁ~」


「え、こんなに凄い性能なのに、レア度は最下位ランクのFってどういうこと?」


「それも新素材の秘密なんだぁ。実はこの新素材、ツクシャナの森からとれた新種の鉱石から作ったんだけどぉ~、僕の話、聞くぅ?」


「聞く聞く! なんかすっごいワクワクしてきた! なあ! アポロ!」


「はぁ……はい。ですね」



 こいつ……見た目が気に入らないもんだから、全然乗り気じゃないな。


 しかし甘いぞアポロ。男の防具は見た目じゃない。性能が一番だ。どんな派手な装備であろうと、性能が劣っていては話にならない。男の防具は性能が全てなのだ。


 そう、男はな……



「バルトさん、俺、こっちの鉄の鎧の方がかっこいいと思うんだけど」


「アポロくんにはちょっと重いんじゃなぁい? そのプロテクター、優れモノなんだよぅ?」



 だが女は別だ。


 性能は大事だが、見た目を優先してよい。いくら性能が良かろうと可愛くなければ装備させてはならぬ。ならぬのだよアポロ。


 多少弱くなろうとも、自分好みの装備をしている女性キャラを、ごりっごりに固めた男性キャラが護る。


 それが、俺がドラゴンファンタジーで培った美学だ。古いと言われようとこの美学は変えるつもりは……ない!


 アポロよ、まだまだお子様だな。見た目の派手さに惑わされているようじゃ――



「――あのぅ。蓮さん、なにブツブツ言ってんのぅ? 説明するよぅ?」


「ハッ! ああ! お願いします!」



 新装備に一番舞い上がってるのは、俺かもしれない。


 バルトが開発したこの新素材が、まさかツクシャナの森、いや、もっと大きな、ヒズリアの歴史に関係してくるとは、ゲーム脳になっているこの時の俺には知る由もなかった。


 防具の説明……めっちゃ楽しみ!!!






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