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033 アポロとディアナ(1)~こわい神輿~

 ――「みょーん……みょんみょん」――



 ドワーフの救出劇からはや三か月。


 梅雨が過ぎ、ツクシャナの森にも夏が来た。ヒズリアの蝉は、どこか口琴を思わせる、不思議な声で鳴いている。


 気温は暑いと言えば暑いが、そびえる森の木々が程よく陽の光を遮り、大きな幹の間を風が心地よく吹いており、思ったより快適だ。ばあちゃんの『くさ矢間伐』の効果もあるのかも。



 ――『あっちの森で遊ぼうぜ!』――

 ――『だめだって! また怒られるぞ!』――



 商店街の大通りから子供たちの賑やかな声がする。江藤書店に吊るされた風鈴が爽やかな風を報せ、その風情は完全に田舎の夏休みだ。


 あれからバルトとも店主の契約をし、金光刃物店(かねみつはものてん)を開放した。これで江藤書店を含め、四つの店のシャッターを開けたことになる。


 シャッターが降りた店は、まだまだあるが、この三か月、本当に色んなことがあり、新たな店を開放できずにいた。


 というのも、大狸商店街の規模は、三か月ほど前までは、森に迷い込んだ旅人が、疲れを癒すドライブインくらいのものだったが、ばあちゃんがやらかした『あること』が原因で、人口が急激に増え、俺たちはその対応に追われていた。



 ――「えー、では町内会議を始めたいと思います!」――



 今日は、新たな仲間たちを迎えての初めての町内会議だ。街の代表者――つまり、商店街の店主や従業員たちが、江藤書店にあつまり、街の様子の報告や、今後の展開を話し合う予定だ。


 店舗中央に設けた会議用のテーブルの上には、簡易的な森の地図や、その他の情報をまとめた紙束が置いてある。それらを取り囲み、街の代表者たちが座っている。



「あれ? サリサ、カリスとタリナは?」


「すまない。新しい服を仕立てたので、それを着てくると言っていた。初めての会議なのでどうしてもといって聞かなかった」


「そうか……じゃあせっかくだし、二人が来るまで待つか」



 メンバーは――


 ・江藤書店からは、店主『江藤伊織』

  従業員、猫亜人の男の子『アポロ』


 ・ヴィヴィ食堂からは、店主『ヴィクトリア』

  従業員、猫亜人の女の子『ディアナ』


 ・サロン・ド・サリサからは、店主『サリサ・ヴェレドフォザリ』

  それとまだ来てないが、従業員『カリス』と『タリナ』


 ・スミス・マルチーズからは、店主『バルト・ゴールドマイン』


 それと商店街の管理人である俺だ。



 え? 人が増えて、名前覚えられないって? 大丈夫、順を追って話すよ。


 まずは出会った順番に。江藤書店とヴィヴィ食堂で働いている、アポロとディアナの兄妹について話そう。


 あ、そうそう! この兄妹と出会ったおかげで、大狸商店街の恩恵について、新たな発見があったんだ――




 ◇     ◇     ◇




 ドワーフの救出劇から10日ほどたったある日、俺とばあちゃんはツクシャナの森を探索していた。


 ばあちゃんがマンイーターの技を盗んで以来、森の探索が非常に楽になった。


 足場の悪い森林を『くさ足(蜘蛛のような根っこの足)』や『くさ手(マンイーターの三種の触手)』を駆使して、ガサガサと苦も無く蜘蛛の様に駆け巡り、俺はその背中に乗っているだけでいいのだ。


 ばあちゃんはこの状態に『くさ神輿(みこし)』と名付けた。マジでどうにかしてくれ、このネーミングセンス。


 森林探索の主な目的は、新たな食材の確保だ。


 新たな食材は、ヴィヴィ食堂の恩恵『増える冷蔵庫』の起動者である俺自身がやらないと増えない。商店街周辺の食材はほぼ確保したので、加護の力が弱い、外の森の強力な魔物を狩る必要がある。


 つまり、俺の戦闘訓練と、広大なツクシャナの森のマッピングも兼ねた、一石三鳥の探索だ。


 マッピングはチエちゃんが自動的にやってくれ、俺たちにヴィジョンとして共有してくれる。本当に知恵の宝庫さまさまだ。


 この日は、森の北西部の探索に出かけていた。そこで俺たちは、猫亜人の兄妹『アポロとディアナ』に出会うことになる……



「蓮ちゃん! 人の声がするばい! 子供の声! 魔物もおる!」


「場所は?!」


「このまま真っすぐ! 150メートル!」


「状況は?!」



 ばあちゃんの森林探索スキルも、効果範囲が半径150メートルにまで延び、よほどのことがない限り不意を突かれることはない。サリサがばあちゃんの事を『この森の主』と表現したのは、あながち間違っていないのかもしれない。


 ばあちゃんは指で輪をつくり『エルフの眼』で、声の方を確認した。



「猫亜人の子供二人! 熊の魔物と……あいた~、ミルコクロコップ(ムッキムキのウサギの魔物)がおるばい! いかんばい! あん子たち……追い詰められとう! くさ矢、撃つね?!」


《伊織さま! いけません! 伊織さまのくさ矢の威力では、子供たちも巻き添えをくいます!》


「チ、チエちゃん! そ、そうやね! はわわわ! どげんしょう!」


「俺が行く! ばあちゃん! 俺を飛ばせ!」


「は、はいよ~!」


「チエちゃん! 神槌(しんつい)行くぞ! 潜魂者(ダイバー)で魔力演算頼む!」


《はい!》



 ばあちゃんは捕縛用の触手で足場を作り、カタパルトの様に俺を目標に向かって飛ばした。俺は発射の瞬間、神槌(しんつい)を発動し足場を蹴り、さらに加速させる。



 ――ダッ……ズヒュン!!!



 空気の壁が一気に体に圧し掛かり、視界の端が急激に流れる。俺の身体は弾丸の様に、凄まじい速度で森の中を突き抜けた。



(いた! チエちゃん! あと何秒動ける?!)



 神槌(しんつい)発動の間、俺の思考速度は加速する。弾丸の様な速度の中でも、チエちゃんと思考のやり取りが出来るようになった。



《あと3秒ほどです。それ以上は行動不能の危険があります。熊の魔物クレセントベアとミルコクロコップことアルミレックスが確認できました。クレセントベアは爪に毒を持っています》


(あいつらの強さ、どんな感じ?)


《アルミレックスは依然申した通り、バズーカーを持った関取、十両クラス3人分。クレセントベアは硫酸を持った関脇クラス5人分といったところでしょうか》


(りゅうさ……なにそれ、こわ!)



 チエちゃんは敵の強さをよく相撲に例える。完全にばあちゃんの影響だ。生前、ばあちゃんは狂ったようにTVにかじりつき相撲を観ていた。



《いけますか?》


(行くしか……ないっしょ! このまま一手で決める!)



 俺はカタパルトの加速をそのままに、両手に鎖を取り出した。バルトが俺の為に作ってくれた、俺専用の鎖だ。魔力を通しやすい鉱石で作られており、細くて軽いのに強度が強い。


 魔物たちは、背後から俺が来ていることにすら気が付いていない。俺は二匹の魔物とすれ違いざまに、鎖を首に施錠(ロック)した。


 すかさず鎖に雷撃を流し、フレイムリザードをやった時の様に、最高速度で鎖を引く。雷撃を纏った鎖は、二つの光輪を描き、魔物の首を落とした――



「ふう。上手くいった。これ、不意打ちだったからよかったけど、まともにやってたらどうなの?」


神槌(しんつい)での状態は除外するとして、蓮さまの今の素の強さは『ちびっこ相撲』県大会初戦敗退レベルなので……完全にボコられます》


「あー……でも一応、地区予選はクリアしたのね」


《まあ、戦いとは単純な強さで比べられるものではありません。今の様に、蓮さまの最大火力を油断して受ければ、格上の者でも一撃でやられます。大番狂わせ……まさに相撲と同じです。蓮さまも格下相手に油断なさらぬよう》


「はい。肝に銘じます……ごっつぁんです」



 チエちゃんはいつも冷静だ。彼女が最初の恩恵――いや、仲間だったから、俺たちはこの世界で生き残れた。よくよく考えれば、この世界で生前の俺とばあちゃんを知っているのは彼女だけなんだな……


 おっと、それはそうと――


 猫亜人の子供たちは、状況が把握できず、怯え震えている。男の子の方は目も醒めるような銀髪、女の子の方は、白と黒と茶が交互に混じった不思議な髪色をしている。あ、猫亜人だから三毛猫ってことか。男の子はロシアンブルー系かな。


 男の子は女の子を抱きかかえるように庇っている。その腕は震え、傷だらけの手足には血が滲んでいた。相当この森を彷徨ったのだろうか。女の子の方は、うっすらと瞳をあけているが、ほとんど意識が無いようで、衰弱がひどい。


 首に見覚えのある紋が刻まれている。隷属の紋……奴隷か……



「おい、大丈夫か? 動けるか?」



 男の子が険しい表情で俺を睨みつけ、眼に涙を浮かべながらこう叫んだ。



「にゃんごろごろにゃん! にゃんごろシャー!」


 ・


 ・


 ・


「……はい? なんて?」


「にゃにゃぐるにゃぐる! おえ! おえ! フーにゃシャー!」


「いや、猫か!」


《猫です。蓮さま》


「あ、そうか」



 どういうことだ? 何か訴えているようだが、全く言葉が通じない。変だな……ヴィヴィの時は言葉が通じたのに。この子たちは一体何が違うんだ? 言葉が違うのか?



《蓮さま、かなり衰弱がひどいですね。このままでは命の危険があります》


「ああ、とりあえず商店街に連れて帰ろう。なぁ、君たち。俺は、君たちの味方。危害を、加えるつもりはない。安全な場所、知ってる。一緒に、来ないか? 言葉、分かる?」



 俺は出来る限りゆっくりと語りかけ、手を差し伸べたが、男の子は「フーーー!」と威嚇し、頭が伸びた。うん。ヴィヴィと同じだ。怒ってますね。


 俺が困っていると、ばあちゃんが追い付いてきた。


 あ! やばい! 今のばあちゃんの姿、『くさ神輿』を見たら完全に魔物だと勘違いするぞ!



「ばあちゃん! こないで――」


「蓮ちゃーん! へははぁ! 凄いねぇ! 一発で仕留めたねぇ! へへへぇ! 子供たちも無事みたいやねぇ! へへへはぁぁぁ~!」



 くさ足とくさ手を使って、巨大な蜘蛛のように動き回るばあちゃんが、気持ち悪い笑い方で森の中を素早く駆け抜けてくる。これでは完全に化け物だ。



 ――「「お! おえ~~~! ガク……」」――



 さぞかし怖かったのだろう。猫亜人の子供たちは激しくえずき、白目をむいて気を失った。そりゃそうだ。俺も初めて見た時は気絶した。とはいえ、気を失ってくれた方が、保護するのに好都合だった。


 俺とばあちゃんは、この可愛らしい兄妹を大狸商店街へと連れ帰った。











 ⛩――【大狸商店街へお越しの皆様へ】――⛩


 本日は、数ある商店街の中から大狸商店街へお越しいただき、誠にありがとうございます!


 第二章「統治篇~夏~」が始まりました!


 この街の物語が少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じていただけましたら――


 ・大狸便り(ブックマーク登録)

 ・大狸基金(リアクションや☆☆☆☆☆での評価)

 ・目安箱(感想、レビュー)


 これら三つの応援が、大狸商店街復興の何よりの力になります!


 それでは、第二章もどうぞよろしくお願い致します!


 大狸商工会・青年部 田中蓮(独身)


 ⛩――「みょーんみょん 何かと思えば デカい蝉」――⛩

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