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096 先代超え

挿絵(By みてみん)

「ば、ばあちゃんからどうぞ」


「え? いいん?」



 目の前置かれた美しいラーメンは、湯気を立て、その粒子がキラキラと光っている。



「ああ。ばあちゃんが一番、勝っちゃんおいちゃんの味を知ってるからな」


「分かった……じゃあ――」



 ばあちゃんは薄く脂が張ったスープをレンゲでひと掬いし、口元に運んだ。



「……ッ!!! こ、これは! ち、違う……勝っちゃんの味に近いけど――全然違う!」



 ――「「「え?!」」」――



 嘘だろ……あれだけ苦労して作ったのに、失敗なのか?! 



「蓮ちゃん!」


「あ、ああ!」



 俺はばあちゃんに促され、スープをひと飲みした。


 これは――



「う、美味い? 勝っちゃんおいちゃんのスープより……断然美味い!!!」


「やろ?!」


「め、麺は!」



 俺とばあちゃんは美しく折りたたまれた麺を箸で持ち上げ、一気に啜った!



 ――ズルル



 豚独特の臭みが一瞬鼻を抜けるが、直後、小麦の甘い香りがそれを包み込み、食欲の導火線に火をつける!


 サクサクシコシコと噛み心地の良い細麺がスープと絡み、混ざり合い……口の中で化学反応を起こす!


 やばいぞこれ……止まらん!!!


 早く二口目を!



 ――ズルルルル~~~!!!



 二口啜って実感した! 麺が! この強いスープをしっかりと受け止めている! しかもただ受け身にまわってるわけじゃない! スープの味を完全に補完、倍増させている! 甘味・塩味・香味・食感……それらが混然一体となって口の中で爆発する! 舌が『味わいたさ過ぎて』過剰に動く! 落ち着け……舌を噛むぞ!



「ヴィヴィ……このスープ、前のと違うだろ? 何した?」


「やっぱりお気づきになられましたか。麺を変えたので、スープに入れる香味野菜の量や、炊き込み時間、かえしの出汁の分量などを若干調整しました。また、グルタミン酸、うま味を大量に投入するという事でしたので、他の旨味もバランスが良くなるように補強してみたんですが……ダメでしたでしょうか?」



 ダメどころの話じゃない……


 初めて使う麺、初めて入れるうま味調味料、それらを考慮してバランスを調整したってことか?! まじで天才過ぎるだろヴィヴィ! これは勝っちゃんおいちゃんのラーメンを再現するどころか――完全に超えている! もはや別物。おいちゃんのラーメンをベースに全く別次元の美味さになっている!



「こりゃ、えらいこっちゃ!!! ちょっと~~~! あんたたち~~~!!!」


「ばあちゃん! どこ行くの?!」



 ばあちゃんは何を思ったか箸をおき、外に飛び出した。



「街のみんなに知らせんと! こんな美味いもん独り占めしたらいけん! みんな連れてくる!!!」


「麺伸びるよ?!」


「よか! 私はやわ麺派やけん! すぐ戻ってくる! みんな~! 大変ばい~~~!!!」



 行ってしまった。


 独り占めしたら駄目、か……ふふ、ばあちゃんらしいな。


 だが――


 俺は! 今だけは! この至福の時を独り占めするぞ!


 次はチャーシュー。


 嗚呼、箸上げすると程よく柔らかさを残した脂がぷるぷると箸の上で踊る!



 ――ガブッ



 うんめぇ~~~!!! 脂はくどくなく、肉部分は絶妙な噛み心地を残して火入れされている! 麺! スープ! 一緒に食べたい!!!



 ――ズルルルル!



「はふ! はふ!」



 うわぁ……チャーシューがスープと麺に絡んで、口の中で解けていく。スープと一緒に口に含んだネギが、シャキシャキとまた別の歯ごたえを与え、顎が『さらに噛め!』と命令しているかのようだ!



「ゴックン……はぁ……このネギ、香りがいいね」


「ネギ系のマンドラゴラの新芽を使っています!」



 ――ジャア~~~!!! パチパチッ!



 ネギ系のマンドラゴラ?! マンドラゴラってあのハーリーポーターとかに出てくる、顔があって、抜くと叫ぶやつだろ? 何か怖い感じもするけど……美味いから気にしない!



 ――ザッザッザッ! カンカンッ!



 次は煮卵……ぷるっトロっと茹でられた卵が口の中で弾ける! 嗚呼~! これもスープと合う~! 濃厚な半熟の黄身がスープと溶け合い、コクとまろ味を与え、また別の味に変わるぅ~!



「たまんねぇよ! ヴィヴィ! 美味い! 美味すぎる!」


「へへ! そう言って頂けると頑張ったかいがあります!」



 ――ザッザッ……カパッ



 あれ? さっきからこの音……ヴィヴィ、何を作って――


 うわ……これは!



「おい! ヴィヴィ! おま、お前! これ!」


「はい! お待ちどうさまです! これでセットなんですよね?」



 ――コトンっ



 目の前に差し出されたのは、金色に輝く――



 チャーハンだった!!!



「あああ~~~! 蓮ちゃん! チャーハンセットやんそれ!!!」



 ばあちゃんが街の人たちを引き連れ戻ってきた。



「ああ……完成だ……チャーハンセットの爆誕だ!!!」



 街の面々は――



「なんだなんだ? 伊織さまがとんでもなく美味いものがあるって言ってたが……」

「ラーメンってやつらしいが、何か臭くないか? あ、でも見た目は美味そうだな」

「横にあるキラキラしたつぶつぶはなんだろう? いい香りがする」

「蓮さま、それ、美味しいの?」



 と興味津々だ。


 俺はみんなの視線を一身に受け、チャーハンを一口頬張った。



 ――かぷっ……



 ぐはぁ~~~! これもうっっっめぇ~~~!


 『しっとり、かつパラパラ』という相反する食感を有した金色(こんじき)の米が口の中で練り歩く! 強火で手際よく炒められた米を、油と混ざり合った卵が包んでいる! 米、油、卵! 三者が口の中で小気味よく踊ってやがる!


 それに塩加減が絶妙だ! 『もう一口』と思わせる最高の塩梅!


 隠し味に豚骨スープが入ってるのか? いや、入れてるな……このコクは絶対に豚骨スープ――



 ――え? 長い? 味レビューが長いって?


 そうだな。もしこれが小説か何かで、こんなに味レビューされたら、俺だったら確実に読み飛ばす!


 だが……いい! 読み飛ばしてくれても構わん! 俺は語るぞ! 異世界でこんなにも美味いラーメンとチャーハンを――


 くっ?! なんだ?! この香り?!


 この鼻の奥をドカンと殴ってくるような香ばしさは……はうあっ!



 ド ン ガ の 醤 油 !!!



 中華鍋のふちに醤油を焦がし入れ、日本人なら痺れるほど食欲をそそられる、あの香りだ! 反則だろ! これ!


 俺は狂ったようにチャーハンを口の中にかきこむ!


 米ぇ! ホシノエの米ぇ! なんだよチクショー! 噛めば噛むほど旨味と甘味が溢れ出してくるじゃねえか! 出汁のジュースでも入ってんじゃねぇのか?!


 あ! 俺の唾液か! それすら美味ぇ!


 幸せだ!!! 喰えば喰うほど腹が減る!!!



「ヴィヴィ! 替え玉を頼む! 硬麺で!」


「私は、やわ麺!」


「は、はい!」



 俺たちはあまりの美味さに『替え玉』を二回もしてしまった。



 ――「「うっぷ……ごちそうさまでした」」――



 俺とばあちゃんは手を合わせ、ごちそうさまをした。


 二人の頬に二本の線が光っていた。


 当り前だ……こんなにも懐かしく、それでいて新たな美味さを見せつけられたんだ。


 涙の一つや二つ流れて当然だ。



「ぐす……美味かったな、ばあちゃん」


「ぐしゅ……うん。もう完全に勝っちゃんを越えとる」


「本当ですか?! 私が、先代を?」


「ああ、俺とばあちゃんが言うんだ。間違いない」


「そうですか……ありがとうございます……ありがとうございます! 私、もっと、もっと頑張ります! へへ!」



 ヴィヴィの瞳は涙を潤ませながらも、ここへ来た頃より更に強い意志を灯しているように見えた。



「ふう。しかし、なんだろうな。腹がいっぱいなのに……もう喰いたくない?」


「蓮ちゃん、分かる、分かるばい! そん気持ち! ヴィヴィちゃんのこのチャーハンセット……満腹中枢を破壊しにきとる! そして、なんやろう……この寂しさ」


「ああ、喰いたいけど、もう入らない……まるで――もっと楽しみたいのに、終わりが来てしまう、あの夏祭りの花火のような……そんな感じだ」


「味の夏祭り、か……へっは~~~!!! いうよね~! 蓮ちゃん! げぷぅ~!」


「うん。俺もすこし大袈裟かな、とは思った。あと、汚いよばあちゃん」



「蓮さまと伊織さまがあんなに美味しそうに……ちょっと臭うけど……私も食べてみたいかも」と街のみんなもその気になってきた。



「は! こうしちゃおれん! みんなに食べさせんと! 今日は、私が奢ります!!!」



 ――「「「おお~~~!!!」」」――



 あのケチなばあちゃんが自らへそくりを……いや、それほど美味いってことだ。



「やっぱり……ボクも食べてみようかな。ドンガっちも食べるだろう?」


「そうでやすね。折角なので頂きやしょう! エリカさま!」



 ためらっていたエリカとドンガも意を決したようだ。そうだろうそうだろう。こんなに美味いもの、食わず嫌いは勿体ないぞ。


 食堂の二階に続く階段から「ヴィヴィさま! ついに完成されたんですね! 私も厨房を手伝います!」とディアナが降りてきた。



「ディアナちゃん、いいの? 疲れてない?」


「そんな! ヴィヴィさまに比べたらなんてことないです! 作り方、教えて頂けますか?」


「もちろん! ありがとう! じゃあ、一度作るから見ててね」



 ここからのディアナの呑み込みの速さは恐ろしいものがあった。何度か失敗を繰り返した後、彼女の中で何かが噛み合ったのか、凄まじい速度でラーメンを作り始めた。



 ――ジャア~! カンカン! チャッチャッチャッ!

 ――わいわい! がやがや!

 ――おまちどうさまで~す! 熱いので気を付けてください!

 ――おお~! いただきます!



 閉店後の夜にもかかわらず、瞬く間にヴィヴィ食堂は満席になってしまった。


 食堂に――


 あの頃の音、あの頃の香り、あの頃の活気が溢れている……



 最高じゃないか!



 この後、ヴィヴィ食堂のラーメンとチャーハンは瞬く間に看板メニューとなり、大狸商店街のご当地グルメとして多くの旅人から愛されることになる。



 よし……これで祝賀パーティーの料理勝負、俺たちがもらった!


 祝賀パーティーまで、あと10日ほどか。


 あ、それまでに宿泊施設の建設と居住区の整理に取り掛からないと。


 休む間もないが、街の環境が悪くなっては元も子もない。


 さっそく明日から取り掛かるか!



「ヴィヴィちゃん……やっぱり替え玉、もうひとついいかね?」



 ばあちゃん――



 替え玉3つは喰い過ぎだ!











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