ゲームの強制力に抵抗するのが面倒な悪役令嬢は、好き勝手に生きることにした 2
あの日から、私の生活は一変した。
あの日・・・卒業式で、奇跡の逆転劇で生き残ることができた私は。
――退屈な毎日を過ごしていた。
「はーーー・・・」
青い空を見ながら、ため息だって零れてしまう。
いや、だってね? あの日死ぬつもりだったからね? 将来のことなんて何も考えてなかったわけですよ。
学校は卒業してしまったから、学校に行くわけにもいかないじゃない? ってなると、一日の大半を占めていた予定がなくなっちゃうわけ。お茶会のみんなは就職したり領地に戻ったりしてしまったから、頻繁に会うこともできないし・・・
まさかニートで暇を持て余す、なんて経験を自分がするとは。まぁ、この時代には漫画もゲームもアニメもないから仕方ない。・・・よし。
「誰か。誰かいない?」
声をかければすぐにメイドが部屋に入って来る。こういうの、貴族令嬢って感じだよね!
「出かけるから、準備してくれる?」
「かしこまりました、お嬢様」
今日も街に遊びに行くとしましょうか!
卒業してから、私は頻繁に街に降りるようになった。暇つぶし、ってやつですね。ずっと家にいるのも体に悪いからと、メイドや護衛を付けていればお父様たちも文句は言わない。慰謝料ももらったし、遊びたい放題だ。
今日は行きつけのカフェに来た。そろそろ季節の変わり目だから新商品がでるんじゃないか、ってわくわくしてたんだけど・・・
「・・・なんでここにいるんですか、殿下」
私を待っていたのはケーキではなく、ルイス殿下だった。
「もちろん、マーガレット嬢に会いたくて」
「・・・」
にっこり笑顔にうさん臭さを感じたのは、きっと私だけじゃないはずだ。
とはいえ。とはいえである。違う席を用意してもらおうにも、今は満席。しかもこのお店には個室はここしかない。一応貴族なので、個室以外で食べると護衛がうるさいし・・・っていうか、お店の人たちも、殿下のいる場所にどうして私を案内するかな!? 警備的に駄目じゃない!?
けど。だけど。新作のケーキが出ていることはすでに確認済み。殿下がいるから、と部屋を出てはかなりの無礼になるし、あの時助けてくれた人を無下にすることは流石にできない。・・・・・・仕方ないか。
「マリー、ケーキと紅茶を注文してきて。貴女も好きなものを食べていいからね。あと焼き菓子もお願いしておいて」
「承知しました、お嬢様」
マリーはうちのメイドの一人だ。私には専属がいないから、出掛ける時は家のメイドや騎士の中から手が空いてる人を連れている。ちなみに護衛は扉の奥。流石に彼らにはここで食べてもらうわけにはいかないので、帰ってから焼き菓子を渡そう。ここのは甘くないから、きっとみんな大丈夫だろう。
すぐに部屋を出て行ったマリーを見届けていたら、殿下が立ち上がって椅子を引いてくれていた。・・・こういうところ、絵になるよなぁ。
とはいえ、いつまでも眺めているわけにもいかない。促されるままに座れば、にこにことした笑顔の殿下も正面に腰かけた。
「殿下は紅茶だけですか?」
「うん。外ではね」
「外では?」
王城の外、ってこと? 私のお茶会では何でも食べてたと思うんだけど・・・
首を傾げれば、疑問は正しく伝わったのだろう。
「貴女のお茶会では、絶対に毒なんて入ってなかったから」
「・・・ああ」
自分で言うのもなんだけど、あのお茶会の参加者はみんな私を慕ってくれていた。お茶会で口にするものは、そんな彼・彼女たちが用意してくれたもの、もしくは私自らが用意したものだ。私が食べるものに、毒なんて入っているはずがなかった。
納得と同時に、ちょっと複雑な気持ちになる。毒ねぇ・・・そういえば、イアン王子は私からの食べ物なんて絶対に口にしなかったな。そういうことも疑われてたのかも。
少しだけ遠い目をしていたら、すぐにマリーが帰ってきた。そういえば、殿下の傍にはメイドも護衛もいない。というか学校は? 私は卒業したけれど、年下の殿下はまだ学校があるのでは・・・
「殿下、また抜け出しました?」
返事はにっこり笑顔。思わずため息が零れてしまった。
この王子、こうやってこっそりと学校を抜け出しては私の前に現れる。このカフェで会うのは初めてだけど、違うカフェだったり、宝石屋さんだったり、場所はいろいろだ。「偶然」で済ませるには不自然なほど、外出中に遭遇する。まったく・・・どうやって私の情報を得ているんだか。今日なんて完全に気まぐれだったのに。っていうか、なんで学校を抜け出すんだろう? 私は行きたくても行けないのに、ずるい。私が在学中は毎日ちゃんと授業を受けていたはずなのに・・・って、この国の王子、まともなのがいなくない? 大丈夫かな。
呆れ果てている私の前に、戻ってきたマリーが紅茶とケーキをセッティングしていく。そしてそれは、殿下の前も同じだった。
「私は頼んでいないよ」
「毒見は済んでおります」
「ありがとう、マリー。貴女も食べてね」
「ありがとうございます」
殿下がこれ以上何か言う前に、マリーの事を下がらせる。本当ならマリーとテーブルを囲みたいけど、殿下がいる前じゃそうもいかない。残念だ。
気分を切り替えて、ケーキを食べよう! そう、ケーキの番です! お目当てを食べないと始まらないよね!!
私の前には2つのケーキと、紅茶の入ったティーカップ。新作はぶどうのタルトなのね。クリームが見えないくらい、いっぱいぶどうが載ってておいしそう。もう1つは桃かな。こっちはショートケーキ風なのね。うん、これもおいしそう!
まずはショートケーキから! タルトは・・・ほら。食べるのが難しいから。うん、まずは食べやすい方から!
「おいしい!」
桃がとっても瑞々しい! じゅわってするー! クリームも甘さ控えめで食べやすいし、スポンジもふわふわ。おいしー!
さて、次はぶどうのタルトも食べてみよう!
「~~っ!」
ぶどうあっまい! こんなぶどうもあるのね、おいしい!
口の中をリセットするために飲んだ紅茶もまた別格。やっぱりこのお店はハズレがないわ。なんでもおいしい。最高!
「マリー、ぶどうのタルトをお父様たちへのお土産にできるかしら?」
「確認します」
「お願い。あ、食べてからでいいわ。お土産も無理は言わなくていいからね」
「はい」
よし、これで家に帰ってからも食べれる。美味しいものはみんなで食べてこそだよね。仮に無理だったとしても、次回の楽しみができたと思えば悪くない。
それよりも、まずは目の前のケーキに集中しなきゃ。はー・・・おいしい。手が止まらないわ。
黙々とケーキを食べる私をじっと見ていた殿下が、
「本当に美味しそうに食べるよね」
なんて当たり前のことを聞くから、私も当たり前の返事をする。
「美味しいですからね」
「ふふ、そっか」
? 何か笑われるようなこと言ったっけ? 相変わらずツボがよくわからない人だなぁ。
わからない人は放置して、またケーキを食べる。タルトさくさくー。幸せだわ。
ケーキを食べ続ける私に触発されたんだろうか。殿下もやっとフォークを手に取った。マリーが用意した殿下用のケーキは、ぶどうのタルト1つだけだ。甘いものが苦手な男性もいるから、配慮した結果だろう。殿下の実際の好き嫌いは知らないけど。
・・・そういえば、殿下のことあんまり知らないや。イアン殿下の婚約者だったころから、彼とはあまり話したことがないから当たり前だけど。
思わずケーキを食べる殿下をじっと見てしまう。殿下はゆっくりとタルトを口に含んで、
「・・・美味しい」
そう言ってへにゃりと笑うから。私は
「でしょう?」
と満足して微笑んだ。釣られるように私もまたタルトを一口、うん、おいしい!
殿下との会話はあまりない。ケーキを美味しくいただきながら、時間はあっという間に過ぎていった。
カフェを出てからも、殿下は私の後をついてきた。が、私は一切気にしない。気にしては好きなことができないからだ。
ということで、予定通り街をぶらぶらと歩きまわった。このために服もマリーと揃えてフードまで被っているし、護衛の騎士たちも普段着でついてきてもらってる。殿下も質素な服を着てくれていて助かった。
「こんなお店にも来るんだね」
「可愛いものは可愛いので」
殿下が物珍しそうにしているのは、庶民用のアクセサリー店だ。本物の宝石なんて扱ってるはずがなく、ガラス玉だったり糸や布を合わせただけのものだったり・・・つまりは、貴族から見れば玩具と変わらないようなものしか置いてない。
でも前世の記憶がある私としては、こっちのほうが馴染みがある。宝石も宝石で好きだし沢山持っているけど、普段使いするにはちょっと・・・ね。贅沢三昧の日々を送っていたとしても、それはそれ、これはこれなのよ。所詮前世は一般人ですからね!
思う存分商品を眺めて、欲しいものは全部買ってお店を出る。お金ならいっぱいあるから吟味しなくていいのは貴族の特権だよね! こういう豪遊気分を味わえるのもあって、普通のお店は大好き! 貴族万歳!!
大満足でお店を出て、さぁ、次はどこに行こうと思った時だ。
「きゃあああああ!」
唐突に悲鳴が聞こえてきた。驚いて声のほうを見れば、すでに人垣ができている。
「何かしら?」
「見てきます。お嬢様はこちらにいてください」
護衛の一人。背の高いファルコが様子を見に行ってくれた。と、思ったらすぐに戻ってきた。背が高いの便利そうでいいな。
「どこぞの貴族の若造が庶民の子供に難癖をつけているようです」
うん、でも口が悪い。君、うちの護衛じゃなかったら首が物理的に飛ぶからね、それ。
「子供?」
「はい。花売りのようです」
ふーん。んー・・・あー・・・確かに、偉そうな怒鳴り声が聞こえてくるわ。
・・・って、この声、聞き覚えがあるぞ。
「お嬢様?」
「お待ちを、お嬢様!」
マリーやファルコたちが呼ぶ声も気にせず、人混みの中に突撃する。ファルコたちが慌てながらもついてきているのを確認しながら、人混みの最前列まで突き進んだ。
そして・・・
「一市民ごときが伯爵家の馬車の前を横切るなんて無礼だぞ!」
「ご、ごめんなさい!」
「それが貴族に対する口のきき方か!」
そこにいたのは、貴族の男とその後ろでにやにやした男たち。そして彼らの前で地面に座り込んで泣いている少女だった。少女の周りには色とりどりの花と空のかごが散らばっていて、膝や腕からは血が流れている。
何だこの光景。ありえない。あまりにもムカつきすぎて、考えるよりも先に体が動いた。
「大丈夫?」
二人の間に割って入って、女の子と目を合わせるためにしゃがみ込む。恐怖のせいだろう。女の子はボロボロに泣いていて、見てるだけでも可哀想。
まだ4、5才だろうか。幼い子供を脅えさせるなんて最低だわ。
「誰だ、貴様!!」
「怪我もしてるから大丈夫じゃないわね。マリー、お医者様をお願い」
偉そうな男の言葉を全部無視してマリーに頼めば、マリーはすぐに走り出した。
「すぐにお医者様がくるからね。もう少しだけ我慢してね」
できるだけ優しく語り掛けても、女の子の震えは収まらない。まぁ、貴族に睨まれるなんて、一般人からすれば恐怖以外の何物でもないよね。
だからこそ、許せない。
「おい! おれが誰かわかっているのか!!」
ぐっ、と肩を掴まれたかと思ったが、すぐに痛みが消える。私の肩を掴んだ手を、更にファルコが握り込んだためだ。
「いっ!? き、さまっ!」
「お嬢様に触るな」
ファルコがどんどん力を込めているのだろう。男の顔が苦痛に歪んでいく。
主人の危機に彼の護衛も出てきたけど、ファルコはまだ手を離さない。それでいい。
「貴方こそ、私が誰かわかっているの?」
顔を隠すために被っていたフードをとれば、男が大きく目を見開いた。
「卒業式以来ね、ゼップ・レーマン」
「!! マーガレット・ナットール・・・!!」
忌々しそうに呼ばれた名前に、私は大げさににっこりと笑った。
あの卒業式で。貴族の子供たちは大きく二つに分かたれた。私の味方をした人と、しなかった人だ。味方をした人はお茶会の参加者のみ。他の貴族の子供たちは、敵対したか、傍観に回ったかの二つだったけど、どちらも私からすれば味方じゃない人たちだった。
そしてその子たちの親は、ほとんどが私の味方をしてくれた。つまり、自分が蔑んでいた相手を、親は王太子を見捨ててでも味方したのだ。親からすれば子供たちも当然私と仲良くしてると思ってたら真逆だったんだから・・・まぁ、大変だったでしょうね、色々と。
で。このゼップ・レーマンもその部類の人間だ。ま、私とは相性が悪いよね!
「伯爵家風情が、私の前を遮らないでくれる?」
最初から仲良くする気なんてない。煽るように彼と同じ言葉を使えば、一気に顔色が真っ赤になった。ふふ、おもしろ。
「ファルコ、放してあげて。いつまでも掴んでちゃ、私の前から消えられないでしょ」
「承知しました」
ファルコが投げるように放したことで、ゼップが盛大に転がった。彼の護衛がすぐに駆け寄って周りを囲んだけど、正直どうでもいい。
それよりも目の前の小さな女の子のほうが大事だ。
「怖がらせちゃってごめんね。もう大丈夫だからね」
安心させるように頭を撫でれば、女の子は大きく目を見開いた。けれどそれも数秒の事で、すぐにまたわんわんと声をあげて泣き始めた。
さっきまでは声も上げずに涙だけ流してたから、緊張が切れたのかな。いいことだわ。
「マーガレット・ナットール・・・お前のせいで、俺は!! お前たち!!」
「「はっ!!」」
あらら。やっぱりそうなるのか。
ゼップの声に合わせて、彼の護衛たちがこっちに向かってきた。でも残念。私にだって護衛はいるもんね!!
「お嬢様に指一本触れさせるかよ!」
「おうよ!!」
ファルコの声に応えるように、他の護衛たちも前に出る。そこからはもう乱闘だ。
よし、今のうちに私たちは逃げよう。
「ケイト、この子を運んで。ファルコ、ラース、二人で大丈夫よね?」
「「お任せください!」」
ファルコとラースの力強い言葉を聞いて、ケイトがこちらにやって来る。その隙を狙おうとした不埒者は、すぐにラースに殴り飛ばされていた。
「憲兵に届けたら帰ってきて」
「「了解」」
返事も見事なハモリね。うん、大丈夫でしょう。
ケイトが女の子を抱き上げれば、自然と人だかりが裂けて道ができた。私たちは人々の間を優雅に歩いて、近くにあったベンチに女の子を座らせる。そこにちょうどマリーもお医者さんを連れて戻ってきた。よかった、これで大丈夫ね。
女の子を医者に診てもらっている間にも、乱闘はずっと続いてるようだ。数的には2対7・8人だったけど、こっちが圧勝してるのはやじ馬たちの歓声でわかる。ほんと、喧嘩を売る相手を間違えないでほしいわ。
「大丈夫だった?」
そう話しかけてきたのは、もちろん殿下だ。そういえばどこにいたんだろ、この人。
「私は護衛がいないから」
言葉にしなくても、表情に出てたんだろう。回答をもらっても、やっぱりすっきりはしない。
いや、私と違って王子だからね。それもイアン殿下が馬鹿やったせいで、王位継承権1位になった人だからね。簡単に民衆の前で正体を晒せないのはわかってるし、危険なことに自ら飛び込むわけにいかないこともわかってるけど。
わかっていても、すっきりしないものはしないのだ。
「やっぱり貴女はすごいね」
「何がです? 私は私のやりたいことをやっているだけです」
嫌いな奴に喧嘩を売っただけだ。別にいいことをしたかったわけじゃない。
私の返事に、殿下は何とも言えない顔をした。なんだ、その顔? 初めて見る顔だわ。
「お姉ちゃん」
思わずじっと殿下の顔を眺めていたら、女の子に呼ばれた。手当てが終わったんだろう。ベンチから離れて足元まで来た子に、ぐいぐいと服を引っ張られる。
わー、なんだこれ。可愛いなぁ。
「どうしたの?」
「助けてくれてありがとう! これあげる!」
満面の笑顔で差し出されたのは、籠いっぱいの花々だ。そういえば、最初にファルコが様子を見に行った時、花売りとかなんとか言ってたっけ。現場に散らばってた花は、この子のだったのね。
「ありがとう。とても綺麗ね」
「へへへ」
うん、可愛い。とても可愛い。前世も今も、妹はいないからなー。女の子可愛いわ。
それにもらった花も可愛い。うちの庭にも花はたくさん植えられているけど、大きな花が多い。野に咲くような小さい花は久しぶりに見た。それが籠いっぱいに詰められているのだから、可愛くないはずがない。
「貴女が育てている花?」
「ううん、秘密の花畑のお花なの。お姉ちゃんも行ってみる?」
「秘密なのにいいの?」
「お姉ちゃんならいいよ!」
「あら、ありがとう」
かわいい。かーわーいーいーー! 話してるだけでにこにこしちゃう。こんなに可愛い子相手に無体を働くなんて、ゼップほんと見る目ないわ。ご当主の伯爵さまに見捨てられればいいのに。
花畑の位置やら、お勧めの花の話を聞いているうちに、事態を聞いたらしい少女の母親が迎えに来た。ものすごく感謝されたけど、私だって感謝したい。いい癒しをありがとう、少女。あ、名前聞いておけばよかった!
手を振って別れを告げている間に、気が付けばファルコたちも戻ってきた。多少服が乱れてはいたけど、怪我をしている様子はない。ちゃんと勝ったようね。あとでお礼しなきゃ!
「マーガレット様、そろそろお屋敷に帰ったほうがよいかと」
「え、もう?」
「はい。旦那様の耳に入ったようです」
「あーーーー」
まぁ、それはそうよね。ファルコたちのように近くで警護してくれる人たち以外にも、遠くから見守ってくれてる人たちもいるもんね。その人たちが憲兵も呼んだから、ファルコたちもこんなに早く戻ってきたんだろう。
お父様たちからすれば、毎日楽しそうに学校から帰ってきていた娘が、実は婚約者や同年代の貴族たちから蔑まれていたことを卒業式に知ったのだ。それはもうものすごい勢いで心配されて、過保護とも呼べる勢いでいろいろと手を回された。そんなお父様が、また私が同級生と喧嘩したことを知ったら・・・
・・・・・・うん。勝ったとはいえ、ちょっと面倒なことになりそうだ。早く帰って、無事な姿を見せなくては。
「そういうことですので、私はもう帰ります。殿下は?」
「私も帰るよ。今日は貴女と仲良くなりたかっただけだから」
さらっと紡がれた言葉の意味が分からず、一瞬反応が遅れてしまった。卒業式の時もだったけど、なんでそういうことを軽々しく口にするかなぁ!?
でも、だけど。
「私と仲良くなりたいのなら、せめて学校はちゃんと行ってくださいます? 不誠実な人は嫌いよ」
だって私は学校に行きたくても行けないのに! 行ける殿下がこんな理由で行かないなんて、ありえないわ!!
そもそも、王子が学校さぼるって何!? さらにありえないでしょ!!
冷静を装いながら紡いだ言葉に、殿下はきょとりと目を丸くした。だがすぐにふにゃりと相好を崩すと、
「・・・貴女のそういうところ、ほんと好き」
それは、まるで独り言のように紡がれた言葉だったけど。私の耳にはばっちりと届いてしまった。
「っ・・・!」
顔が熱い。でも、返事はできない。する気がない。してはいけない。
どんな返事をしたとしても、今の環境が変わってしまうのは間違いないんだ。今の私には、まだその決断をする勇気がない。
それにせっかく手に入れた自由を手放すには、まだまだまだまだ遊び足りないんだもん!
「で、では私はこれで!! マリー!」
「はい。馬車はこちらです、お嬢様」
逃げるように挨拶をして、マリーの案内に従って歩き出す。殿下を振り返るつもりはない。一人で来たんだし、一人で帰れもするだろう。
「お嬢様、少し遠回りして帰りますか?」
「どうして? お父様が待っているんでしょ?」
「お顔が真っ赤ですので」
「・・・・・・遠回りして頂戴」
あーうーーーー・・・熱が引くまで、家に帰れないな、これは。
家に帰った私を待っていたのは、お父様たちの質問攻めだった。
殿下のことは聞かれなかったけど・・・知ってて聞かなかっただけかな、わからない。
どうか美味しいケーキで誤魔化されてくれていますように!!
――後日。
某伯爵家からお詫びの品が大量に届くことになるのだけど、全部送り返してやった。
逆になぜか王家からは小さな花で出来た花束や花かごが毎日のように届くようになったけど・・・
殿下があの子の家で花を買ってると思うと、微笑ましくてたまらないから。
私の部屋には、今日も花が溢れている。
前作に対し、ブクマや評価、感想などありがとうございました!!
コミック化の1年の記念に続きを・・・と思ってたんですが、1日遅れてしまった・・・・・・
少しでも楽しんでいただければ幸いです。




