スキルと名前と手にした切符
さて。異世界アイカ発行手続きが出来る最奥の部屋まで来て、そこにあった知識、資料系の本をしっかりと読みこんだ結果。
「……「電気石の加護」が、思った以上にやばかった」
「いや、くーちゃんの持ってるスキル、他にもぶっ壊れって書いてあったやつがいっぱいあったよー?」
「だとしても一番ぶっちぎってやばい」
「まぁそれはそうだけどー。私は意外と普通だったなー」
「そっちはそっちで相乗効果がすごい事になってるけどな」
私のスキル構成がかなりヤバい、という事が分かった。
特にヤバいのは「電気石の加護」だが、「カテゴリーチェンジ」と「存在感知」、「マルチハイディング」、「消耗品調合」、そして意外というか大穴というか、「アイテムドロップ」も性能がおかしい。
というか、我ながらよくこんな構成にした上で運用できてるな? スキルの引きは良かったというか、スキルを引きまくってたからボスドロップが装備ばっかりだったのか。……他に強化するべき場所が無いから。
「疲労軽減、回復力の底上げ、集中力と感知力の上昇。これがまとめて1つのスキルに入ってる時点であれだが、全スキルと装備の強度、効果を増幅させるってちょっと待て……」
「しかも増幅される側に、感知対象が「全」の「存在感知」と、隠蔽対象が「全」の「マルチハイディング」が入ってるもんねー。あ、どんな相手でも「倒した」って判定になったら、確実に安全な食べ物と飲み物と弾丸が手に入る「アイテムドロップ」もかなー?」
「……「カテゴリーチェンジ」が消耗品にも使えるとは思わなかったし、それで素材と消耗品が交換できるとは思わなかったし、そもそも「消耗品調合」がやばいのは大体「生活魔法のハンマー」と「マジックアイテム修復キット」のセットがあるからだ」
「それの組み合わせも、ふつーは揃わないよ、って感じみたいだけどー」
「組み合わせに関しては満華のスキル構成も言えないんだからな? 補正同士が乗算して1割増のところが倍か3倍ぐらいにはなってるだろ」
「同じ系統で揃えたら何か特別な効果があるかなーとは思ったけど、ここまで効果が上がるとは思ってなかったんだよー」
何だか、こう、思っても無かった事実が立て続けに分かるのって、体力使うんだな……。あとついでに「電気石の加護」だが、電気石、トルマリンか。その実物を持っていれば効果が更に上がる上、実物を消費する事で多少だが電気を扱う事も出来るようになるようだ。ぶっ壊れてるな……。
……うん。正確な性能を知っておくことは必要だ。だから、この辺りで考えるのを止めておこう。上手く手持ちのスキルが噛み合っている、かつ、特にマイナスが無いんだから。
対象の幅が全てのスキルの内で最大の「存在感知」と「マルチハイディング」は、やっぱり対象が狭い他のスキルと比べると、同じレベルだと性能が落ちるらしいんだが……一番最初に選んで使い続けている上に、「電気石の加護」が入ったから、実質デメリットが無くなってるんだよな……。
「まぁ。とりあえず、特殊な地形や気候なんかも知れたし……」
「そうだねー。準備は足りそうだしー、また戻ってこれるなら、今戻る必要はないかなー」
あれだ。思ったより私達は、ボーナス付きの銃とかひーちゃんの飛行能力以外も強かったって事だ。うん。強い分には困っていない。とりあえず今のところは。
という訳で、カウンターへと移動する。ここで「申請者証明書」の提出と10万マギゴールドの支払いを求められたので、素直にその両方を出した。しかし、金貨がちょっとした山になってるのはすごい光景だな。
それらを確認してから奥へ引っ込んだらしい、影しか見えない受付の人。さほど待たされることも無く戻って来て、銀色のカードを差し出し返してきた。
「登録者情報をご確認ください。各情報の訂正や隠蔽希望はございますか?」
おそらくこれが「異世界アイカ」なんだろう。「申請者証明書」のような、もう少し輝きの深い謎金属のカードだ。とりあえずざっと見てみると、名前と性別、種族、メイン武器とそれ以外の装備の内で強化回数が多い順に3つの装備が並んでいる。
隠蔽希望とは、と聞いてみると、どうやらこの「異世界アイカ」に記載されている情報は、ある程度公開されているようだ。……面倒そうな気配を察したので、強化値を非表示にして貰った。
あと情報を隠した方が良さそうなのは、と思ったところで、名前にフリガナが振られていない事に気が付いた。
「……名前って、絶対に本名でないとダメなの?」
「いいえ。自分で考えた名前でも登録は可能です。しかしあまりかけ離れた名前だと異世界アイカが誤作動する可能性がありますので、本名かそれに近い名前を推奨しています。名前を変更されますか?」
「んー……そうだな。本名からずれるのもあれだし、生みの母親の旧姓にしておくか。あぁあと、名前はフリガナを振った上で原則非表示に出来る?」
「かしこまりました。それではこちらに登録する名前とフリガナをお書きください」
す、と差し出された名前カードみたいな紙に、ペンで書き慣れない名前を書いていく。すると、ぽす、と肩に重みがかかった。
「なんだ、満華」
「手続き終わったー。そう言えばくーちゃん、名前の文字は教えてくれたけど、読みは聞いてないなーって思って」
「そうだな」
「あと旧姓っていうのも興味あるー。……漢字は簡単だけど、何て読むのくーちゃん? あ、くーちゃんじゃないかも知れない?」
「呼び方はそのままでいい。もう耳慣れたし、周りへのブラフと誤魔化しにも丁度いいし」
「えー」
戸籍上は没した母親の旧姓は「打上」。名前と合わせて、私は「打上空華」となる。
字の割にひねっている気がしなくもないが、名字は割と普通に読めるだろう。
「これで名字はうちがみと読む」
「うちがみくーちゃん?」
……まぁ、満華には教えてもいいか。どうせこの後、恐らくは随分と長く行動を共にするんだし。
「――はなび。空の華で、はなびと読む。当て字だな」
「じゃあはなちゃんだ!」
「くーちゃんでいいって言ってるだろ」
「えー」
話しながら、言った通りの読みを名前カードのような紙にフリガナとして書き込み、「異世界アイカ」と共に受付に返す。
訂正はすぐに終わり、希望した通りの情報表示となった「異世界アイカ」が差し出された。
「異世界アイカの発行が完了いたしました。良い異世界旅行となる事をお祈りいたします」
さて。これでようやく、どこにでも行ける。
本来誰もが持っている筈の権利を、都市伝説経由で取り戻す事になるとは思ってなかったが。
――――さぁ、どこに行こうか。




