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異世界動物記 ‐あるいは、もう出会えない君たちへ‐  作者: 民間人。
第四・五章 跳躍する小鳥の刃
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跳躍する小鳥の刃 2

 旅は驚くほど順調に進む。道を遮るものは毛皮や鉄鋼を積んだ馬車ばかりで、僕達に目もくれず通り過ぎてくれる。これ程立派な馬車であれば一人や二人注目してもよさそうなものだが、プロアニア人に芸術品を売るのは大層骨が折れそうだ。

 ゲンテンブルク方面へと向かう対向車の中には、化石燃料を運ぶ姿が顕著に現れる。黒い煤の塊のような石を石炭と言うらしい。

 気温が少しずつ下がるにつれて、動物の毛皮が厚く、ふくよかになり、すれ違う人もまた、トレンチコートを羽織っているようになった。

 霧の隙間から海水の匂いが漂い始め、川沿いの道路は緩やかな下り坂に差し当たる。


「どれくらい持つのかしらね」


 見馴れた石炭を山積みした馬車を一瞥し、フランが突然呟く。満載した資源を遠い目で見つめるフラン自身が、それらに依存していることを自覚しているのだろう。国の行く末と国家の末路が同時に訪れる事を悟った瞳は、酷く沈んで見えた。


「分からないけど、あれだけ山積みされた資源が届くなら……」


 フランは黙って僕の座席側の窓を指さす。僕がのぞき込むと、霧の向こうに微かな山の輪郭が見えた。


「廃炭鉱よ。私達が削りきれる資源は、四半世紀も前には底を尽きていたのかもしれないわ」


「はいたんこう……」


 僕は、聞きなれない言葉を頼りにその山に目を凝らす。霧以前に巨大な山は遥か彼方にあり、その特徴を知る事は出来ない。しかし、遠目に見ても分かるのは、所々に森が禿げた箇所がある、という事だった。

 魔法を使えない魔術不能が人口の殆どを占めるプロアニアは、その昔、住処を追われた難民達を次々と開拓民として受け入れたと言われる。特に魔術師は、贅沢な暮らしができるのだと競ってプロアニアに向かったのだという。この魔術士達がその後どのような末路を遂げたのかについては……いや、語らないでおこう。

 それが丁度、一世紀と半ばほど前のエストーラにおける外交記録である。


 僕が山を凝視する様を見て、フランは肩を竦めて笑った。


「何度見ても誰もいないわ。私だって、見たことがないもの」


「そう、だよね」


 僕が視線を下ろそうとすると、甲高い声が空に響き渡った。空には旋回するアドラークレストがいた。巨大な両翼を広げ、空を自由に飛び回る姿は仰々しく、甲高い濁声で一つ鳴くと、空を舞う小鳥の囀りも消え、散開する。小鳥が数羽吸い込まれるようにアドラークレストに向かって吹き飛ばされ、その鋭い鉤爪の餌食となってしまった。


「炭鉱には、どれくらいの石炭があったんだろう」


 石と森の間に存在する、山の禿げを見る。それは酷く不格好で、しかし、綺麗に円形に切り取られていた。暫くして、フランが僕の呟きに答える。


「さぁ。一つ言えることは、いつかは代わりを見つけなきゃいけないってことよ」


 小鳥はそのままアドラークレストに持ち帰られてしまう。通り過ぎる人が一つ咳き込む音で、僕は、町が近い事を悟った。

 連なる山の麓に、高い鉄塔が目印の町が現れる。鉄塔が吐き出した黄色い煤煙と、これまでとは比べようのない異臭と熱気が生温い風となって全身に纏わりつく。山の麓から縦長に伸びる煉瓦の群れの向こうには、長い桟橋と埠頭が広がる。見たこともない色をした船が、蒸気を上げながらその周辺を往来する。馬車は間もなく、プロアニア北の玄関口、港町ケヒルシュタインへと到着する。


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