川向かいの同胞へ 16
ルプスは高笑いをあげた。腕を負傷した彼を心配した団員達と同様に、僕はその声の余りの大きさに面食らった。
森中に響く勝利の軍歌を打ち消す声は未だ届かない。がたいのいい男に弾丸を取り除かせ、高笑いを一瞬引っ込めた彼は、負傷したその手を乱暴に振るい、良心で治療をする男の頬を殴った。エルヴィンはあからさまな舌打ちを上げ、彼の粗暴さに眉を顰める。
しかし、そんなエルヴィンでさえ今回の作戦はまんざらでもない様子で、不快感と同時に訪れる喜びに、口元で葛藤している。
フランは風に当たりすぎたのか、やや気分を悪くしているらしく、僕の隣でしきりに溜息を吐いた。僕が彼女を支えてやると、彼女は小さく「ありがと」と呟き、つばを飲み込んだ。
などと、客観的な意見を述べているが、実際には、僕が一番参っていると思う。ルプスの乱暴な馬術を受け、さらに弾幕の奏でる爆音の残響がじんじんとした耳鳴りになって襲いかかってくるのだ。三半規管が完全にいかれているのか、時折めまいが襲ってくるのだから、最早吐き気や風による体力の消耗という類の疲労ではない。強いて言えば、一種の拷問のようなものかもしれない。
「それで、あいつらはいつ死ぬんだ?」
黒き森の苔生した岩に腰かけたルプスは、腕を再び治療中の男に差し出しながら訊ねた。
「そんなにすぐに大成するものではないでしょう」
エルヴィンは明らかに不快そうに言い放った。ルプスはご機嫌の様子で牙を剥いて笑う。
「へいへい、お偉いさまは御聡明であらせられる」
「何ですか?一応我々は使用者ですよ?」
「……エルヴィン、イライラしているわね……」
フランが耳打ちする。僕は黙って頷いた。エルヴィンが目に見えてイライラしているのは中々珍しい。ルプスと余程相性が悪いのかもしれない。
暫くすると、深淵となった森の向こうから、聞きなれた悲鳴が響き渡った。地響きとなって伝わるカリストーの低い咆哮は、木々の間を縫って僕の腹を振動する。
奇妙なほど高鳴る心臓の鼓動を察し、フランは静かに僕に身を寄せる。傭兵団の視線が痛いほどであったが、眼前のルプスが豪快に笑った。
「来た、来た、来た!」
耳をつんざくような悲鳴も、黒き森の前には無力で、雀の囀りにも似た弱々しい声が伝わった。
区切る場所を間違えました。




