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異世界動物記 ‐あるいは、もう出会えない君たちへ‐  作者: 民間人。
第六章 虹と大空を手に入れて
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虹と大空を手に入れて 16

 会議室にあるものは先述の通り机と椅子だけだったが、僕達が持ち込んだもの全てを示したわけではない。フランは暫く黙ったままで僕の顔を見つめていたが、数分経つとポケットの中を探り始めた。


「あの……」


 僕が聞き返すと、フランは目当ての物を取り出したため、黙って続きを待つことにした。フランは今朝見つけた法陣の書かれた棒を取り出した。見れば、擦り減って法陣が掠れた跡が見られ、フランが法陣を消していたのだと気づく。そして、思わず青ざめてしまった。


「まさかそれって……?」


「えぇ。多分、遠隔型の監視法陣術よ。盗撮や盗聴のための物だと思うわ」


「いつから気づいたの?ここで話したことは?」


 僕は身を乗り出して訊ねる。フランは咳払いをして手で僕を制止する。僕は思わず椅子から飛び上がった腰をかけなおす。フランは法陣を隈なく確認しながら、何度かそれをなぞり、納得したように満足げに頷く。


「まぁ、こんなところね。こんな稚拙な法陣、プロアニアでは絶対使わないわ」


「稚拙なんだ……」


「稚拙ね。消されないように、ダミーの法陣をいくつか仕込むものよ。ダミーを仕込んだうえで、法陣の中にもダミーの式を組み込んで初めて、法陣術の基礎だもの」


「分からないって言ってなかった?」


「知っているって言ったら、何か対応されちゃうじゃない?」


 フランは手に持った棒を慎重に確認し、全ての法陣の囲いが完全に消えている事を確認したうえで、その棒を叩き割った。強烈な破裂音の後、会議室は暫く沈黙に包まれた。

 流石プロアニア人、なのだろうか。唯一プロアニアで発達した魔法と言われる法陣術だが、本当にここまで教育が行き届いているという事実に再度驚かされる。魔術不能ばかりの彼らが歴史上確たる地位を手に入れた理由も、理解できるような気がした。


「ねぇ、これ、もし秘密結社の物だったら、まずくない?」


「まずいけど、その線はあまり考えていないわ」


「法陣が稚拙だから?」


 僕は恐る恐る訊ねる。プロアニア人ではないとして、もしかしたらプロアニアと国交を持っているムスコール大公国でも、このレベルの法陣術は当たり前に利用されているのかもしれないからだ。

 しかし、フランはさらりと否定した。


「あそこに設置する理由がないからよ。だって、これだけ苦労して法陣を組んだんだったら、ただの情報収集には使う必要ないじゃない?使うとしたら、中央会議室なりに使うわ」


 確かに、法陣術はかなり複雑な術式を組む必要があり、通常の魔法と比べても、単純な現象を起こすためだけに半日以上かかる場合もある。まして、諜報の魔法など、相当の練度がなければ作りようがない。それを、わざわざ秘密結社が、自分の活動拠点の近くに使うとは考えづらいかもしれない。

 しかし、必ずしもこれが無駄とは思えない事情が、彼らにないとも言えないのだ。


「もしかしたら、有事にいち早く気づくために設置したのかもしれない」


「あぁ、その線は確かに考えられるわね。でも、その場合でも、やっぱりあそこに設置するのは妙よ。私なら、あんな自分達の主張だけ垂れ流される場所よりも、もっと危険を察知しづらい、死角になるところに置くわ」


 フランは眉を寄せて思索を巡らせながら答えた。僕の意見も一理ある、という事のようで、答えてからも難しそうに眉を顰めている。


「私は……これはむしろ、貴方の事を探している勢力が設置したものだと思ったのだけれど……警戒の為なのかしら……?少し分からなくなってきたわ。ごめんなさい」


「この場合、どういう情報が必要なんだろう?盗聴用の法陣術の「数」があれば、多分僕の意見が正しいんだと思うんだ」


 仮にあの近辺に盗撮・盗聴用の法陣術が複数個存在していたのならば、秘密結社が警戒の為に設置したものと言う可能性が高い。調査をする者が自分達を捕獲しようとうろついているなどと言った情報が手に入るかもしれないためだ。しかし、仮にあの一か所に置かれていたとした場合、それは例えば愉快犯や、「あの場所に行かざるを得ない人物」を監視する目的で設置した可能性がある。いずれにしても、これ一つで結論を出す、という事は難しいだろう。


「杞憂ならいいのだけれど……。少し、警戒しましょう」


 僕は黙って頷く。破壊された監視用の法陣術が書かれた棒は、フランが大切にポケットの中に入れなおし、再度摩り始めた。


「これについては私が調べておくわ。参事会館にも、こういう資料があると良いのだけれど……ちょっと望みは薄いかしら」


「ありがとう。今日はもう休もう」


 僕がそう言うと、彼女は柔和に微笑んで頷く。今日は彼女をエスコートして部屋に戻ることにしよう。僕は彼女の手を取り、足並みを揃えて部屋を後にした。

 深夜のノヴゴロドの空には、ハギウチの影が月光に照らされて暗い空の下で羽ばたいていた。


今回の魔法生物:

ハギウチ……体長約90cm程度の、大型の水鳥。背が高くしなやかな首を持ち、長い脚で優雅に湖沼や湿原の付近を歩く。全身を白い羽毛で覆われており、首筋に黒い毛が生えている。

松林などの樹上に巣を作る。エンゲヅル同様、コロニーを形成する。ハギウチの巣は何年にもわたって修復・再利用され、殆ど同じ巣で生涯を過ごす。


主に魚や小動物を捕食する。湖畔を慎重に歩き回りながら餌を探し、巣へと持ち帰る。

エンゲヅルと異なり、水の中には入らないため、魔法は使わない。但し、降雪に合わせて巣を保温する為に法陣術を用いる、非常に賢い生物である。

エンゲヅル同様「渡り」をする。


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