第六話 真昼の決闘
意外と戦闘が熱くなって作者もビックリ!
ギルドの表ではレオンとシーダが対峙している。周囲には面白半分の冒険者や野次馬で人集りが出来ていた。
「何というハニートラップ。」
「…?何か仰いましたかご主人様?」
レオンの呟きにリディが首を傾げる。
「いや…何でも。」
レオンが気付いた時には、既に戦いを承諾した事になっていた。ただ自分は美しい花に引き寄せられた蝶でしかなかったというのに。
「では、頑張って下さいご主人様!ご主人様の力を示すには絶好の機会です!」
従者は自分以上にやる気だ。
何せ彼女としては待ちに待った状況である。日頃レオンを軽視している者達に、その力を見せ付ける最高の舞台なのだ。
きっと全員が腰を抜かすに違いない。
ギルドランクDのレオンがSランク相当と目されるシーダに勝利するのだから。
「本当にやるんですかいシーダ様?」
「お主もくどいなラルゴ。奴も承諾したのだ。後は互いに死力を尽くすのみ。」
シーダサイドではラルゴが何とか事態を収めようと苦心していた。残念ながら俄然やる気のシーダには効果は無かったが。
「ですが、アイツはただのDランクですぜ。昨日シーダ様が伸しちまった奴らより下なんですから、勝負にすらなりゃしませんぜ。」
「勝負にならんだと?クク…駆け出しの頃のお前に聞かせてやりたいものだな。」
「うっ…」
痛いところを突かれた。実はラルゴも若い頃にシーダに挑んだ事がある。もう二十年以上前の話だ。
あの頃の自分は無知蒙昧で、相手の力量も分からなかった。そこをシーダに藪蚊を振り払うかの如く一蹴されてしまったのだ。
だが、今にして思えばあれが有ったからこそ、自分は驕る事なく精進してこれた。
「そう心配するな。我もあやつを殺すつもりは無い。」
「それなら良いんですがね。」
何だかんだでラルゴはレオンを気に入っている。軽薄で女好きだが、愛嬌があって何処か憎めない。出来の悪い弟のように思っている。
恐らく…いや、必ずレオンは負けるだろう。
だが、この敗北をバネに奮起してくれれば良いと、ラルゴは自分を納得させる事にした。
「さて、向こうも用意出来たようだ。ラルゴ、お主が立会人だ。頼むぞ。」
「ハァ…分かりましたよ。」
ラルゴは半ばヤケに成りつつも勝負を認めるのだった。
互いに一歩進み出るレオンとシーダ。
相打つ二人は剣と拳、それぞれの得物を構える。
「はああああああっ!」
先に仕掛けたシーダの拳がレオンを襲う!紙一重でかわすレオン。彼が居た場所は土が舞い穴が穿たれた。
「おいおい、何処が殺すつもりは無いだ。」
開始早々にゾッとするラルゴ。殺しはしないと言いながらも、シーダの放った一撃には渾身の威力が秘められていた。
しかし彼は気付いていない。自分が若い頃には避けられなかった一撃をレオンが避けている事実に。
「はあっ!」
なおもシーダはレオンに追いすがる。連続して繰り出す拳は当たれば吹き飛ぶ威力を孕んでいる。それらをかわし逆にレオンが反撃を加える。
薙ぎ払いにきた長剣を、仰け反るようにかわすシーダ。そのままバク転の要領で下がり間合いを取る。
「クク…やはり我の睨んだ通りよ。主こそ我が求めた雄!真に強き者だ!」
シーダは歓喜し、駆ける。己の全力を撃ち込むべき相手へ。
目が覚めるような攻防。ここまで来てやっと周囲の人間達も気付く。Dランクのレオンがシーダと互角の戦いを演じている事に。全員がレオンが負けると思っていた。何せ相手は竜人だ。ただの冒険者それもDランクが勝てる訳が無い。
現実は違った。大方の予想を裏切り、竜人の強力無比の攻撃を、避けるどころか反撃までしているのだ。レオンを野次る声はいつの間にか消えていた。むしろ戦いが進むにつれてレオンを応援する者まで現れる。
「何だよあの野郎!本当は強ぇんじゃねーか!」
戦いを見守るラルゴの血が騒ぐ。昔の自分と重ねていた若者が、自分には出来なかった偉業へと望んでいるのだから。
一方、レオンは悩んでいた。どうやって決着を付けたものかと。
殺してしまったらあの特大のおっぱいも、キュッと引き締まった括れも全部パーだ。それだけはなんとしても避けたい。かといって手加減するには強過ぎる。
卑怯な策も駄目だろう。相手の気性からして納得しない筈だ。再戦なんて面倒な事態も有り得る。周囲の目もあるのだ。ここは相手を傷付けず、尚且つハッキリと勝負を決する必要が有る。そして上手くいけば約束した通り、あの美女の肉体を好きなだけ…
「ヌフフ…」
「ほう…余裕ではないか。勝負の最中に含み笑いとは。」
「おっと。」
どうやら顔に出ていたらしい。
レオンは顔をキリリと引き締めると、長剣を掲げ宣言する。
「シーダ!俺の必殺技を受けてみろ!」
「必殺技だと?」
やべっ!少し臭かったかな?と、振り返るも杞憂だった。レオンの台詞に興味をそそられたシーダが好戦的な笑みを浮かべる。
「面白い!面白いぞレオン!ならばその技、我に見せてみよ!」
案外脳筋なのかもしれない。シーダの評価を下方修正するレオン。
「行くぞー!」
「おおおおおおーっ!!」
二人が風を巻いて突進、激突する!
互いの一撃が相手を捉えた!
少なくとも周囲にはそう見えていた。だが倒れたのは片方だけ。
ドサッと音を立てて地面に伏したのはシーダだった。長剣による斬撃にも関わらず一滴の血も、斬られた跡もないというのに。
それは何故か?
予め刀身を作り替えておいたのだ。刃引きした斬れない剣に。その上で剣に電流を流した。云わば剣の形をしたスタンガンだ。
一応起き上がる可能性も考慮して警戒する。竜人が雷に耐性があるかもしれない。だが一向に動く気配は無い。完全に気を失っているようだ。レオンは長剣を納めると、天高く拳を突き上げた。
「俺の勝ちだ!」
「「「うおおおおおー!!」」」
勝ち名乗りを上げた直後、周囲から歓声が上がった。観客が押し寄せ勝者を祝福する。中にはラルゴも居る。レオンの頭を脇に抱え込んで男泣きしていた。
騒ぎの外でもレオンの活躍を祝福する者が居る。リディだ。
「ご主人様が…ご主人様とうとう…皆様に認められて…」
ブルブルと肩を震わせる。
「あぁっ!やはり素敵ですご主人様ぁ!」
立ったまま絶頂しそうな勢いだった。
手荒い祝福を受け、漸くお祭り騒ぎから抜け出したレオンは、気を失ったままのシーダの元へ戻る。
「ムフフ…これだけ働かされたんだ。次は直に見せて貰うぜ!」
ワキワキニギニギと動く手が卑猥だ。
「では、このまま家へお連れしますか?」
「そうだな。意識が無いままってのは趣味じゃないし。」
レオンとリディがシーダを介抱しようとしたその時、彼女の内股がビクビクと痙攣。
「あ…」
シーダの下半身を中心に水溜まりが広がっていく。
さすがに竜族のトップが決闘直後に失禁は拙い。レオンは咄嗟に上着をシーダの腰に被せる。他には気付かれていない。
「大丈夫でしょうか?」
「息はあるみたいだから、帰ったら回復させよう。」
「はい。では……あっ!」
不用意にシーダに触れたリディが悲鳴を上げる。まだ帯電していたらしい。
「ええ~~!?」
感電したリディはシーダの上に折り重なって倒れる。
チョロチョロチョロ……
しかもシーダと同様に太股から水溜まりが拡がっていく。
「仕方無いな…」
レオンは下の緩い従者と好敵手を担ぎ、自宅へと向かった。
チョロチョロチョロ……




