第四話 火遊びにも躊躇無し!
新キャラ登場です
レオンはリディの肢体を通して労働の素晴らしさを噛み締めた翌日、ふらりとギルドへ立ち寄った。
「おう!レオンじゃねぇか!やっとお前も仕事に本腰を入れ…」
バタン!
ギルド長のラルゴと目が合い、反射的に扉を閉める。直ぐに引き返そうとするレオンをラルゴが引き止める。
「てめぇ!人の顔見て逃げるとはどういう了見だ!?」
「暑苦しい顔が見えたもんだからつい。」
当然だがレオンが仕事を請ける為にギルドに来る訳がない。
目当ては全く似ていないラルゴの妹、看板娘のレナだ。
「まあ良い。それよりちっと手伝え。」
手招きするラルゴの足元に冒険者らしき男達が倒れていた。全員気絶している。
「何だコイツら?」
「シーダ様さ。」
「誰それ?」
「はぁ?シーダ様知らないのかよ!お前、本当に冒険者かぁ?」
無知なレオンにラルゴは呆れたように溜め息を漏らした。
彼が言うシーダとは竜族の長である。竜族は竜としての力を内包したまま人にも変化出来る種族で、当然ながら強い。竜族の平均的な力の者でもギルドランクはA~Bだ。そんな竜族の頂点であるシーダの実力は推して知るべしであろう。
「それで?何でそのシーダ様が冒険者をボコるんだ?」
「さぁな。良く分からんが強い奴を探してるって話だ。それで血気盛んなコイツらが挑んだんだが…」
「返り討ちにされた訳ね。」
「ああ。」
よく見れば倒れているのは、このベルナでは比較的高いランク保持者だ。
「とにかく邪魔だから診療所に運ぶぞ。手伝え。」
「ええー!嫌だよ。何で俺が野郎を担がないといけないんだ。俺が触るのは女の子限定だぞ。」
「つべこべ言うな。100メルやるから手伝え。」
「子供かっ!」
1メルは約1円程度の価値だ。その上にガルドという単位があって、1ガルドで約1万円の価値に相当する。
「ほら、そっちの二人は任せるぞ。」
「……後で茶くらい出せよ。」
レオンがギルドで茶を啜っていた頃、リディは食材を探して市に居た。
「うーん…ご主人様に見合うような物は中々見つかりませんね。」
「お嬢さん、このクラの実なんかどうだい!?刻んで野菜に混ぜれば風味が増すし、焼いた肉にかけてもいい!おまけに精も付くんだぜ!」
威勢の良い店主が品を片手に勧めてくる。
「……そうですね…。」
リディは精力の付いた主を想像する。
…殆ど獣である。
「止めておきます。これ以上精が付いてしまわれては、私の方が壊れてしまいそうですから。」
実際問題、レオンの欲求のタガが外れたら自分の身が保たない。主人には早いところ他にも女性を囲って貰わなければ。
「しかし世の中の女性は何が不満なのでしょうね。ご主人様がお求めなら、私は夫が居てもご主人様と致しますのに…」
主から与えられる甘美で最高の快感を反芻する。リディは下腹部がジュンと熱くなるのを覚えた。店先にも関わらずウットリと表情がとろけそうになってしまう。
「いけない…私がしっかりせねば。ご主人様の素晴らしさを世に示せるかは私に掛かっているのだから!」
自分に下った天啓(と思っている)を思い出したリディは、表情を締め直して買い物を続けた。
妥協に妥協を重ねてレオンに合う食材を買い揃えたリディは、自宅へと続く道を歩く。
途中、すれ違う人が皆リディに見惚れていくが、彼女が気付く事はなかった。リディにとってレオン以外は殆ど路傍の石と変わらないからだ。
「今夜は冷製スープをお出ししましょう。…いっそ私自身を器にするのは…いえ…きっと違う所にしゃぶりついてしまいますね。でもそれを口実に次の仕事を…」
リディが献立(?)を考え歩いていると、不意に持っていた荷物が弾かれる。買い物に使う籠から、中身が幾つか飛び出し地面を転がった。
「あっ!」
慌てて追い掛けるリディだったが、拾おうとするのと逆の腕を掴まれ動きを阻まれる。
「いてぇじゃねぇか。てめぇ。」
腕を掴んだのはリディの籠に腕をぶつけた男だ。彼はリディの顔を見るなり好色な笑みを浮かべた。
「へへっ!よく見たらイイ女じゃねぇか。おい!お前、ちょっと付き合えよ。」
「だなぁ。メイドみたいだし主人の代わりに俺らが躾けてやるよ。」
「いいねぇ。俺も最近溜まってたんだ。」
リディはぶつかった男とその仲間に囲まれてしまい、内心舌打つ。
ついて行けばどうなるかは目に見えている。一応、リディは穏便に済ます為に努力する事にした。
「ぶつかった事はお詫び致します。ですが私の身体はご主人様の物ですので、お付き合いする訳には行きません。どうかご容赦下さい。」
「あん?お前奴隷かよ。」
「奴隷では無く従者です。」
「へっ!なら後で俺達がご主人様に言っといてやるよ。使わせて貰ったってな。」
やっぱり無駄かと溜め息を吐きながら懐に手を伸ばす。中にはレオンから貰った魔法道具が入っている。その名も【お助けレオン君】。これを使えば瞬時にレオンに知らせが届き、助けに来るというアイテムだ。
主人の手を煩わせるのは心苦しいが、このまま男達に弄ばれる訳にもいかない。既に腕を掴まれているだけでも虫酸が走っているのだ。
リディが【お助けレオン君】を使おうとした刹那、男の腕が別の手に掴まれる。
「やれやれ、この街には碌な雄が居らんな。」
「何しやがる!」
「喚くな下郎が。この腕握り潰しやろうか?」
リディを救ったのは女性。それも絶世と言える美女であった。切れ長の目が印象的でどこか刀剣を思わせる鋭さが有る。肌は褐色で野性味のある雰囲気を放っていた。
そして一番の特徴は背中に生える翼だ。鳥類のような羽ではなく、もっと無骨な鱗を持っている翼だ。
「りゅ、竜人…」
女の翼に気付いた男が絞り出すように呟く。
「ふん…下郎でも竜人の恐ろしさは分かると見える。しかし竜人の力には耐えれるか?」
「ぐあっ!」
竜人に掴まれた腕がミシミシと悲鳴を上げる。男はリディから手を離し痛みに悶えた。
「情けない。この街には貧弱な雄しか居らんのか。去れっ!次に見ればその腕もいでくれる!」
竜人が尻を蹴り飛ばすと、レイディに絡んだ男達は這々の体で逃げ出していく。後には竜人の女とリディだけが残った。
「ありがとう御座います。竜人様。」
「ほぅ…あの下郎どもとは違い、礼儀をわきまえておるようだな娘。我の名はシーダだ。名を呼ぶ事を許すぞ。」
「恐縮で御座います。私はリディと申します。シーダ様はもしや、竜族の長であるあのシーダ様でしょうか?」
「うむ。如何にも我は竜族族長シーダである。我の名を知るとはメイドにしては中々聡明なようだな。」
「主が冒険者でして。その恩恵で御座います。」
当の主はシーダのシの字も知らなかったが、それを二人が知る由もない。
「ふむ…そなたを僕とするとは、主はさぞや傑物であろうな。」
「はい!唯一無二にして天下無双の素晴らしいお方です!」
「ククク…成る程成る程…。」
何かしらの思惑を抱えたシーダが低く笑う。リディにはその意図を推し量る事は適わなかった。
「リディと申したな。我はお主が気に入ったぞ。その主人とやらにも会わせて貰えぬか?」
「ご主人様に…ですか?」
改めてシーダを見る。
髪は長く深緑の神秘的な色と艶を湛え、身体付きは如何にも男好きしそうな凹凸の激しいライン。特に胸は豊かで、そこそこ大きい筈のリディさえも圧倒的に凌駕している。
恐らくレオンなら真っ先に口説く筈だ。
「今は生憎不在でして、帰宅はもう少し後になるかと思いますが。」
「構わぬ。案内いたせ。」
「はい。ではお茶でもお出し致しましょう。この国では珍しい菓子も御座いますので。」
「ほう!菓子とな?良いぞ。菓子は!益々気に入った。もしそなたが従者を辞する際には我が僕にしてやろうではないか。」
「ありがとう御座います。ですが私がご主人様から離れるのは死ぬ時のみに御座います。」
「忠心も高いとみえる。主人の徳の高さが伺えるな。」
「恐縮で御座います。」
さて、徳の高いと評された我らが主人公レオン君はというと…
ギルドにてのんべんだらりんと、ラルゴ相手に談笑して過ごし、リディとシーダが自宅で待つ頃には火遊びの真っ最中であった。
相手は街でばったりと出会ったギルドの看板娘レナ。ラルゴの妹だ。連れ込んだ宿でじっくりしっぽりねっとりと、情欲という名の火を弄んでいた。
「レオンさぁん…もっとギルドに顔出して下さいよぉ…」
レオンの首根っこにぶら下がりながら甘えるレナ。
「だってラルゴ居るじゃん。仕事押し付けられそうだからなぁ。」
「うふふ…お兄ちゃんいたら、こんな事出来ないと思ってるんでしょ…」
ペロペロとレオンの首筋に舌を這わせつつキスマークを量産していく。
「得物持って追い掛け回されそうだ。」
「そうですねぇ。いつも冒険者の男には気を付けろって、目を光らせてますから。」
二人の脳裏に血眼になってレオンを追い回すラルゴの姿が浮かぶ。
「おお、怖い怖い。怖いから目の届かない間にもう一回…」
二人の乗るベッドがギシリと軋む。
「アンッ!またするんですかぁ?」
「駄目か?」
「一回じゃなくてぇ…もう二・三回ならイイですよぉ…」
「うはっ!ならもっと頑張ろうかなぁ!」
「んふっ、それなら私も四・五回に変更ですぅ…」
どうやら今日中にシーダがレオンと会うことは無さそうだ。
ギシギシ…ギシギシ…
皆さんは火遊びした事はありますか?わたしは…おっと誰か来たようだ…




