第十五話 魅惑の腰使い
修正に手間取りました。
「皆さんお待たせ!大人の時間だぜっ!」
「いきなり何を言ってるんですかい旦那?」
「気にすんな。言っとかないといけない気がしただけだ。」
酒場のカウンターで店主がレオンの戯言にツッコミを入れていた。時間は夜の九時。従者は連れて居らずレオン一人だ。美貌溢れる従者達は旅の疲れが溜まっているだろうと、レオンの厚意で街一番の高級宿に泊まっている。
ただそれでレオンの下半身が大人しくしている訳もなく、代わりとなる夜の相手を求めてこの酒場へと立ち寄ったという訳だ。
「なあマスター、何処かに美人で直ぐにヤラせてくれる女は居ないか?」
「旦那もお好きですねぇ。それならもう少し待っててくださいよ。そろそろ次のステージが始まる頃ですから。」
レオンが店主の言葉に首を傾げていると、酒場に太鼓の音が鳴り響いた。同時に奏者が何処か民族的な音楽を奏で始める。
「おっ?良いねぇ。」
弦楽器の気だるげなメロディーと共に現れた踊り子達。総じて露出度が高く、上半身と下半身ともに申し訳程度に薄布を巻いているだけだ。
ドンドコ!ドコドコ!ドコドコ!
踊り子達は太鼓のリズムに合わせて腰を振り、クネらせ、回転させる。扇情的且つ淫靡な踊りだ。
しかもどうやら下着は着けていないらしい。音楽に合わせた振り付けで身をよじる度に、チラリチラリと中身が顔を覗かせる。
「旦那、あいつら全員娼婦も兼ねてますからね。気に入った女に声を掛ければ後は交渉次第です。」
「成る程そういうシステムか!」
つまりこのステージは娼婦が客にアピールするためのデモンストレーションなのだ。
ステージが進むと踊り子が客の前に下りてくる。踊りながら客に自らの肢体を押し付けたり、目の前で踊りを披露したりと誘惑に余念がない。お捻りを貰って奉仕紛いの行為をする者までいる。
そしていよいよレオンの前にも踊り子が近付いてきた。
「おふぅ!これは堪らん!」
レオンに濡れた視線を送る踊り子。彼女は床に腰を下ろすと、薄布をめくり上げて微笑む。
「うはぁ!丸見えー!」
大胆にレオンの前で臀部を晒すと、艶めかしく身を翻し去って行った。
これは声を掛けざる負えない。
ステージが幕を下ろすと直ぐにレオンは踊り子の元へと向かう。もちろん目標は目の前でおっぴろげてくれたあの娘だ。
「や、お姉さん。」
「あら、お兄さん。フフッ、私の踊りを気に入ってくれたの?」
「あんな良いもの見せてくれたらね。」
「ウフフ…お兄さんが私好みだったから、思わずサービスしちゃったわ。」
「出来れば次はベッドで踊って欲しいな。」
「さぁ…どうしようかしら?お兄さんの懐次第ね。」
目の色が一瞬変わる。やっぱり娼婦は商売人なのだなと感想を持つレオン。特に自分の肉体を売るのだから、金にシビアなのは当然かもしれない。
「幾らだったら朝まで踊ってくれる?」
「朝まで?そんなに頑張っちゃうの?」
「ああ。何だったら他の娘達も呼んで良いぞ。」
レオンは懐から出した金を手渡すと、踊り子は驚きの声を上げた。
「こ、こんなに!?」
仲間で分けてもおおよそ自分が稼ぐのに十日は掛かる額だ。思ってもみない大金に踊り子は営業スマイルのまま固まった。
「あとはサービス次第でもう少しご褒美出るかもよ?」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
慌ただしく控え室へ駆け出す踊り子。暫く待つと仲間を連れて戻ってきた。
「お待たせ!今夜はたっぷりお兄さんの上で踊ってあげるわね。」
最初に話した踊り子がレオンの首根っこに掴まり頬にキスする。連れられてきた他の仲間もレオンの腕を取りながら身体を押し付けた。
「ハッハッハ!それじゃ行こうか!」
ステージで触って触ってと振りたくっていたお尻を撫で回し、レオンは外へと歩き出す。
「んふふ、近くに良い宿が有るから、そこで…ね?」
踊り子達は夜通し踊り狂う。レオンの上で。酒場のステージよりずっと情熱的で淫らなダンスを。
レオンが踊り子達の素晴らしい腰使いを堪能している頃、リディとシーダは宿泊先の宿でマッサージのサービスを受けていた。服を脱ぎうつ伏せになった二人の身体を、マッサージ専門の従業員が揉みほぐしていく。
「…んっ…ふぅ…旅の疲れが癒されるなリディよ?」
「そう…ですね…んん!ハァ…」
「お二人とも綺麗な肌をなさってますね。羨ましいですわ。」
二人の瑞々しい弾けるような素肌に感心する店員。もちろんお世辞などではなく、その美しい身体に同性として感嘆と嫉妬を覚えていた。
「本当にスベスベ…それにこの張り…。シーダ様、どうすればシーダ様のような美しい身体になれるのですか?」
「うん?…フフッ、そうだな…やはり良く食べ良く動く事だ。後は…」
「後は?」
「愛しい雄にたっぷり可愛がって貰うのが一番だ。のうリディ?」
「はい…正にその通りかと…んふぅ…」
レオン以外には表情の変化が乏しいリディだが、余程気持ち良いのか今は表情も緩み声もたどたどしい。肩や腰に店員の指が沈む度に、鼻に掛かったような吐息を洩らす。
「お二人に想われるなんて、その男性は幸せですね。」
「いや、幸せなのは我らの方よ。主殿は最高の雄であるからな。のうリディ?」
「はい…んくっ…ご主人様は素晴らしい…お方です…」
「それはそれは。では次は上を向いて下さいませ。」
「念入りに頼むぞ。主殿に喜んで貰わねばならんからな。」
「もちろんで御座います。男性がむしゃぶり付きたくなるようなお身体に仕上げますので。」
店員の手が腹部から胸部へと滑り、リディとシーダのくぐもった艶声が重なる。
「ぁん……くふぅ…」
「…イ、イィ…」
ウィスラでの二日目の朝、十二分に踊り子達のダンスを堪能したレオンは、宿屋で艶々の肌となった従者達と合流した。
馬屋で整備された馬車を受け取り、衛兵に聞いたヴィアン商会へと向かう。
「ここでは有りませんかご主人様?」
「ああ、そうみたいだな。」
商会の構える建物に入ると、店主らしき男性がレオン達を迎えた。歳は三十代後半だろうか。恰幅が良く、身なりの良さからも商会の代表だと予想出来る。
「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょう?」
「奴隷が欲しいんだが。」
「奴隷ですか。どんな奴隷をお探しで?」
「女で美人なのが良い。」
「ご予算の方は伺っても宜しいでしょうか?」
「上限は無い。とにかく良い女を出してくれ。」
「そ、そうですか。ではこちらへ。」
レオンの豪胆な物言いに気圧されながらも店主は仕事をこなす。
彼がレオン達を案内したのは奴隷専用の部屋で、檻ごとに幾つかの種類で区分けされているらしい。
年齢や性別、男性経験の有無に種族など、想像よりも細かく分類されていた。
「お客様のご要望ですとこの辺りになるのでは無いでしょうか。どうぞ、ご覧下さい。」
「ほほう。可愛いのは居るかな?」
檻の中を観察すると、様々な女の奴隷が居た。あからさまにレオンに色目を使う者から全く興味を示さない者。怯えた表情の者に、睨み付けて敵意を向ける者まで多種多様だ。
「うーん、迷うな。皆美人だしなぁ。」
「あちらは経験者、向こうは未経験者です。こちらには亜人も居ります。」
「おぉ…選択肢がどんどん広がってしまう!」
キョロキョロと店主の示す檻を見て回るレオン。まるでおもちゃ屋を走り回る子供の様だ。
「あああーっ!!」
「ん?」
品定めの最中、檻の中から叫び声が上がる!
「ア、アンタは!」
「ん?ハハッ!何だよお前か。」
檻の中で驚愕の表情を浮かべていたのは、以前にベルナ周辺でレオンを襲った盗賊団の女頭目だった。
日曜だからストック溜めようとしたが失敗。




