第二章 友達になろう Ⅲ
かれんがトモヤと積極的に話している頃。
『県立異能力精査研究所』の所長室に、マサトシは呼ばれていた。
「それで、何でしょうか?」
「……引き取ったトモヤくんの結果が出るのにはもう少し時間がかかるだろう。それでも以前所属していた研究所のデータと変わる点は少ないだろう」
おもむろに所長は話し出した。
その言葉の言わんとすることをマサトシは分からずに、ただじっと話を聞く。
「僕が気になった点はそこじゃない。前の研究所からもらったデータですでに分かることなんだが……」
そこで、所長は一度言葉を区切った。
「?」
マサトシが続きを待っていても、所長はなかなか話を続けようとしない。
(気になることが、そんなに深刻なことなのだろうか)
と、話が進まないことにマサトシは不安になる。
所長はたっぷりと時間を使って、口を開く。マサトシに言うことを躊躇っているようにも見える。
「……彼の力は、あまりに強い。――それこそ、うちの研究所にいるどの『覚醒者』よりも」
「……っ!?」
所長の言葉に、マサトシの表情が変わった。
マサトシ自身は、まだトモヤのデータを見ていないのだ。
「圧倒的なんですか?」
「……データの上では。――『覚醒者』の力の優劣は基本的に定められていない。そのため強いという言葉は適切ではないが、数値はどの『覚醒者』よりも上だ」
そう言って、所長は高級そうな机の上に置かれていた書類をマサトシに差し出した。
驚きの表情のままで、マサトシはそれを受け取る。
その紙面に書かれていたものを見て、マサトシの表情はさらに驚愕のモノへと変わっていった。
「こ、これは……っ!?」
渡された書類には表やグラフがいくつも載せられており、そこに記されている数値を見て、マサトシは絶句する。
「僕もこの一〇年間でたくさんの『覚醒者』を見てきた。けど、ここまでの『覚醒者』に出会ったことは初めてだよ」
「わ、私もです……」
所長の言葉に、マサトシも同調した。
それほどに、トモヤの『覚醒者』としての力を表す数値は凄まじい。
けれど、所長がマサトシに言うことを渋ったことはこれだろうか。能力使用の数値が高いことは確かに驚愕だったが、それは研究所としては喜ばしいことでもある。トモヤの研究のために、また多くの資金が県から与えられることだろう。
マサトシのその考えも、次に所長の口から零れ出た言葉に一瞬で掻き消される。
「……このデータを見て、僕はある可能性に思い至った」
まだ書類に目を落としているマサトシに、所長が震える声で言った。
「可能性、ですか?」
「あぁ」
そして、所長はある可能性を口にした。
それを聞いたマサトシの表情は今まで以上に愕然とする。トモヤのデータを見た時の驚愕よりも、さらに大きな反応だった。
「……そ、それが、本当のことだったら――」
「まだ分からない。……憶測で断定して、話を進めるのはあまりに危険だ。早めに情報を集めなければ――」
所長の言葉に頷いたマサトシは書類を高級そうな机に戻して、所長室を去ろうとする。
その間際に、所長が念を押してきた。
「さっきの話は、まだ誰にも言うな。真偽が分かってから、だ」
「も、もちろんです」
しっかりと返事をして、マサトシは改めて所長室から出ていく。
しかし、ドアノブを握ったその手はやはり震えていた。




