第三章 選択を迫られて Ⅴ
かつて大竹町と呼ばれた『眠る街』。
その一角にある建物の陰に、カツユキはいた。
『覚醒者』のコウジたちとの戦闘をマンホールから下水道に飛び込むことで逃げたカツユキは、傷に痛む身体をおして場所を変えていたのだ。
もはや誰も活用していないような建物の外壁にカツユキはもたれるようにして、地面に座っていた。その表情はしかめるように、渋い。
(受けた傷が結構ひどいな……)
カツユキの身体には、コウジたちとの戦闘で受けた傷が目立っている。痣だけでなく、切り傷も多くあった。
(アオイは無事に連絡出来たんだろうか――)
戦闘が始まる前に、先に駅へと向かわせたアオイの事を心配する。
そのアオイが今はどこにいるのか、カツユキには分からない。『ルーム』から仲間が来るのは時間から見てもまだまだ先だろう。
しかし、急がなければならなかった。
カツユキとアオイはコウジたちの会話を盗み聴きした。その話では、コウジたちは捕えられた仲間の『覚醒者』がまだ拘束されている状態である事を信じて、『賞金稼ぎ』たちのアジトを襲うと言っていた。
その『賞金稼ぎ』のアジトには、カツユキの仲間であるタクヤがいる可能性が高い。コウジたちがカツユキとアオイに話を聞かれていた事から、計画を早めるかもしれない。というよりも、その可能性が高いだろう。
「はぁはぁ……。とりあえず傷口は塞がないと――」
そう考えると、ここでのんびりとしている訳にはいかない。
すぐにでもアオイと合流しようと考える。アオイが無事であるなら、『眠る街』を抜けて駅に行けば会えるはずだ。
いつまでもじっとしている事は出来ないと考えたカツユキは、槍による攻撃で負った傷口を押さえながら立ち上がる。そして、傷口を塞げそうな物はないか、と周囲を見渡す。が、ここは廃れた『眠る街』だ。手頃な布は簡単に見つかる訳でもなく、あったとしても汚れていて使い物にならないだろう。
(仕方ない……か)
カツユキは着ていた服の片腕の布を無理矢理破いて、傷口に当てる。それで、血が止まるのを待つしかなかった。
「……ぼろぼろの服を着てて良かったぜ、まったく――」
自分の着ている服の古さに助けられた。
そう思うと、情けない笑いがカツユキの口から漏れる。アオイには心配するな、と大見えを切っておいて、この有り様だ。笑わずにはいられなかった。
「……はぁ、ほんっと情けねぇ――」
片手は傷口を押さえたままで、カツユキはゆっくりと『眠る街』を歩き始める。アオイが待っているだろう駅へ向けて――。




