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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
Another Story
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第一章 日野市 Ⅵ

 

 数日後。

『県立異能力精査研究所』に新しい『覚醒者』がやってくる、という話題で研究所内は持ちきりだった。いや、厳密には研究所にいる『覚醒者』たちの間で、だ。

 その『覚醒者』も、これから『異能力精査研究所』で研究対象となり、かれんたちと同じ生活をすることになる。

 かれんたち『覚醒者』には、新しい仲間あるいは友達が増える、という新鮮な気持ちでいた。季節の変わり目に、クラスに新しく転校生が来るという感覚に近い。どのような人が来るのだろうか、というわくわくした感覚である。

 そのかれんたちは、研究所内のミーティングルームにいた。普段は研究所の職員たちが研究スケジュール等や研究内容を決める際に使う部屋であり、『覚醒者』であるかれんたちが入れる部屋ではない。何故その部屋にかれんたちがいるのかというと、職員と『覚醒者』全員を集める際に都合が良かったからである。

 そして、部屋の前方にあたる壁にあるホワイトボードの前に研究所所長が立っていた。所長は部屋にいる職員と『覚醒者』たちみんなに、集まってもらった理由を説明していた。

「当の『覚醒者』の子どもだが、今マサトシが出迎えに行ってもらっている。もうそろそろ、こちらに到着する頃だろう」

 所長は説明後に、もうしばらく待ってくれ、と頼んだ。

 部屋にいる人々は、これ以上待たされることに不満の表情を見せる。それは特に『覚醒者』の面々に見て取れた。かれん以外の『覚醒者』はまだ小学生の年齢である。友達が増えるという感覚は尚更強く、またこれ以上待てないという気持ちも強いのだろう。

「ねぇねぇ! かれんお姉ちゃんはどんな子が来ると思う?」

『覚醒者』の一人であるショウコが隣にいるかれんに尋ねた。女の子であるショウコは特に、かれんに懐いていた。

「ん~、そうね――。かっこいい男の子だといいかな~」

 ショウコの質問に、かれんは自分の願望で答えた。

「え~。私は女の子だとうれしいなぁ~」

 願望で答えたかれんにショウコは、新しく来る『覚醒者』が女の子だとうれしい、と言った。

 現在『県立異能力精査研究所』に在籍している『覚醒者』は五人いるが、その内女子はかれんとショウコの二人しかいない。他はショウコとは年齢が微妙に違う男子が三人である。かれんにとっては弟が三人いるような感じであり、それほど苦には感じていないが、ショウコは年が近い女の子の友達が欲しいと思っているようだった。

 年齢による違いが、そこには垣間見られる。

「そうね。男子ばっかりだと暑苦しいもんね」

 かれんは笑って、ショウコに同意した。

 それを聞いていた『覚醒者』の男子たちが、「暑苦しいってなんだよ」と大きな声で言ってくる。

 部屋には『覚醒者』たちの声が響いている。

 他の職員や研究者は大声で話すようなことはせず、隣に座っている人と軽く喋っているだけである。新しい『覚醒者』が来るということにそれほど興味を示していないのかもしれない。『覚醒者』の子どもを受け容れるという決定を決めたのは職員や研究者たちだが、研究対象が増えるということで億劫(おっくう)な気持ちを抱いていても不思議はない。その心中を、かれんたちが知ることはない。

 その後もミーティングルームに集まった職員や研究者、かれんたち『覚醒者』は、マサトシが『覚醒者』の子どもを連れてくるのを待たされた。

 ミーティングルームは次第に会話で溢れてくる。

 かれんたち『覚醒者』が声を大きくして会話していたこともあり、職員たちも緊張の糸を緩めたのだ。

 そのまま待たされること十数分。

 ミーティングルームのドアが突然開いた。

 ドアが開いた音に、『覚醒者』たちは息を飲んで反応する。それまで後ろ向きになって話していた『覚醒者』の男子も慌てて前へ振り返った。

 ドアを開けて入ってきたのは、マサトシと一人の少年だった。

 少年の歳はショウコと変わらないくらいだろう。しかし、その雰囲気がとても同年代だとはとても思えなかった。切れ長の目は時折鋭い眼光を飛ばしていて、綺麗に切られている髪が目にかかることで、さらに恐い印象を与えてくる。

 隣に立った少年を横目にしながら、所長は改めて説明を行う。

「先ほども話したが、新しくこの研究所で暮らすことになった……、あ~、名前と自己紹介を」

「……『覚醒者』のトモヤ、です。前の施設が閉鎖することになったので、今日からこちらでお世話になることになりました。よろしくお願いします」

 少年は形式的な挨拶をした。

 ぱらぱらと拍手が起こる中で、かれんはその少年にやはり恐いという印象を感じていた。鋭い眼光は人に対して悪いイメージを与えることが多い。それは誰もがそうだろうが、かれんは少年に対して、それだけではない恐さを感じている。

(何だろう……。この感じ――)

 上手く言葉では言い表せない。

 それは、少年が与えてくる恐怖感あるいは圧迫感のようなモノを感じているからだろうか。





 自己紹介をした少年の名前は、『トモヤ』。

 それは、『炎』の『覚醒者』の名前。

 これは、一人の狂気に満ちた『覚醒者』が辿った、三年前の物語である。







ここまで読んで頂きありがとうございます。

千秋です。



本編を補完する物語『Anoher Story』は、PARTⅠで出てきたトモヤについて掘り下げたお話になります。


やっとトモヤが出てきた所ですが、ここでAnother Storyは一時的に区切らせていただきます。

ご了承ください。


そして、次話からはPARTⅡが始まります。

悠生たちの活躍をまた楽しんで頂ければ、と思っています。

肝心のPARTⅡですが、すでに書きあげているんですが、一気に更新することはなく、またのんびりと更新していきたいと思います。


これも予めご了承ください。


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