終章 それぞれの誓い Ⅰ
『市立基橋高校』。
その屋上には、微かに涼しさを感じる風が吹いていた。
空を見上げれば雲一つなく、夜空に輝く星がいくつも目にすることができる。住宅街の中でも、これだけの星空を眺めることができた。
すっかり日が落ちたなかで、ユウキは真希と一緒に屋上に立っていた。真希たちを操っていた『覚醒者』とのゲームに勝ったユウキは急いで屋上に戻ってきたのだ。
「どうしたの、上村くん?」
「い、いや……。無事で良かった」
「え? どういうこと?」
どうやら、真希は覚えていないようだ。
昼間の女子生徒も、真希と同じように操られていたことを覚えていなかった。『覚醒者』の力に支配されている時は記憶が途切れているのだろう。
「こっちの話」
「……? ところで、なんで私、屋上に――?」
当然の疑問だろう。
真希がどこで操られたのかは分からないが、気付いたら屋上にいたというのは恐怖を感じて当たり前だ。
(なんて説明すれば――)
と、ユウキも困る。
『覚醒者』について口にするわけにもいかない。もっともらしい理由が思い付かないまま、
「星空を見ようって誘ってくれただろ。そしたら、ここで気持ち良さそうに眠ってたんだよ」
と、口にした。
苦し紛れの理由だが、真希は「あれ、そうだっけ?」と頭をかしげただけだ。それ以上は特に疑問に思うこともなく、真希も夜空を見上げる。
「でも、本当に綺麗だね」
「……あぁ、そうだな」
一緒に見上げる星空は、とても住宅街のものとは思えない。
世界中を探せば、もっと綺麗でもっと多くの星が見える空があるのだろう。けれど、こうして日常を送っている街でこれだけの星を見られるということが非日常で感動できるのだ。
隣に立って、感嘆の声を上げている真希は、ほんの数分前まで危険な状況にあったことを知らない。
(それでいいんだ)
こちらの世界には『覚醒者』は存在しない。
ユウキも、ゲームを仕掛けてきた誰かもあちらの世界からやってきた者である。こちらの世界には、いてはいけない存在だ。『覚醒者』が及ぼす危機などあってはならない。
だから、真希も知らないままでいい。
覚えていないままでいい。
『覚醒者』という存在に、ユウキの正体に気付かないまま、ユウキがあちらの世界に帰り、こちらの世界にいた悠生が帰ってくる。
それが、何より大事なのだ。
ふと、真希がユウキのほうを向いた。
「一緒に、星空見れて良かった! ありがとうね、上村くん」
「あぁ、こちらこそ」
そう笑顔を見せる真希の表情は、とても幸福そうだった。
(守らないといけない……)
そう考える。
(元の世界へ帰るまで、こっちの世界を――)
こちらの世界の悠生が帰ってくるまで、ユウキがあちらの世界に戻るまで。帰ってきた悠生が世界の変化に戸惑わないように。
(――絶対に)
ユウキは、強く自身に誓った。




