表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/118

第二章 『覚醒者』の起源 Ⅵ

 

 再び、マユミの研究室には悠生ただ一人だけになっていた。

 長い時間をかけて『始まりの覚醒者』について、そして『覚醒者』についてマユミから講義を受けた。その後、マユミとトモユキはまた研究室を後にしたのだ。そのため、悠生はまたしても一人取り残されている。

「『覚醒者』になった理由――」

 マユミたちから聞かされた話が、未だに悠生の頭の中を渦巻いている。

(考えるなって言われても……、気にする方が難しいって)

 そして。

 もう一つ。

「『覚醒者』が生まれた理由――か」

 それらの疑問を調べても損はないはずだ、とマユミは言った。

 けれど、調べる方法が悠生には見当もつかない。聞いた話では『覚醒者』は三桁を容易に超える数の人数がいるらしい。日本にどれほどの『覚醒者』がいるのか分からないが、一人一人に話を聞くしかないのだろうか、と無謀な事まで考えてしまう。

 そうして、一人で悶々と思考を巡らせていると、研究室のドアが再び開いた。

「あれ、まだ一人だけ?」

 戻ってきたのは、ミユキだった。

「マユミとトモユキさんはさっき戻ってきたけど、すぐに出てったよ。研究員と話し合いだってさ」

「あぁ。きっと報告会の打ち合わせ、ね」

「そう言えば、そんな事言ってたな」

「ちゃんと覚えてたのね。報告会も大事なものだから、(おろそ)かにできないのよ。ここにいる『覚醒者』の健康や能力状態を所員全員で把握しておくためのものだし」

「みんなの前で報告するって事なのか?」

「そういうわけじゃないわ。所長とか班長とかの前でよ。そこに『覚醒者』本人も参加して、報告。まとめた書類は所員全員に配布って感じかな」

「……なんか、めんどくさそうだな」

「ただその場にいるだけの私たちにとったら、めんどくさい事かもね。長い話を聞いてるだけだし――」

 でも、とミユキは続ける。

「悠生くんにも、きっと大事な場になるよ」

「そうか~?」

 半信半疑の悠生を見て、ミユキは苦笑した。

「参加したら分かると思うよ。でも、今から打ち合わせって事はもう少し時間がありそうね」

「あぁ。しばらく待っててって言われたし」

「そっか。じゃあ、ちょっと散歩しない?」

「え? 中をうろついていいのか?」

『覚醒者』であるユウキじゃないとばれる可能性があるから、一人で研究所内を歩かないように、と忠告されていた。

 けれど。

「許可はもらってきたわ。一人じゃボロが出るかもしれないけど、私もいるし大丈夫よ」

 ミユキの誘いに乗って、悠生は研究室を出ていく。

 見慣れない研究所の中をミユキについて歩いていく。相変わらずすれ違う研究員やスタッフには「久しぶりだな」といった声を掛けられるが、ミユキのフォローで無事に乗り越えられた。

「どこに行くんだ?」

 散歩の目的が分からない悠生は、隣を歩くミユキに訊いた。

「私のお気に入りの場所。そこに行くとね、落ち着くんだ」

「お気に入りの場所?」

「うん。きっと悠生くんも気に入ってくれると思うの」

 どこか楽しげな声色だった。

 二人きりで歩いているこの時間を、何事にも代えがたい瞬間だと感じているような、心から楽しんでいるような口調だ。

(どうしてだろう?)

 と、悠生はミユキの話を聞きながら考える。

「気に入るか。どんな所なんだ?」

「行ってからのお楽しみ」

「ますます気になるじゃんか」

 答えは分からない。

(俺はユウキじゃないのに――)

「そういえば、どんな話されてたの?」

「え?」

「マユミから何か聞かされてたんじゃないの?」

「よく分かったな。『覚醒者』について、いろいろ講義聞いてたよ」

「へぇ~」

 こうして会話していても、ミユキが楽しそうにしている理由は見つからない。普通の友達のように接してくれているのが、悠生には不思議でしかない。

「『始まりの覚醒者』だとか、いろいろ。ってか、こっちの世界じゃ、あんなに酷いことがあったんだな」

「あぁ、うん、そうだね。私は記憶にないんだけど、当時はすごく騒ぎになったみたいよ」

「あ、そっか。テロがあった時はまだ園児とかか」

「うん。まだ三歳くらいだったからな。自分が『覚醒者』だって自覚もなかったし――」

「そうなのか……」

『覚醒者』の話を切りだしてみても、ミユキは特に嫌な素振りを見せる事もない。辛い過去があった事も気にしていないみたいだ。

(なんでなんだ?)

 疑問だけが、悠生の頭に残っていった。

 そうしているうちに、ミユキは目的の場所で立ち止まる。

「ここだよ」

「ここ?」

「うん。ここが、私の――ううん、私たちのお気に入りの場所」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ