12 王国勇者
次の日の朝。鳥がさえずり、太陽が優しく降り注ごうと顔を覗かせる。
そんな朝日が射し込むベッドの横、ベッドの縁に腰を掛けるシュティレは眠そうに欠伸をかみ殺しながら微妙な表情をしている。それもそのはずだろう。
なぜなら、シュティレの目の前には――床に両手両膝を付き、頭を床に擦りつけるエスティアの姿があったのだから。シュティレはどうしたものか、と思いつつ、もう一度欠伸をかみ殺した。
「あの、エスト……?」
「シュティレっ! 本当にごめんなさいッ!」
まるで、神にでも懺悔するかのような暗い声で彼女は呟く。
昨日の夜、暫く二人でキスをしていたら、いつの間にか眠っていたようだ。シュティレは床をへこませそうな勢いで頭を下げている彼女の前に両膝を付け、顔を無理やり上げさせる。
「エスト、私怒ってないよ?」
紛れもない本心だ。キスしかしていないし、無理やり襲われたわけでもない。まぁ、少し驚いたが、最終的に彼女を誘ったのは私なんだから。
むしろ、謝るのはこちらの方だろう。そんなことをしても彼女が満足するはずはないのでやめておくが。
だが、エスティアは頑なに顔を上げようとしない。シュティレが力を込めようとビクともしない。
「ねぇ、本当に怒ってないから、ね? だから、顔を上げて」
「む、むりっ……私、シュティレに取り返しのつかないことを……ッ。本当にごめん、なさい……」
「でも、キスしかしてないからっ、ね? そ、それに……」
突然言いづらそうに彼女は口ごもる。不思議に思ったエスティアが、恐る恐る顔を上げれば、ほんのり頬を紅潮させながら、シュティレは自分の唇を指でなぞり呟く
「エストなら嫌じゃないもん」
そう言って妖艶に微笑んだ。エスティアの顔がほんのりと紅潮する。だが、すぐに申し訳なさそうに表情を暗くする。
「シュティレ……でも……」
「もう、エスト」
「な、なに――んっ!?」
シュティレの香りが鼻腔を掠める。そして、唇に当たる柔らかい感触。なにをしているのか理解したエスティアは、カッと自分の顔に熱が集まるのを感じる。
触れるだけのそれは、エスティアの心臓の脈拍を早くするには充分すぎる。目をパチクリさせながら彼女が固まる。
顔を離したシュティレはしたり顔で微笑む。その姿に心臓が掴まれてしまう。
「これで、おあいこだねっ」
「……は、はい」
エスティアは観念したように返事するしかなかった。
シャール王国の近くにある小さな村――モイエン村へとやってきた二人。なぜ、ここにやって来たかというと、ここには王国勇者が居るらしい。その人は、聖都に住んでいたこともあるらしく、彼なら紋章の持ち主が分かるかもしれないということだ。
「はぁ、三国で仲が悪いっていう噂は知ってたけど……まさか、その国の勇者の情報すら規制されてるなんて知らなかった」
「すごいね、お姫様にすら自分の国の勇者を教えないなんて。普通だったら、私の国の勇者は強いんだぞーって、自慢するのかと思ってたけど」
まぁ、確かにシュティレの言う通りだろう。普通は自国の戦闘力として大っぴらにしてもよいはずなのに、全く情報が開示されないのはおかしい。エスティアは眉間にしわを寄せながら、顎に手を当てながら小さく唸る。
まぁ、館でひっそり暮らして、そういった情報とは無縁だった彼女たちが考えても仕方ないだろう。とにかく今は、少しでも情報を持っていそうな人に聞いていくしかない。彼女はそっと、拳を握り締める。
「その籠手カッコイイね」
「え? あぁ、これね……そんなこと言って、シュティレのローブもカッコイイよ。強そう」
シュティレは「そ、そう?」と照れながら、ティアルマに貰ったという、金と青の刺繍が入った白いローブの裾をつまみ上げた。持っている杖も合わせて、おとぎ話に出てくる賢者にも見えなくはない。まぁ、それにしては顔が可愛すぎるが。
そんな会話をしながら話していると、勇者会へと到着する。王都と比べたら質素な作りだが、他の民家と比べればそれがどれだけ、この村にとって豪華かわかる。
そんな建物の前には、背中には大きな棍棒のような武器を担いだ、髭面の大柄な男性がコチラに向かって手を振っている。まるで熊にも見える男性に二人は顔を見合わせた。
「おぉぉぉいっ! お前たちが姫様の言っていた勇者だろーっ!」
ビリビリと彼の大声が二人の耳をつんざき、思わず顔を顰めてしまう。だが幸い、こちらの表情が分からないぐらいには離れていたので、すぐさま表情を直し、ぎこちない笑みを浮かべ手を振りながら、彼へと歩み寄った。
近づいてみると、改めて思う――デカイ。
あの時戦ったオーガよりも大きなその体は、二メートルを優に超える。下手したら三メートルはあるかもしれない。そのため、二人は彼を見上げるように顔を動かす、と彼は申し訳なさそうに笑って、しゃがんでくれた。
王国勇者と聞いて警戒していたが、案外いい人なのかもしれない。だがエスティアは、すぐにそんな考えを振り払うように笑みを浮かべ、左手の籠手を外し、彼へと差し出した。
「初めまして、エスト・リバーモルです。こっちは、シュティレです。今日は聞きたいことがあって来ました」
「俺は、ケイン・パーシアン。それで、聞きたいことってなんだ?」
「あぁ、はい。実はこの紋章の持ち主を探しているんです。知りませんか?」
いつも通り、紙に描かれた紋章を見せると、人懐っこい笑みを浮かべていた彼の表情が真剣なものへと変化してゆく。
「……ふむ。確かにこれは聖都の王国勇者の証だ――探している理由を聞いてもいいか?」
「はい。この紋章の持ち主に恩返しをしたくて、探しているのです」
隣のシュティレも小さく頷く。ケインは訝しむように二人を見据える。
「そうだったのか。それなら、よろこんで教えたい所だが――」
背中に手を回し、棍棒をエスティアの顔の前に突きつけた彼は、真剣な表情で口を開く。二人は彼の気迫にゴクリ、と生唾を飲み込む。
「俺はお前を知っているぞ。奴隷商人エスティア・リバーモル!」
その言葉に、エスティアの眉がピクリと動く。そして、温厚そうに浮かべていた愛想笑いが徐々に崩れ落ち――明らかな敵意を浮かべ睨みつけた。
対して、シュティレは“あーあ”、と言いたげに一歩下がった。彼女を本名で呼ぶのは、よほどのことがない限り許されない行為だ。ましてや、初対面の彼が許されるはずがない。
でも、彼はどこで、本名を知ったのだろう? お客というわけでもなさそうなのに。シュティレは小首を傾げながら、二人を見つめた。
魔剣の魔力が染み出す様に冷たい空気が辺りを包み、鋭く細められた黄金の瞳が彼を睨みつける。
どうして、本名を呼ばれたくらいで、こんなにイラつくのだろう。今まではそんなことなかったのに。エスティアは内心で不思議に思いつつも、それを表情に出すことは無かった。
「おい。どこで本名を知ったか知らないけど……てめえごときが気安く――人の名前を呼んでんじゃねよ」
怒気を孕んだ声が響く。それと同時に彼女の腰に収まる魔剣の鎖が、チャリ、チャリ、と音を立てる。彼女は左手の籠手を装着し、肩越しに振り向いた。
表情は笑顔、だが、その中に潜む憤懣がにじみ出ている。
「シュティレ、ちょっと待っててね。コイツ――コロスから」
「あ、うん……気を付けてね」
きっと本気で殺す気はないと思うので、シュティレは大人しく安全地帯まで下がり、二人を眺める。
シュティレが十分下がったのを確認したエスティアは、“早く使え”と急かしてくる魔剣を鞘から引き抜く。剣先から滴り落ちる邪悪な魔力にケインは顔を歪める。魔剣の担い手が現れたと聞いてにわかには信用できなかったが、確信する。
駆け出しと聞いていたが、魔剣が認めた人間だ。強敵に違いない。ケインは獰猛な獣のような笑みを浮かべ棍棒を構えた。
「勝ったら、大人しくこの紋章の持ち主について教えてもらうから」
「はっ、いいだろう! 俺に勝てるもの――」
彼が意気揚々としゃべっている隙に、エスティアは一瞬で間合いへと入り、魔剣を横薙ぎに払う。だが、彼は簡単に受け止め、ムッとした表情で睨む。
「おいおい! 人が喋ってる時に攻撃をしてくる奴があるか!」
ギチギチ、と魔剣と棍棒が鍔迫り合いを繰り広げる。エスティアが顔を歪めながら魔剣に力を込めているのに対し、ケインは涼しい表情で棍棒で彼女を押し返した。
強化をしていれば、競り勝ったかもしれないが、現在の彼女は何もしていない。だからと言って、下手に強化して貰って殺しては面倒なので、彼女は軽々と地面へと着地、と同時に駆け出した。
「ふっ、中々身軽な奴だ。だが――」
ケインは棍棒を高く振り上げ、地面へと振り下ろした。地震でも起こったかのように、グラグラ、足場が揺れる。エスティアは転ばないように立ち止まってしまう。だが、そんな彼女の目の前には、勝ち誇ったような表情で棍棒を振り下ろす彼の姿があった。
「力技なら負けんぞォォォォォッ!」
ドゴォォォォォン! まるで爆発でも起きたかのような突風が吹き荒れ、勇者会の旗が天高くへと飛ばされていく。それをシュティレはのんびりと眺める。
砂埃が晴れると、そこには――ケインの棍棒を魔剣で受け止めるエスティアの姿があった。彼は困惑の表情を浮かべる。“なぜ、この少女は受け止められるんだ”、と。先ほどよりも力を込めたはずなのに。普通ではない、平均より身長が高いとはいえ、あんな細腕で受け流すならともかく、真正面で受け止めるなんてあり得るはずがない。
「考えてる暇なんてないよ朽ち果てろッ!」
エスティアがそう呟いた瞬間――魔剣からどす黒い魔力が、溢れ出し彼の棍棒を覆う。彼は咄嗟に棍棒を引こうとするが、全く動かない。筋力だけなら普通の人間に負けるはずがない。それは自他共に認める彼の長所。それが、全く通用しない。
久々に感じる“焦り”に彼は笑みを浮かべる。
だがそんな彼をあざ笑うかのように、魔力は彼の棍棒の中へと侵食し――
「なに……っ!?」
ボキリ、と不穏な音が響く。すると彼の棍棒がまるで、数百年の時が経ったかのようにボロボロに朽ち果ててゆく。彼の表情から笑みが消え、汗が頬を伝う。咄嗟に彼は棍棒を捨て、彼女から距離を取り、睨みつけた。
だがそんなものなど気にすることなく、エスティアは無言で棍棒を魔力事振り払い、無防備の彼に視線を向け口角を上げた。その表情に彼は怒りをあらわにする。
駆け出し勇者にバカにされて、怒りを感じない勇者いないだろう――ましてや、彼は王国勇者だ。
「武器も無くなったし、これで終わりにしない? 私、これでも忙しいの」
「ふっ、お前を少し甘く見ていた。さすがは魔剣の担い手というべきか……だが、これはどうだっ!」
「――っ!?」
どこからか新たな棍棒を取り出した彼は、その図体からは全く想像できないほどの速さでエスティアへと迫り、怒りの鉄槌を振り下ろす。エスティアは驚きの表情を一瞬浮かべるが、すぐに魔剣で受け止める。だがその瞬間、彼は微笑んだ。
「フレイムッ!」
――棍棒が燃え上がる。その温度は普通の鉄であればあっさり溶かしてしまうほどの高温に彼女の表情が歪む。だが、それでやられるほど魔剣を握った彼女は甘くない。
エスティアは魔剣から手を離す。突然抵抗力を失った彼は、バランスを崩してしまう。そして、彼女はそんな彼のガラ空きになった腹部に強烈な右ストレートを放った。
「ガッ、ハ……ッ!」
腹部にめり込んだ拳は彼の硬い腹筋でも防ぎきれないほど鋭く、彼の口から透明な液体が吐き出される。だが、それで終わらない。エスティアはもう一歩足を踏み込み――
「ぶっ飛べェェェェェッ!」
彼を殴り飛ばした。魔剣の担い手となり、元からあった身体能力は大きく向上し、シュティレの強化がなくとも、オーガぐらいの大きさなら殴り飛ばすことぐらい朝飯前だろう。
だが、代償は大きい。身体能力が向上しようと、ベースの肉体はただの人間である彼女の右手は脱力したように垂れている。そして、彼の炎によって籠手の内側は酷いことになっている。籠手が溶けなかったのは不幸中の幸いか、彼女は安心したように息を吐き出し、彼を見つめた。
文字通りぶっ飛ばされた彼は、ゴロゴロと数メートル転がり、次第に勢いを失うと、何事もなかったように立ちあがる。そして、初めて会った時のような人懐っこい笑みを浮かべた。
普通の人間であれば気を失ってもいい程の威力だったが、やはり王国勇者というべきか。彼女はケロッとしている彼に戦慄を覚えた。
「いやぁ、技はまだ粗削りだが、素晴らしい能力だ。俺も年を取ったのかもしれんな」
「……で、私の勝ちでいいですか?」
パチン、と魔剣を鞘にしまった彼女は彼を軽く睨みつける。
「あぁ、今回は俺の負けだ。奴隷商人だと甘く見ていた。すまない」
彼はそう言って頭を下げた。彼女は不機嫌そうな表情をため息と共に落とす。
「まぁ、別にいいです。それで、勇者のこと教えてくれますか?」
「あぁ! 何でも聞いてくれ!」
「じゃあ、まずは――」
エスティアが口を開いた瞬間。一人の青年がケインの元へと駆け寄る。荒い呼吸で鬼気迫った青年にケインの表情が曇る。その様子からして只事はない。エスティアの隣に戻って来たシュティレも不安そうな表情を見せる。
「どうした? なにかあったのか」
「ケインさん! た、大変なんです! コ、コカトリスが出ました! しかも、竜化してます!」
「――なんだと!?」
ケインの表情が一層険しいものへと変化する。そして、二人の方へと向き直り、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すまない、緊急事態がおこった。二人も避難してほしい」
「どういうことですか? コカトリスって魔物ですよね、そんなに危険な魔物なんですか?」
エスティアの言葉に彼は困ったように、自分の後頭部に手を置きながら答える。
「コカトリスは本来パープルランクの魔物なんだ。だが稀に、長生きして強くなった奴はレッドランクに認定される」
「つまり、その竜化? してるやつはレッドランクということですか」
「そうだ、レッドランクのコカトリスはとても危険だ。俺がコカトリスの足止めをしている間に避難してほしい。勇者会の地下室なら安全だ」
エスティアは彼の言葉を聞きながら、避難する村人に視線を向けていた。体の不自由なお年寄りは青年の力を借りているが、速度は遅い。泣きべそをかきながら母親に抱かれ避難する子どもたち。
彼はコカトリスを足止めすると言っていた。おそらく、王国勇者といえど、単身で討伐をするのは無謀なほど強大な魔物なのだろう。彼女は隣に立っているシュティレに視線を移す。すると、彼女は小さく頷く。
「だから早く避難を――」
「足止めなら私たちでもできます」
エスティアの自信に満ち溢れた言葉に彼は絶句する。だがすぐに、眉を顰めながら首を振る。
「ダメだ。お前たちはまだ駆け出しだ、そんな奴には任せん。だから、大人しく避難していてくれ」
有無を言わさない彼の言葉。
「嫌です。ケインさんはとっとと皆を避難させて――手伝いに来てくださいよ」
彼女は、手に回復魔法をかけてくれているシュティレに、「シュティレ行くよ」と声をかけると、風のようにコカトリスが現れたとされる場所へと駆け出してゆく。
ケインは「おい! 待て!」と声をかけるが、彼女たちは振り返ることなく背中がドンドン小さくなっていく。彼は伸ばしていた手を降ろし、急いで村の中へと消えて行った。
村の裏手にやって来た二人は言葉を失った。
五メートルはあるだろうか雄の鶏のような姿で、蝙蝠のような薄い膜をはためかせ、トカゲのような尻尾はユラユラと草原を撫でている。その尻尾が草花に触れた瞬間、それらは一瞬にして枯れ果ててしまう。
これが、レッドランク……オーガやウッズジャガーとは全く違う雰囲気に飲まれそうになる。
ドシン、という音と共にそれは降り立ち、二人を見据えるように瞳を細める。オレンジ色の瞳が二人を捉えた瞬間――
「シュティレ! 危ない!」
トン、と彼女に覆い被さるようにエスティアは草原へと倒れ込む。すると、エスティアの真上を“虹色に輝く帯”が通過し、背後に生えていた木が一瞬にして枯れ果て、ドロドロと溶けるようにその姿が崩れ去る。
コカトリスは避けるとは思っていなかったのか、小首を傾げ、もう一度目を細めた。エスティアは急いで彼女の手を引いて立ち上がらせると、コカトリスの視線が一か所に留まらないように走る。
「エスト! なにあれ!」
「わかんないっ! でも、なんかアイツ、ビームみたいなのを目から出してるみたいなの!」
「ビ、ビーム? よ、よくわかんないけど、とにかくどうにかしないとね!強くなれッ!」
シュティレの魔法によって体の内側から力が溢れ出す。エスティアはそのまま彼女の体を引き寄せ、抱きかかえると――コカトリスが蹴り飛ばしたであろう。コチラに飛んできていた大岩を躱す。スタリ、と着地と同時に飛び込むように大岩の影に隠れ、シュティレを優しく下ろし、彼女はチラリと岩越しにコカトリスを観察する。
コカトリスは、まだ二人を脅威に思っていないおかげか、そこから動く様子はない。だが、コカトリスが降り立った地面はまるで毒沼のように腐臭を放っている。
エスティアは「虹色の癖に随分と酷い匂い」と呟き、顔を歪めながら鼻をつまむ。シュティレはそんな彼女の言葉に首を傾げつつ、口を開いた。
「エストはあのビームが見えるんだよね?」
「え? シュティレはもしかして見えない……?」
目を丸くしながら聞き返す彼女に、シュティレは小さく頷く。原理は全く分からないけど、エスティアにはコカトリスの攻撃が見えている。
シュティレはローズウッドの杖を握り締め、彼女の瞳をまっすぐ見つめた。
「エスト、少しでいい。あれの気を引いて欲しいの」
「え、それはいいけど……どうするの?」
シュティレは補助魔法しか使えない。一体どうするつもりなのか。エスティアは心配そうに見つめるが、彼女は笑みを浮かべる。
「大丈夫。私を信じて」
青い瞳がまっすぐにエスティアを射抜く。彼女がここまで言っているのなら信じなければ。エスティアは彼女の頭にポン、と手を置く。
「わかった。信じるよ」
「うんっ! 期待してて!」
エスティアは魔剣を鞘から引き抜き、転がり出るように岩陰から飛び出した。それに気づいたコカトリスが彼女の魔剣を睨みつける。
そして、喉を天へと向け。
高らかに吠えた。




