9. オス襲撃事件・緒戦
宇宙文明にとっての可住惑星は、存在自体が貴重品とされる。だから惑星環境を大規模に破壊するような行為は手控えられるし、宇宙戦争で使われるような大出力兵器の使用もタブーだった。
が、それを平気で踏みにじるような勢力もある。常識だの良識だのを屁とも思わない連中は、いつの時代にもいる。
この場合、宇宙海賊がそうだった。
彼らはそもそも惑星に住むつもりはないし、環境を破壊しようと人死にがどれだけ出ようと、彼らの利益になりさえすれば良い。領土欲も持たないから、その惑星が荒れ果てて人が住めなくなろうと、知ったことではない。
軍事コンサルタントを名乗る傭兵団崩れの海賊団「メインウォーリングス」は、宗教的情熱もイデオロギー的使命感も持たず、国際政治に対する貢献意識も社会問題に対する批判意識も持たず、現世的な利益のみを求める軍事組織だった。
彼らがオーステルハウトの生物化石に目を付けたのにはいくつか理由があるが、なにより大きな理由になったのは、オーステルハウトの状況が彼らにとっては無防備同然だったことだろう。
後進国かつ宇宙的な交易体制の中に組み込まれていない大田舎のオーステルハウトでは、近隣諸国との地上戦や制空権争い程度の戦力は備わっていたが、そんなものは宇宙海賊らにとってはさしたる問題にならない。武力の差は懸絶しているといっていい。
また、彼らには生物化石を手に入れた後の売却先に複数のルートがあった。売り先相手に値段のつり上げ交渉を行う中で、軍事行動を起こしても十二分に大きな利益が見込めるようになれば、動かない理由がない。
オーステルハウトを襲ったからといって、経済制裁や政治的な孤立を招くこともない。自分たちが拠点としている艦船が無事でさえあれば、あとは何とでもなるという計算もある。
まともに軍事コンサルタントを行っている集団ならば、あまり悪評が先行するとクライアントがつかなくなるから手控えそうなものだが、メインウォーリングスはすでに悪評芬々たる宇宙海賊であり、今更まともな傭兵稼業……傭兵稼業がまともであるかは別として……に戻れるとは本人たちも思っていなかったから、オーステルハウトの化石には今のところ競合相手もいなさそうとなれば、さっさと奪い取ってしまおうと考えても何ら不思議はない。
「化石に一切傷をつけるなよ」
ということだけを条件にして、海賊団メインウォーリングスのボス、ハイレッティンは部下をけしかけた。
旗艦「シナン・レイス」を中心とした大小二三隻の艦艇で構成された海賊団は、惑星内の諸国が共同で出資し管理している恒星圏境界を当然のように無許可で推し通った。
本来、列強各国であれば、この時点で緊急防衛出動が始まる。自国で設定した防衛圏を越境されれば、問答無用で攻撃するのがまともな国の防衛思想というものだ。
だが、惑星防衛艦隊は動かなかった。こうも傍若無人に攻め込んでくる勢力がこれまでいなかったから、ということもあるが、まずは交易拠点である惑星の衛星軌道上に位置するステーションを防衛するのが最も大事なことで、彼らの戦力を考えれば艦隊を分けて海賊にぶつけることは難しかった。
惑星内の諸国家が共同管理している軍だから、簡単に即応できなかったという面も大きい。指揮系統は一応明確になっているが、出動そのものは政治判断が必要である。その政治判断に時間が必要で、たいてい政治判断というものは即応を求めて出てくるものではない。
海賊団は防衛圏を侵害し侵入してきたが、この時点では目的が分からない。
破壊行為が目的なのか、どこかの国がライバル国を倒すために雇ったのか、海賊といえば定番の人さらいにでも来たのか、目的が分からなければ対処のしようもない。
防衛艦隊が動かず、自動迎撃システムのみが海賊団の行く手を阻んだが、「シナン・レイス」をはじめとする艦艇の攻撃で瞬時に破壊されてしまった。
迎撃システムは小惑星を使った小型要塞のような攻撃衛星を複数組み合わせ、そこから放つ要塞砲やミサイルで迎撃を行う。防衛軍の切り札だが、いかんせん古いうえに、後進国の悲しさで資金がないから、そもそも攻撃力が低い。
海賊団の艦艇から放たれた高質量弾のレールガンは、光速の五〇パーセントという高速で衛星を襲った。弾頭の質量は大柄な成人男性と同じくらいだが、質量に加速度をかけた破壊力は衛星の防御力を遥かに超えていたから、簡単に破壊されてしまった。
この時点で、惑星は大混乱である。突然の緊急事態に各国政府は浮足立ち、有効な施策など打ち出せようもない。
海賊が現れることは珍しいことではなかったが、ここまで戦力が整った軍事勢力として現れることは滅多になかったし、折悪しく列強の艦船なども宇宙港に入港していなかった。自国の艦船が寄港していれば列強が海賊退治に動いてくれることも期待できるし、そもそも海賊が来ることもなかっただろうが、いなければわざわざこんな辺境に助けを出してくれる期待など持てない。
複数の迎撃衛星をすべて沈黙させるのに少々時間は要したものの、海賊団は無傷で防衛システムを壊滅させた。
その間、オーステルハウトは何もしていない。
何もできなかったというより、何もしていない。
そもそも宇宙レベルの防空体制など持っていないのだから何もできはしないのだが、驚くべきことに、この非常時に政府の有事に備える委員会の招集すら行わず、入ってくる情報をただ受け取るだけで嵐をやり過ごそうとしていた。
平和ボケといわれても仕方がないが、国内の反政府勢力や不仲な隣国との争い以外に経験がない現政府に、こんな突発時の対応能力などなかった。
「レールガン一発でどれだけ金がかかっているかわかるな貴様ら」
海賊団の首領ハイレッティンのセリフだ。
「さっさと奪うものを奪って、とっとと元を取るぞ」
海賊団は迎撃システムの撃滅が終わると、速やかに惑星の衛星軌道上に向かった。
惑星には自転があるから、彼らがどこに向かっているかはわからなかったが、少なくとも惑星に向かっていることはわかる。衛星軌道ステーションの、惑星を挟んだ反対側に侵入した海賊団を、ステーションの防衛艦隊は攻撃できない。惑星は無力だった。
強烈な減速で艦隊の相対速度を惑星軌道に合わせていくのに五時間ほどかかったが、海賊団はほぼ無抵抗のまま衛星軌道上に乗り、やがて地上との相対速度をゼロにした。
オーステルハウトの首都オス上空だった。
ここで初めて、オーステルハウト政府の面々は青ざめた。事態がここに至るまで、自分たちが狙われているなどと考えもしなかったし、敵の正体すらまともにつかめていない。
宇宙海賊メインウォーリングスは決して無名でもぽっと出でもないのだが、無能な政府とはこんなものだった。
オス上空に現れた時点で、他国は海賊団の目的を察している。生物化石の強奪以外にありえない。
自国で出土せずに悔しい思いをしていたところだったから、とっとと引き渡して海賊にはお引き取りいただき、これ以上被害が加わらないようにしてくれ、とどこの国の首脳たちも思ったに違いない。そうなってくれれば、少なくとも自分たちの胸は痛まない。
首領ハイレッティンは、静止軌道上からオーステルハウト政府に対し、何の接触も試みなかった。脅し上げるのが先だ、との考えからだ。時間をかける気がないので、交渉に手間を取られるのを嫌った。
オーステルハウト軍は政府の動きとは別に臨戦態勢を取りつつあったが、対空防御の兵器はあっても、衛星軌道上の艦隊を効果的に攻撃するような兵器は持ち合わせがない。対空防御の一つとして、軍や政府施設付近の上空に電磁波をゆがませて観測を困難にする力場を展開するくらいで精一杯だった。
オーロラのように多彩な光の幕が躍ることから「オーロラフィールド」ど呼ばれる力場で、古典的だが一定の効果はある。
が、これは質量弾攻撃を無力化する力場や、光学攻撃を無力化する力場などと組み合わせて使って初めて威力を発揮する。攻撃側の出力が高ければ大気が攻撃をパワーダウンさせる効果はたかが知れている。各種防御力場無しでは、観測が困難になっても威力そのものを減らす事がほぼできない。
だいいち、公開されている地図情報があれば、海賊団には充分である。移動する軍団を攻撃するのならともかく、軍事施設の横にある生物化石を保管する施設を襲撃し、奪取できればいいのだから。
「ぶちこめ」
ハイレッティンの号令で、旗艦シナン・レイスの砲が火を噴いた。
ビーム兵器は大気の影響ですぐ拡散してしまうから、衛星軌道上からの攻撃には不向きである、というのは常識のように語られているが、ウソである。充分に高出力高密度のビーム兵器は、大気を割って進む。衛星軌道上から直線的に撃つのであれば、たいして影響など受けない。
オス郊外の地上軍基地の主要施設が、一瞬で消滅した。高出力の砲撃で、数十万度の熱に焼かれ、蒸発し、その周囲は爆発で吹き飛び、あるいは焼かれた。
隣接する生物化石を収めた施設に直接の被害はなかったが、それを守備すべき地上軍は司令部を失った。
突然現れたオーロラフィールドの幻想的な光景から一転、地上は灼熱地獄と化していたが、驚くべきことに、この時点でオーステルハウト国内には政府から何の情報も提供されていなかった。マスコミが様々な情報を無定見に選別もせず垂れ流すために、市民はただでさえ混乱していたのだが、政府が何の発表もしないためにどの情報が正しいのか、正しいと信じればいいのかがわからず、市民の混乱は拡大するばかりだった。
海賊の砲撃で郊外に大被害が出た時、オス市内の旗士学校でもようやく混乱が起きていた。それまでは授業が行われていることもあって外界の情報が遮断されていたが、さすがにオーロラフィールドが上空で乱舞すれば異常事態がわからないはずがなく、衛星軌道上からの砲撃はすさまじい轟音と共に地上に衝突しているから、校内は騒然となった。
この時点で、既にレイは校内にいない。
海賊の進出に伴いオーロラフィールドが展開された時点で、レイは学校から黙って外に出ていた。妙に存在感が無いこの少年は、誰もが「気が付いたらいなかった」と口をそろえる絶妙の抜け出し方をしていたという。その後の彼の人生でも度々披露される特技である。
学校を抜け出たレイは、バイダルといち早く合流している。オス新市街の北端、低層の建物が区画に従って整然と並んでいる地区の街路上である。
「お疲れさま」
といってバイダルが操縦する浮上車に乗り込んだレイの顔は、どう見ても緊迫感とは無縁だった「相変わらずのんきそうだな」
多少は状況に対し緊張感を持っていたバイダルも、レイのうすぼんやりした顔を見て気が抜けたらしい。
「べつにのんきでもないんだけど」
「緊張感のかけらも感じないがね」
「お互い様だよ」
わずかな会話の間に、バイダルの車は上昇を始めている。
本来、都市で浮上車が言葉通りに浮上することは許されていない。空中での三次元管制など、市内全域で許していたら情報量が多すぎて交通行政が破綻してしまう。専用の区域でなければ浮上走行そのものが禁じられていたし、浮上しても市の管制に従っての自動運転しか認められない。
だから、バイダルが明らかに自分で操縦しているこの状況は違反行為でしかないのだが、それを取り締まる交通警察など、この状況下ではいない。
「状況はどこまでわかっている?」
バイダルが尋ねる。レイは淡々と答えた。
「バルバロス海賊のパクリみたいな名前の海賊が押しかけて来て、玄関先で銃をぶっ放そうとしてる」
「ご名答、解説はいらないらしいな」
裏旗士として様々な海賊の情報も持っているバイダルだが、レイの回答はどうやら彼以上に情報を持っているらしいことを伺わせていた。
バルバロス海賊というのは、まだ人類が地球での空の飛び方も知らない頃、地中海で活躍したイスラム教徒の海賊のことだ。西洋社会を震撼させ続けたこの海賊たちの中に、バルバロス・ハイレッディーンの名があり、シナン・レイースの名がある。宇宙海賊がその名を騙っていると知っている時点で、相手が誰なのか正確に分かっているということだ。
何度も説明するようだが、このとき、レイは九歳である。
ちなみに、この時点で海賊たちは特に名乗りは上げていないし、何かの布告も行っていない。恐らく、オーステルハウト政府の人間で、海賊たちの名前まで知っている者は、この時点ではいなかった。
「政府は無能が過ぎて凍り付いている。何も行動が起こせていない。他国も似たようなもんで、この惑星は丸裸レベルで無防備だ」
バイダルがいうと、レイがうなずいた。
「想像通りだね。こちらが動きやすくて好都合だよ」
「まったくだ」
バイダルは浮上車の速度を上げ、オス郊外に抜けていった。高度を下げ、農業施設の建物が並ぶ一画へと進入していく。
「賊の狙いは化石だろうな」
「それ以外にわざわざ奪いに来ようとするようなお宝はないと思うよ」
「だとしたら、地上に進行してくるのは間違いないな」
「陸戦隊を展開してくるだろうね」
「どうする?」
バイダルが視線を向ける。レイはぼんやりした顔で答える。
「叩く」
「簡単にいうね、どうも」
バイダルが苦笑した。
「放置しておきゃ、勝手に獲って勝手に帰るぜ?」
「だろうね」
「連中は巻き添えで何人死のうが知ったことじゃないだろうが、弾を無駄にしてまで殺しまくる気もないだろう。さっさと化石を献上してお帰り頂けば、それで済む話だ」
バイダルは浮上車を止めた。
「それでも叩くと?」
レイはかすかに首をかしげた。
「彼らの襲撃でオーステルハウト政府は倒れるよね。ここまで無能さらしたんだから。そしたら、僕が作った平和にも多少は影響が出る。これは万死に値すると思わないか?」
「……ほとんど言いがかりだな」
「それに、この襲撃が簡単に成功したら、次に別の海賊が人間狩りに来たっておかしくないよね。相変わらず海賊の一番の商売は人身売買らしいから」
そうなればオーステルハウトは草刈り場になる。
「ここで賊に痛い目に遭ってもらわないと、もっと面倒になるよ」
「了解」
バイダルはうなずいて車の電源を切った。スライドのドアを開き、外に出る。
「じゃあ、賊どもは叩っ殺していいんだな」
「重武装の機動戦力相手に生け捕りにしろとか無理いうつもりはないよ」
二人がたどり着いたのは大型の農機具を収める倉庫で、正面の大きなシャッターの脇にある小さい入り口から中に入っていく。
三重の扉をそれぞれの警戒システムを解除してくぐって入った部屋には、農機具は一つもない。
そこには、大きくのっぺりとした箱形のコンテナと、様々な小型の容器が整然と置かれていた。
コンテナには特に表記はないが、唯一、小さな制御盤の横に数字だけが書かれている。コンテナは数が五つ、それぞれ1から順に数字が振られていた。
制御盤は平面のディスプレイパネルだが、レイがそこに触れると、レイの個人認証で起動し、平面パネルの上に三次元画像が浮かび上がった。
「本当はシェイクダウン(起動試験)しときたいんだけど、時間がないからぶっつけ本番になるよ」
コンテナの中身は大型の機械である。三次元画像はその各部の状態を表示している。
「インスタレーションテストはこの前やったぜ」
別のコンテナ前で同じような画面を見ていたバイダルがいう。両手で素早く三次元画像内の数値やグラフを操り、状態を確認している。
インスタレーションテストとは、機械を組み上げた際にパーツがきちんと組みあがっているかを確かめるためのテスト。機械が仕様通りに動くかどうかをチェックするシェイクダウンとは、意味が違う。インスタレーションがうまくいって初めてシェイクダウンが可能になり、そこで問題を洗い出して本番に臨む。
「それで不具合が洗い出せればエンジニアは苦労しないんだよ」
とレイはベテランエンジニアの愚痴のようなセリフを吐く。バイダルはいちいち突っ込まずに流す。
「エミュレート(模倣演算)プログラムはずっと走らせてるんだから大丈夫さ」
中の機械をチェックしつつ、ごくわずかな肌の分泌物を使ってのバイタルチェックまで済ませていく。
「リモートで電源は入れてあるから、武装系のデバイスはすぐ使えるけど、防御系はさすがに出してチェックしないと怖いから、多少時間はかかるよ。そのつもりで」
「了解、ボス」
二人はほぼ同時にコンテナを開け、どんどん準備を進めていく。
地上からの防空攻撃がないとわかると、海賊団は上陸準備に入った。
全艦船を地上に下ろす、という選択肢はない。ここまで大きな惑星の重力圏から抜け出すのには莫大なコストがかかるからだ。
そこで運用されるのが揚陸艦、重力圏に降下し兵員や兵装を輸送するための艦艇である。今回は分厚い大気を持つ惑星だから、揚陸艦もそれなりの装備が必要になる。
特に冷却系を強化し、たいていの機器にとって致命的な毒物になる水の侵入を防ぐ処置も施した上で、五隻の揚陸艦が出撃準備を整えている。このうち三隻までが巡航艦クラスの艦砲を備えた重武装型である。
中には、陸上戦で用いる車両や飛行舟艇、機動歩兵部隊の専用装甲車などが出動を待っている。
その中で最も強力な戦力が、重装特殊兵装と呼ばれる一式を装備した兵種である。歩兵の一種だが、その名が示す通り、途方もない重装備と重装甲のユニットをまとった兵士であり、その火力と機動性で地上戦最強兵種とされる。
軍人の間では単純に「ギア」と呼ばれる。頭文字を集めた略語としてHEAS-gear(Heavy Equipment Armored Speciallity gear)と表記される場合も多いのだが、戦略兵種として定着した今、わざわざその呼び名を使う者はいない。
もともとは旗士がその力を戦場で十分に発揮できるようにと作られた重装備の装甲ユニットだった。要求水準が上がるにつれて装備が過剰になり、出力が大きくなり、防御系も強固になり、次第に大型化していった。当初は旗士の力のみで動いていたものが、充電池で補助動力系を回すようになり、それでは足りずに発電ユニットを搭載するようになり、現在では実用レベルではもっとも小型の対消滅エンジンを搭載している。
旗士という特殊な人間は、古くからその異能のために、祭り上げられるか虐げられるか、極端な立場に置かれることが多かった。祭り上げられれば、リーダーとして、あるいは貴族として、自らが身を挺して人々を助けることを要求された。
その伝統とテクノロジーが結びついた時、単機で圧倒的な破壊力を持つ決戦兵種としての「重装旗士」が生まれ、兵器としての「ギア」が生まれた。
もとは旗士の力を生かすための重装甲だから、旗士の動きを強化して再現するようにできている。当然ながら人型のパワードスーツだ。それが、出力が増大するにつれて大型化した。
海賊団が保有しているギアは統一されておらず、年式もメーカーもばらばらだったが、概ねサイズは補器類を除いた全高で一〇メートル程度。主武器である重粒子ライフルの出力はどれも小型の砲艦レベルで、貫徹力は核シェルターを吹き飛ばす。
メインウォーリングス海賊団の保有ギアは18機、今回の作戦では12機を動員する。
ギアに大気圏降下能力はないので、揚陸艦で地上に降下後に運用開始する。
旗士たちはだいぶ余裕がある。
当然といえば当然で、ろくな対空防御力も持たない後進国の軍隊相手に、しかも施設を襲撃して化石を接収するだけの任務だから、歴戦の彼らにしてみれば緊張感の持ちようがない。地上に降下する際の大気の抵抗の方が、よほど緊張を呼ぶ。
『各揚陸艦、ロードマップに従い作戦行動開始準備』
艦隊管制からの指示が出ると、ギア担当の旗士たちは続々と搭乗準備に入った。艦艇が降下行動に入る前に搭乗を完了し、降下後すぐに出撃しなければならない。
襲われる方のオーステルハウト軍にもギアはある。いくら後進国とはいえ、地上戦において最強ともいえる兵器を導入しないわけがない。ただ、数は少なく、現在本国で稼働できるギアは十機に満たない。
そして、そのほぼすべてが艦砲射撃で全損していた。出撃前のギアなど、金属と合成樹脂の塊であるにすぎない。艦砲射撃で電力などのエネルギー供給が停止し、非常用電源すら破壊され寸断されている状況では、高価なゴミでしかなかった。
状況は最悪といっていいが、最悪の状況であるということすらまともに把握できていなかったというのだから、オーステルハウトという国が、あるいはその軍が、どれだけ弛緩していたか、あるいは機能不全に陥っていたかがわかるというものだった。
海賊団が艦艇を降下させてきた時点で、抵抗する力はすでにない。
揚陸艦がほぼ無抵抗で大気圏を降下、オス上空に遊弋を開始した直後、艦艇からギアが全機降下を開始した。躊躇も遅滞もない。
今回は有翼の飛翔ユニットは必要がないから全機装備しておらず、強力なロケット噴射が可能な簡易飛行ユニットを背中と脚部に装備している。それを噴射させながら降下を開始したギアは、まっすぐに生物化石が収容されている施設には向かわない。
まずは、すぐ隣の地上軍施設を無力化するのが先である。
衛星軌道上からの砲撃ですさまじいダメージを受けた地上軍基地だが、抵抗できる戦力が残っていれば、施設襲撃の際に邪魔になる。いくら強力な防御性能を誇るギアでも、密度を極限まで高めた狙撃銃で関節部分などを狙われれば、思わぬ不覚を取ることもないではない。さらに、化石を収奪する際はギアではなく人の手で作業することになる。そこを狙撃されればさすがに守り切れない。
というわけで、海賊団のギアは散開し、周辺の軍事施設に攻撃を開始した。
対消滅エンジンを利用したロケットで、それぞれ地上から五〇〇メートル程度の高さにホバリングしながら、海賊団のギアが主武装である重粒子ライフルを連射した。距離が無いに等しいから、エネルギーの収束率を思い切り下げ、散弾銃のような使い方をしている。それで十分な破壊力が得られる。
宙に浮く巨大な人間が、何条もの光の筋をばらまいているように見える。
その直撃を受ける軍の施設が、次々に吹き飛び、火を上げ、撃破されていく。
オスの一般人たちの目にも、その姿は映っている。何が起こっているかがわからないままに避難行動を開始した者もいれば、おろおろしているうちに攻撃が開始され茫然と見上げているだけの者もいる。
軍事施設は、人が住んでいるような区画からは少々距離があるところに設置されていたとはいえ、地平線の彼方というほど離れていたわけでは決してない。遊弋している艦艇の姿はオス全域から見えたし、ロケット噴射の爆音や射撃の轟音は市街の空気を切り裂いていた。
大気圏外からの攻撃で恐慌状態に陥っていた都市は、その混乱を極めていた。
そんなことは知ったことではない海賊団の暴虐な攻撃はしばらく続いたが、存分に周辺地域を破壊しつくすと、すべてのギアが化石収容施設の周辺に集結した。揚陸艦から続々と降下した陸戦隊がそれに続き、ギアの護衛のもと収奪に取り掛かる。
海賊団は悠々と目的を果たすかに見えた。




