4. フィリップ八世
幼等部一年生の段階で、旗士の課程を学ぶ児童が学ぶのは、とにかく基力の扱い方だ。旗士としての力比べなどまだまだ早いし、それでなくともまともな体の使い方もできない子が多いから、読み書きの基礎を習うように基力の基礎をみっちりと仕込まれるのが定石だ。
だが、貴族の家には家庭教師がいて、そのあたりはすでに仕込んでいる場合もある。ある程度のレベルに達していれば、上級生に交じって旗士として戦い始める者もいる。
カノンは皇女として宮廷の奥深くで女官に囲まれて育ったが、べつに甘やかされてばかりいたわけではない。
女官の中には帝国軍の宮廷騎士団で現役騎士を務める者もいた。護衛として旗士が皇族や貴族の子弟の側近に任命されるのは当たり前のことで、カノンが女性だから護衛も女性が任命されるのはごく当たり前のことだった。皇室の場合、規定により必ず三名以上の騎士が護衛に入る。
この騎士たちに、カノンもしっかり教育を受けた。
なにしろ進学したら本人が困ることなので、騎士たちも最低限のことは教えなければならない。基力の扱いは、間違えれば自分を破壊したり人を傷つけたりするから、なおのこと重要だ。皇女が基力の暴走で人を傷つけた、などという事態になったら、騎士だけでなく皇女付きのスタッフ全体の責任問題にもなる。
カノン自身より周囲の方が本気になって取り組むという光景が見られたのだが、周囲にとって幸運だったのは、カノンが旗士であるというだけでなく、基力の扱いに天性の器用さがあったことだった。
「天才だ」
という声が日ごとに増していったのは、持って生まれたセンスの良さに加え、そのうちに秘められた基力が底無しと思えるほどの量だったからだ。
基力にも大いに個人差がある。かろうじて基力の流れは測定できるものの、目に見えるような効果は何一つ得られない場合もあるし、逆に巨大なビルを倒壊させるようなとんでもない力を持った旗士がいたという過去の事例もある。
幼児のうちは体が耐えきれないから、基力を最大限引き出すことを目標にはしない。まずは扱い方を覚え、出過ぎないように制御する方法を体得する方が先だ。
カノンはこの基力の特訓を日々積み重ねていたのだが、たいがいの皇族や貴族の子女が途中で嫌になって投げ出したり泣き出したり動かなくなったりするこの特訓を、けっこう楽しそうに続けていた。
特に制御の特訓は、集中力を必要とする上に単調で、しかも出せるだけ絞り出す訓練と違って達成感が少ない。
子供にとってこんなつまらない特訓はないだろう、と経験者である指導役の騎士たちも思うくらいなのだが、カノンは平気でついてきた。
「楽しゅうございますか、殿下」
基力を測定する装置の前に座り、ランプが示す最大値まで基力を出したらそのままじっと維持する、という自分たちでやらせていてどう考えても楽しそうには思えない特訓中、意外に明るい顔をしている幼児のカノンに、ある騎士が恐る恐る聞いてみると、カノンはきれいな顔に満面の笑みを浮かべた。
「まことに楽しい」
何が楽しいのかさっぱりわからないが、基力を操ること、それ自体にカノンの愉悦があるらしい。
「だから天才なんだよ」
と、期間中主任を務めた騎士がいう。
「先代の皇帝騎士団騎士長閣下がそうだ。子供のころから基力を扱うことそれ自体が楽しくて、夢中になっている内に様々な技が備わったとおっしゃっていた」
天才旗士として名を馳せ、特に恐ろしく細やかな技術で他を圧倒していた騎士の話だ。とっくに引退して楽隠居しているが、全盛期は宇宙にその名を轟かせた。
「スポーツでもそうだろう。単調な練習でも楽しくてしょうがないという奴が伸びる」
というわけで、カノンは日々成長し、才能を開花させ、帝立学院入りした時点ですでに帝国軍のどこの騎士団でも受け入れられるという水準に達していた。まさに天才だった。
皇女が年齢的に飛び抜けたレベルにあることは、帝立学院にも知らされた。学院も入学後に各児童の実力を量るから、カノンのレベルの高さはすぐに分かった。
カノンのほか十数名の児童が、既に基礎訓練の段階は終わっているということで、単調な特訓を課されている児童とは別の訓練を受けることになった。
ここで、ジュスティーヌやジャンが出てくる。
最上級生が下級生の訓練に付き合う場合、相手が一年や二年だと、まだ基力を制御する段階にあることが多い。
カノンら実力がすでに基礎訓練の段階を脱していると判断された児童は、ジュスティーヌやジャンなど特に優れた最上級生が相手をすることになる。
自分もそういう道を歩いてきたから、ジュスティーヌもそのことに戸惑いはない。何をすべきかは決まっているし、別に難しいことをさせるわけではない。
「一年生諸君、今日よりそなたらを指導すべく任されたドゥ・サントだ。ケガの無いよう、十全に気を配り、ついてまいれ」
七年生の中でも特に秀でた旗士とされる五名が、一年生と二年生の一二名を見ることになった。秀でた旗士、に選ばれた中にジュスティーヌとジャンがいる。現在、帝立学院幼等部で帝位争いのトップを走ると目される二人だ。
先日の出会いでなかなか強烈な印象を受けていたカノンを見て、改めて二人はこの皇女が色々と尋常ではないらしいことを感じ取っている。
「まず、この偽剣を」
上級生が渡したのは、剣の柄のような形をした短い棒だ。先端から短く細い鎖が下がっている。
基力がかかるとその流れを受けた鎖が中から引き出されて長く伸び、直立する。鎖の周囲を流れる基力から生じた電磁波流は様々な効果を生むが、通常は分子間力を無効化するような使い方をして、物を切断する。剣として使えるため、偽剣という。
他にも、膨大な熱量を発生させたり、あえて微弱な基力を流すことで電磁警棒のような麻痺を引き起こす道具として使ったりする。銃のような使い方もできるし、この辺りは使い方に習熟して来たら誰でも習う。
旗士にとってはごく基本的な、あるいはもっとも一般的な道具がこれだ。
だからこそ、騎士はこの訓練を嫌というほどさせられるし、生涯使い続ける。
実体の剣や刀と違い、外部からの制御を受け付けるというメリットがある。学校で使うなら、この授業ではここまでの使い方が可能、と学校側で制御が可能で、仮に危険な状態になったら教師が離れたところから動力を切ったりすることもできる。
帝立学院では実体の剣や刀は危険だから一切使わず、この偽剣で統一していた。
「使い方のわからぬ者はこの中にはおるまい、おれば名乗り出よ」
ジュスティーヌがいうが、当然誰も名乗り出ない。カノンもそうだが、選抜組に入ってくるような連中は偽剣の基本的な訓練など入学前に終わっている。
「よろしい、では起動」
全員、偽剣の安全装置を外し、起動させる。鎖が一斉に伸び、基力をまとって直立した。
「斥力式に切り替えよ」
偽剣の鍔元にセレクターがあり、斥力式に切り替えると何かを切断するのではなく、棒のように使えるようになる。事故を防ぐため、練習ではこのモードを使うのが一般的だ。
メーカーや型番によっていろいろと使い方が違うために戸惑っている子供が多かったから、上級生が帝立学園の標準偽剣の使い方をそれぞれ教える。
「そなたらに渡した偽剣は斥力式と単に鎖を直立させる直立式としか使えぬ。直立式ではケガをする恐れがあるゆえ、常に斥力式を使うように」
ジュスティーヌの説明に、下級生たちは元気よく返事をする。先生や上級生の指示には元気よく返事を、というのは、規律と服従を学ぶ帝立学院では当然のルールである。
「では、これよりしばらく、この偽剣を消さずにおれ。一瞬たりとも垂れさせたり、停止させたりしてはならぬぞ」
基力を安定して供給する、という訓練だ。初歩中の初歩だが、意外に難しい。
基本的な基力の使い方はできるようになっているはずの子供たちも、いざ偽剣を上級生のいうとおりに構えたり、振ったり、持ったまま歩いたり、走ったりしているうちに、鎖がだらりと垂れてしまったり、基力の供給が途切れて偽剣の鎖が本体の中に収納されてしまったりする。
偽剣の使い方には習熟しているはずの子供たちだが、学院の偽剣は特に出力特性が過敏に設定してある。これを使いこなせてこそ、安定して偽剣を扱えるようになるからだが、一般的な偽剣と比べれば扱いは格段に難しい。
中には思い通りにいかなくて癇癪を起したり、泣き出してしまう子供も出てくる。
それらをなだめたり、使い方を教えたり、上級生たちもなかなか忙しいのだが、そんな中でカノンだけが平然としていた。
何をしていても、偽剣はしっかりと直立し、かといって剣を振ったり走ったり止まったりという動作が乱れることもなかった。基力の維持に集中しなくても、安定して供給できているということだ。
指導しているジュスティーヌは、その嫌でも注目せざるを得ない子供の姿を目にとめた。
なにしろ幼いころから敵と思い、多少分別がついてからもライバルになると思い、実際にその目で見て怖さを感じた相手のことだから、少し逡巡した後、
「カノン」
とジュスティーヌは呼んだ。
皇女といえど、学院内で上級生が下級生を呼ぶときに敬称はつけない。爵位もつけない。名前呼びが基本だ。一歩でも外に出れば「殿下」と呼ぶが。
「そなたにはこの訓練は不要のようだな」
カノンはジュスティーヌを見上げ、「はい」と答える。指導者がそばに来たら、偽剣といえども剣だからその切っ先を下げ、相手の逆に向けるのは礼儀だが、カノンはちゃんとそうした。皇宮で作法までしっかり習っていたらしい。
「では軽く打ち合いなど致そうか」
なぜか男子より女子に人気があるジュスティーヌは、左腰のベルトにかけていた偽剣を取り、起動した。旗士でない学院生の女子たちが見学していたりするのだが、その姿に歓声を上げていた。すべて女子の声。
「左右打ちから参ろうか。わかるか?」
「存じております」
剣を互いに頭上左右からふるい、打ち合わせていく。一番基本の練習だ。
身長差があるのでジュスティーヌは偽剣をほとんど振り上げず、振り下ろした手の位置をできるだけ下げなければならないが、本気の打ち合いではないから別に難しいことではない。
カノンとジュスティーヌが互いに息を合わせ、打ち合いを始めた。
斥力式の打ち合いは、いわば棒と棒の打ち合いだが、互いに相手を弾こうとする力が働くから……厳密には棒状になっている偽剣に斥力が発生しているのではなく、鎖の周囲を複雑にめぐる基力の細かい流れ同士で反発しあっているのだが、他のモードになっている偽剣より反発力が高いのは事実で、あまり強く打ち合うと互いに弾かれそうになる。
体重でいえばカノンの方が相当小さいわけで、反発力が生じれば不利だ。ジュスティーヌもこんなところでセコくいじめる気はさらさらないので、自分は壁だと思って偽剣を出している。
カノンの剣さばきは、見事だった。左右の頭上から剣を交互に振る、その軌道が乱れない。同じところから同じ力で剣が出てくる。
構え方や剣の握り方、足さばきなどは帝家のお家流ともいうべき剣技で、ジュスティーヌもそれで習っているからなじみが深い。だからこそ目も厳しくなるのだが、ジュスティーヌか見る限り、たかだか幼等部一年生が振るにしては安定しすぎるほど安定している。
「いうべきこともない。立派なものだ」
感心した。
彼女自身も天才と称され、学院入学と同時に別枠に入れられたくちだ。自分もこんなふうに上級生から驚きと複雑な思いとを持たれていたのだろうか、と思ったりもする。
かつて敵と思い、やがてライバルと感じ、つい先日怖さを感じた相手を、嫌いになれないジュスティーヌがいた。
この時、誰も思いもしていなかったことが起きていた。
幼年学校の、カノンやジュスティーヌたちがいる区画とは別の一画が、にわかに騒がしくなっていた。
最初、誰もそのことに気付かなかったが、やがてその騒ぎが近付いて来るにしたがって、上級生たちから気付いていった。
「ジュスティーヌ」
と呼んだのはジャンだった。
カノンを相手に別の打ち合いを始めようとしていたジュスティーヌは、ジャンを見て怪訝そうな顔をした。打ち合いを始めるタイミングで声をかけるというのは、あまり良いことではない。
「あの騒ぎ」
ジャンが指さした方を見て、騒ぎには気付いたが、何の騒ぎかはわからない。
カノンは、上級生二人の様子を見て剣を下げ、一緒に騒ぎの方向見ていたが、不意に騒動の原因に気付いたらしく表情が無くなった。それまでは楽しそうにしていたのだが。
やがて、二人にも正体が分かった。
「まさか」
「陛下!」
幼年学校に、皇帝フィリップ八世が現れていた。
侍従武官や近衛兵、学校の関係者など総勢三〇人ほどを引き連れての御一行。
たまにあるらしい、とは聞いていたが、少なくともジュスティーヌやジャンが入学して以来、入学式や卒業式などの式典以外では一度たりとも来たことはないはずだ。式典でも、二度ほどしか見たことが無い。
そもそも帝立学院というくらいだから、皇帝が運営しているという体の学校だ。実際に皇帝が運営に参画することはもちろんないが、それでも式典に参加することもあるし、入学卒業の折には必ずメッセージが寄せられる。
どうして……といいさして、ジュスティーヌはバカバカしさに気付いた。
目の前に、目的がいるではないか。
皇女カノン。
思わず、カノンを見た。
カノンは無表情のまま立っていた。基力の供給が断たれた偽剣は鎖が収納されている。顔は皇帝とその取り巻きの方には向けず、ジュスティーヌとジャンの間あたりを見るでもなく見ている。
これが父を迎える娘の姿だろうか。
騒ぎはやがて旗士訓練中の一年生騎士たちがいる方に近付き、教員や武官たちが先触れの声を発している。
「子供たち、畏れ多くも皇帝陛下のご来臨である。その場で構わない、片膝立ちになりかしこまれ」
口々にその指示が飛び、子供たちがどんどん姿勢を整えていく。
ジュスティーヌもそれに従う。片膝を地面につき、片膝を立て、地面についた膝の脇に偽剣を握ったこぶしを突き、もう片方の手を膝の上に乗せ、首を垂れる。
ジャンも当然その姿勢になる。
この学院で、カノンだけがこの儀礼に従わなくてよいはずだった。皇女が皇帝に対する礼は、立ったまま迎え、相対した時に膝をかがめて腰を落とし、片手を胸に当てるものだ。
だが、カノンも他の子供たちと同じ礼をしていた。
当然といえば当然なのかもしれない。彼女も学院の児童であり、他の者と立場は変わらないのだから。
それでも、ジュスティーヌには違和感がある。公的立場に立っているのならともかく、まだ十代にもならない子供が、学校にいるとはいえ臣下礼をとるものだろうか。
しばらくそのままでいると、大勢の大人たちが近付いてくる気配がわかる。視線を下げているからわからないが、ここで頭を上げてしまうような不調法な最上級生はさすがにいない。ジュスティーヌもジャンもおとなしく頭を下げている。
いずれ、頭を下げられる方の立場になってやると、この中の幾人が思っていただろうか。
「陛下、旗士訓練の最中でございました」
誰かが説明をしている。聞き覚えのある声は幼等部長だろう。緊張でガチガチなのがわかる。帝立学院の上級管理職は皇帝に直接仕える勅任官の扱いのはずだが、勅任官だからといって皇帝に親しい立場にあるわけではない。たぶん、式典の時くらいにしか相手をすることもないのだろう。
「皇女殿下のお相手はサント侯爵家令嬢とフォントブロー辺境伯家子息が務めております」
その声がして、さすがに二人とも緊張した。いつしか、皇帝たちはすぐ近くまで来ていた。
「ドゥ・サント、ドゥ・フォントブロー、そなたらの我が娘への厚情を感謝する」
静かに、皇帝の声がおりてきた。
一二〇まで現役を務める者が多い現代、六〇代後半の皇帝は決して老いてはいないが、優しげな、やや高めのハスキーな声だった。
「ありがたきお言葉、もったいのうございます」
ジュスティーヌが一層頭を沈めながらいう。宮廷序列として、侯爵令嬢の方が辺境伯子息より当然上だから、ここは彼女が返答しなければならなかった。
ちなみにメディアの爵位は、上から大公爵、公爵、侯爵、辺境伯、都市伯、伯爵、小伯、子爵、男爵、準男爵、永世旗士、一代旗士、である。
「そなたらはいずれ帝位を襲わんとする身、よく鍛え、よく学び、日々修練を怠らぬよう」
皇帝が淡々とした口調でゆっくりと続けた。発音ははっきりとしているが、それほど大声ではない。
「恐れ多うございます、陛下。御稜威にいささかの泥も塗らぬよう、日々精進致す所存にございます」
とても幼等部の児童とも思えないセリフだが、この辺りは決まりきった文句だから、当たり前のように口から出てくる。
決まり切ったことをいわれたから、皇帝も決まりきった反応をした。うなずき、会話を終えたのだ。
「皇女よ」
皇帝の声が、娘を呼んだ。
親愛にあふれている、ようにはあまり聞こえない。
「はい、陛下」
カノンの声が聞こえる。硬い。
「そなたはまだ雛鳥、いずれ帝位を争おうにもまだまだ実力は他の者に遠く及ばぬ。まずは精進せよ」
皇帝の言葉は、肉親の情にあふれているようには、やはり聞こえない。
「はい」
カノンの返答は短く、立ち上がった気配も頭を上げた気配もない。
「たとえ帝位に就かずとも、そなたには皇女としての義務があろう。それを果たさんがためには常に学ばねばならぬことが山積しておる。緩むでないぞ」
「畏まりましてございます」
硬い声。
「みな、邪魔をした。続けよ」
皇帝は短くいうと、たぶん踵を返した。
たぶん、というのは、ジュスティーヌたちが全員頭を下げ続けていてよくわからなかったからだ。ただ、大人たちがこの短いやり取りを残してざわざわと歩きだし、訓練場から立ち去っていく気配が分かった。
やがて、「直れ!」の号令がかかり、一斉にため息と悲鳴にも似た声が上がった。こんな最敬礼の仕方に慣れていない子供たちが、皇帝臨御の栄に緊張しすぎ、姿勢を保つのに疲れ果てて倒れたり、半ば意識を失って転がったりしている。
ジュスティーヌたちも立ち上がった。
カノンは、転げることはなかったし、倒れることもなかったが、無表情な顔に一片の感情も乗っていなかった。父帝の後ろ姿に向ける表情ではないことは確かだ。
いろいろな親子がいるものだし、自分の家庭のことを考えれば、帝家に愛情が横溢している姿を期待するのは間違っていることも重々承知はしているが、この親子の感情の流れ無さはなんなのだろうか。
皇女も必ずしも幸せな人生を歩んできているわけでもないらしい、とジュスティーヌは思った。
同情もしなければ可愛そうだと慰める気にもならないが、カノンの硬い無表情がジュスティーヌの記憶に強く残った。




