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死なないだけの僕がいつか世界を救う  作者: 木挽
40年生きて来た〜新しい町へ〜
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第9話『ここに来て10年が経った』



ここに来て――もう10年が経った。

リューデンの空気にも、道場の木床にも、ギルドのざわめきにも、すっかり馴染んだ。

剣を握り、依頼をこなし、町の人々と挨拶を交わす。

そんな日々が、いつの間にか“日常”になっていた。


レイナも、変わった。

あの頃は尖っていた剣士も、今ではギルドの中堅として後輩を指導する立場になっている。

彼女は年齢を重ね、経験を積み、少しずつ柔らかくなった。

でも、俺は――変わらない。


---


「踏み込みが浅いぞ、天野」


道場の稽古で、ヴァルドが声をかけてきた。

彼の剣は、以前より少しだけ重くなっていた。

動きに迷いはない。でも、ほんのわずかに遅れている。

それは、経験では補えない“時間の重み”だった。


「もう一度お願いします」


俺は構え直す。

ヴァルドは頷き、再び剣を振るう。

鋭い。重い。だが、俺は受け止められる。

それが、少しだけ――申し訳なく感じた。


---


稽古後、道場の縁側でヴァルドと並んで座った。

夕焼けが、町の屋根を赤く染めていた。


「天野、お前は……若いな。ずっと変わらない」


「……そう見えるだけです」


「いや、違う。俺はわかる。お前は、止まってる」


俺は、言葉を失った。

ヴァルドは、俺の秘密に気づいているのかもしれない。

でも、それを責めるでもなく、ただ静かに言った。


---


「俺は、年を取る。動きも鈍る。息も上がる。

 でも、それが嫌だとは思わない。

 それだけ、剣と向き合ってきた証だからな」


彼の言葉には、誇りがあった。

老いを受け入れ、積み重ねた時間を誇る姿。

それは、俺には持てないものだった。


「お前は止まってる。でも、それは悪いことじゃない。

 止まってるからこそ、見えるものもあるだろ?」


俺は、少しだけ笑った。

彼の言葉が、心に染みた。


---


その夜、宿で剣を磨きながら思った。


>「ここに来て10年。レイナも、ヴァルドも、町も変わった。

> でも俺は、変わらない。

> それでも――積み重ねることはできる。

> 誇れる時間を、自分なりに刻んでいこう」


止まった時間でも、誰かと過ごすことで、意味は生まれる。

それが、俺の“生き方”になるのかもしれない。


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