第8話『剣は誰かのために振るうもの』
「天野さん、護衛依頼、行けますか?」
ギルドの受付で声をかけられたのは、朝のことだった。
依頼内容は、商隊の護衛。リューデンから隣町までの道中、盗賊が出る可能性があるという。
「はい、行きます」
俺は即答した。
剣術の修行を始めてから、実戦経験はまだ少ない。
でも、誰かを守るために剣を学んでいるなら――こういう場面でこそ、振るうべきだ。
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商隊は、荷馬車3台と護衛4人。
俺以外の護衛は、ギルドの常連らしい。
その中に、若い剣士のレイナがいた。
鋭い目つきと、無駄のない動き。
俺より年下だが、場慣れしている印象だった。
「あなた、初参加でしょ? 無理しないでね」
「……はい。気をつけます」
俺は、剣の柄を握りながら歩き出した。
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道中は静かだった。
山道を抜け、森の縁を通る。
空は曇っていて、風が冷たい。
そして――その時は突然やってきた。
「前方、動きあり!」
レイナの声が響く。
茂みから、盗賊が飛び出してきた。
5人。全員、武器を持っている。
「囲まれるぞ、下がれ!」
隊長の指示に従い、商人たちは荷馬車の後ろへ。
俺たち護衛は、前に出る。
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剣を抜いた。
盗賊の一人が突っ込んでくる。
俺は受けて、弾いた。
剣術の稽古で覚えた型が、自然と体を動かす。
「天野、右!」
レイナの声に反応し、横からの一撃を防ぐ。
連携が生まれる。
俺は、誰かと一緒に戦っている。
それだけで、心が少しだけ軽くなった。
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戦いは短かった。
盗賊たちは撤退し、商隊は無事だった。
俺たちは傷を負いながらも、誰一人倒れることなく任務を終えた。
「……よくやったね。初めてにしては上出来」
レイナが、少しだけ笑った。
俺は、うなずいた。
「ありがとうございます。……守れてよかったです」
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その夜、宿で剣を手入れしながら思った。
>「俺の剣は、誰かのために振るうもの。
> 一人で振るうより、誰かと並んで振るう方が、ずっと強い」
孤独だった俺が、誰かと肩を並べて戦った。
それだけで、剣の意味が少し変わった気がした。




