第7話『止まる僕と、進む彼の剣』
道場に通い始めて、三週間が過ぎた。
朝はギルドで依頼をこなし、午後は剣術の稽古。
町の空気にも慣れてきて、顔見知りも増えてきた。
そんな中、俺の前に現れたのが――ヴァルドだった。
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「お前、新入りか?」
鋭い眼差しに、俺は自然と背筋を伸ばした。
ヴァルドはこの道場の中堅剣士。年齢は38歳。
無口で実直、剣の腕は確か。
稽古では、彼の一撃に誰もが一歩引く。
「天野朔です。よろしくお願いします」
「……礼儀はあるようだな。なら、稽古で確かめさせてもらう」
それが、俺とヴァルドの始まりだった。
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稽古では、何度も彼と剣を交えた。
ヴァルドの剣は重く、鋭く、迷いがない。
俺はそれを受け、返す。
互いに言葉は少ないが、剣を通して理解し合っていく感覚があった。
ある日、稽古後にヴァルドがぽつりとつぶやいた。
「昔はもっと動けたんだがな。歳には勝てん」
その言葉に、俺は返す言葉を失った。
俺は、止まっている。
20歳のまま、見た目も変わらない。
でも彼は、進んでいる。年を重ね、技を磨き、衰えと向き合っている。
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「お前は若いな。羨ましいよ」
ヴァルドは笑った。
俺は、笑い返すことができなかった。
彼の背中には、時間が刻まれていた。
俺の背中には――何も刻まれていない。
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夜、宿の窓から星を見上げながら思った。
>「俺は、彼のように老いることはできない。
> でも、彼のように“生きる”ことはできるかもしれない」
ヴァルドの剣は、時間の重みを帯びていた。
俺の剣は、まだ軽い。
だからこそ、これから重くしていく。
経験と、選択と、誰かを守る意志で。




