第60話『疾牙の狩人』
「今回は――俺一人でやる」
朔は異空間ストレージを閉じ、ヴァルグレアもスケルトンキングも呼び出さなかった。
リリィが驚いたように振り返る。
「本気なの?」
「迅脚の脚飾りがある。
あれを試すには、ちょうどいい相手だ」
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目的地は“瘴気の沼地”。
牙の七将の一体、グラウル=スロームが巣食う腐敗の領域。
その身体は泥と毒で構成され、接近戦を拒む異形の魔獣。
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朔は転移陣を展開し、単身で沼地へと跳んだ。
瘴気が渦巻き、地面はぬかるみ、視界は濁っていた。
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「出てこい、グラウル」
呼びかけに応じるように、沼地の中心から巨大な影が立ち上がる。
牙の七将グラウル=スローム――
泥の巨体、毒の爪、腐敗の咆哮。
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「いいね。鈍重で、でかくて、刻み甲斐がある」
朔は脚飾りを起動。
瞬間、空間が歪む。
尋常じゃない速度で地を蹴り、グラウルの背後に回り込む。
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雷刃が一閃。
グラウルの肩に浅い傷が刻まれる。
だが朔は止まらない。
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次の瞬間には脚を、次には尾を、次には顎を――
少しずつ、確実に、刻んでいく。
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「どうした?動きが鈍いぞ。
もっと暴れてみろよ」
グラウルが咆哮を上げ、毒の霧を放つ。
だが朔はその軌道を読み、空間を裂いて回避。
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「楽しいな。じわじわ殺すのも、悪くない」
雷刃が再び走り、今度は胸部を貫く。
グラウルが膝をつき、泥が崩れ落ちる。
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「使役の刻印、展開」
朔が契約陣を描き、魔力を流し込む。
グラウルの身体が硬直し、瞳の毒が消える。
胸に刻印が浮かび上がり、契約が成立する。
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「使役、完了。異空間ストレージへ格納」
朔が手をかざすと、グラウル=スロームの巨体が光に包まれ、異空間へと吸い込まれていく。
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リリィが転移してきて、静かに言った。
「……本当に、一人でやったんだね」
朔は雷刃を収め、脚飾りを見下ろす。
「この速度があれば、魔獣王すら刻める」
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>「王を狩る者は、王を超える。
> その座にふさわしいのは、俺だ」




