第52話『敗北の記憶』
火山跡に到着した瞬間、空気が変わった。
地熱が渦巻き、空間が軋む。
魔力の濁流が地表を這い、岩肌は赤く脈動していた。
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「ここが……ドラゴンの巣か」
朔が呟く。
リリィは静かに頷いた。
「魔力の密度が異常。
この空間、普通の術士なら数分で意識を失う」
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ゴーレム6体が先行し、周囲の地形を解析していた。
そのとき、岩陰から魔物が現れる。
炎を纏ったトカゲ型の魔獣――“フレイムスラッシャー”が数体、牙を剥いて襲いかかってきた。
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「来たな、ザコ共」
朔は雷刃を構える。
リリィは詠唱すらせず、指先を軽く振る。
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瞬間、星の粒子が空間を走り、魔物の頭上に光の槍が降り注ぐ。
一撃で貫かれ、魔物は爆ぜるように消滅した。
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「残りは任せろ」
朔が雷刃を振るう。
刃が空を裂き、雷鳴が走る。
フレイムスラッシャーの群れは、反応する間もなく焼き尽くされた。
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「……瞬殺だな」
リリィが呟く。
朔は肩を回しながら答える。
「この程度じゃ、足止めにもならない。
問題は――あいつだ」
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火山の中心部。
そこに、伝説のドラゴン“ヴァルグレア”が眠っている。
だが、朔の脳裏には別の記憶がよぎっていた。
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「……前回の敗因は、俺の判断ミスだった」
リリィが振り返る。
「王の口車に乗って、ろくに準備もせず突入した。
あの時、私は……」
「重傷を負った。俺は、何もできなかった」
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沈黙が流れる。
だが、今回は違う。
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「もう二度と、リリィを失わない。
このドラゴンを倒して、使役スキルを手に入れる。
そして――魔王を焼き尽くす」
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リリィは星術の陣を展開し始める。
空間の魔力を読み取り、軌道を調整する。
朔は雷刃を練り、刻印の準備に入る。
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「準備は整った。
あとは、あいつを引きずり出すだけだ」
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火山の奥から、低く唸るような咆哮が響いた。
地面が震え、空気が焦げる。




