第50話『目覚めの風』
朝の光が、丘を照らしていた。
風は柔らかく、空は高く澄んでいる。
魔界の裂け目は閉じ、玉座は砕けた――だが、静寂はまだ“終わり”ではなかった。
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リリィは、眠っていた。
転移から三日。
星術を使い果たした彼女は、深い眠りの中で静かに呼吸を続けていた。
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朔は彼女のそばにいた。
ゼインは魔力の流れを監視し、ミレイは回復の術式を維持していた。
カイは丘の下で、再建を始めた人々を手伝っていた。
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「……目覚めるのは、もうすぐだと思う」
ミレイが静かに言う。
ゼインが頷く。
「魔力の循環が戻ってきている。
星術の余波も、ようやく収まった」
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そのとき――風が吹いた。
リリィの髪が揺れ、まぶたがかすかに動く。
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「……ん……」
朔が顔を上げる。
リリィの瞳が、ゆっくりと開いた。
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「……朔くん……?」
その声はかすれていたが、確かに彼女だった。
朔は笑顔で答える。
「おかえり、リリィ」
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彼女は周囲を見渡す。
ゼイン、ミレイ、カイ――そして、青い空。
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「……終わったんだね」
朔は静かに頷いた。
だが、ゼインがその言葉に続ける。
「いや――アグド・ネメスは確かに消えたが、魔王はもう一柱いる」
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空が明るくなっていく。
夜が終わり、朝が始まる。
世界は、静かに再生を始めていた。
だが、その空の向こうには、まだ影が潜んでいる。
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>「戦いの果てに残るものは、傷ではない。
> それは、誰かと生きる未来だ――ただし、守る覚悟があるなら」
この日、リリィは目覚めた。
そして、世界は再び歩き出した。
だが、真の終焉はまだ遠くにある。
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