第49話『暁の地平』
光が収まると、そこは静かな丘だった。
空は澄み、風が草を揺らしていた。
魔界の裂け目も、影の玉座も、もう存在しない。
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「……ここは?」
カイが周囲を見渡す。
ゼインが魔力の残滓を確認しながら答える。
「転移座標は、灰都の外縁。
かつて王族の避難所だった場所だ。
今は、ただの静かな丘だがな」
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朔はリリィを抱えていた。
彼女は眠っている。
星術を使い果たし、魔力の核まで燃やし尽くした代償だった。
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「リリィ……」
彼女の呼吸は穏やかで、表情は安らかだった。
まるで、すべてを終えた者のように。
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ミレイがそっと手を添える。
「魔力は枯渇してるけど、命に別状はない。
ただ、しばらくは眠ったままになると思う」
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ゼインが空を見上げる。
「星術……あれほどの力を、ひとりで制御したのか。
あの城を崩し、ネメスを消し去るほどの……」
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カイが笑う。
「やっぱり、リリィはただの“鍵”じゃなかったな。
あいつは、扉そのものを壊してくれた」
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朔はリリィの手を握る。
その手は冷たくも、確かに生きていた。
「ありがとう。
君がいたから、俺たちはここに来られた」
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空が明るくなっていく。
夜が終わり、朝が始まる。
世界は、静かに再生を始めていた。
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>「戦いの終わりは、静寂ではない。
> それは、誰かの祈りが届いた証だ」
この日、影の王は砕けた。
そして、星を呼んだ少女は、未来の地平に眠った。




