第44話『深層の主』
ネメスの城は、灰都の北端――世界の境界に開いた“魔界の裂け目”に沈んでいた。
常識が歪み、空間がねじれ、時間さえ曖昧になる場所。
その深淵に、リリィは囚われている。
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「ここに……リリィがいるんだな」
俺は剣を握り直す。
雷鳴の双刃が、微かに震えていた。
まるで、何かを察しているように。
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ゼインが言った。
「ネメスの本体はさらに奥にいる。
だが、最深部には“門番”がいる。
かつて封じられた魔竜の残滓――虚竜ヴァルゼル」
カイが剣を構え、ミレイが魔力を整える。
俺たちは、迷いなく裂け目へと踏み込んだ。
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内部は、現実と魔界が混ざり合った空間だった。
重力が揺れ、色彩が狂い、音が反響する。
幻影、罠、魔族の残党――すべてが俺たちを試していた。
だが、誰も止まらなかった。
俺たちは“目的”を持っていた。
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最深部。
黒い霧の中から、巨大な影が現れた。
翼は裂け、瞳は燃え、牙は空間を裂いた。
虚竜ヴァルゼル。
かつて封じられた魔竜の残滓。
今、再び目の前に立ちはだかる。
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「来たか……血の継承者よ……」
声が響いた。
俺は剣を構え、静かに言った。
「俺は天野朔。
リリィを救うために来た。
それだけだ」
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戦いが始まった。
炎が舞い、雷が走り、空間が歪む。
ゼインの魔法が竜の翼を封じ、カイの剣が鱗を裂く。
ミレイの支援が、俺たちを繋ぎ止める。
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そして、俺は跳んだ。
雷鳴の双刃が光を放ち、竜の心臓を貫いた。
「リリィ……待っててくれ。
俺は、必ず辿り着く」
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虚竜が崩れ落ちる。
その体から、光が溢れた。
中心に、封印された“鍵”が浮かび上がる。
それは――リリィの氷棺を解くための魔力核だった。
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>「深淵に眠るものは、恐怖ではない。
> それは、希望を試す影だ」
この日、俺たちは裂け目の守護を打ち破った。
次は――リリィを迎えに行く。




