第40話『剣、振るう』
森の道を歩いていた。
風は静かで、空は曇っていた。
そのとき、馬の悲鳴が聞こえた。
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木々の隙間から覗くと、馬車が止まっていた。
周囲には、剣を持った男たち――盗賊。
荷を奪い、護衛を倒し、馬車の扉を叩いている。
「荷を置いていけ! 命が惜しけりゃな!」
馬車の中から、怯えた声が漏れる。
老人と、少女。
助けを呼ぶ声は、誰にも届かない。
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俺は、迷わなかった。
剣を抜く。
再誕の時に生まれた、俺の剣。
記憶が、身体を動かす。
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「おい、誰だてめぇ――」
「通りすがりだ。
でも、通り過ぎる気はない」
「ガキじゃねうか!」
盗賊が笑った。
俺は、構えた。
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一瞬で、距離を詰める。
剣が唸り、空気が裂ける。
盗賊の一人が倒れた。
残りが慌てて剣を構えるが――遅い。
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「命を奪うために剣を持つな。
守るために振るえ」
二人目、三人目――剣が踊る。
俺の身体は、覚えていた。
戦い方も、斬るべき理由も。
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最後の一人が逃げようとした。
だが、俺は剣を振るわなかった。
代わりに、言った。
「次は誰も襲うな。
それが、俺の忠告だ」
盗賊は転げるように森へ消えた。
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馬車の老人が震えながら言った。
「あなたは……何者ですか?」
俺は、剣を収めて答えた。
「天野朔………」
少女が、俺を見つめていた。
その瞳は、どこか懐かしかった。
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>「剣を振るう理由は、守る者がいるからだ。
> それが、俺の記憶の始まりだった」
この日、俺は再び剣を振るった。
まだ誰も知らない。
この刃が、世界をもう一度動かすことを。




