第39話『再誕の旅立ち』
朝焼けの海辺に、赤子が打ち上げられた。
その瞳は赤く、肌は冷たく、手には剣の痣。
漁師は驚きながらも、その子を抱き上げた。
そして、名もなく、静かな村で育て始めた。
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その子は、恐ろしいほど早く成長した。
一歳で言葉を話し、三歳で剣を握り、五歳で魔力を操った。
だが、彼の目は――常に遠くを見ていた。
まるで、何かを思い出しているように。
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夜になると、彼は夢を見る。
炎に焼かれる感覚。
氷に閉ざされた誰かの姿。
そして、最後に響く声。
>「リリィ……ミナ……ユウ……」
それは夢ではなかった。
彼は、覚えていた。
自分が誰だったか。
何を守り、何を失ったか。
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「俺は……天野朔。
かつて命を燃やした者。
今は――その続きを歩く者」
漁師はその言葉に驚いたが、否定はしなかった。
その瞳に宿るものが、子どもではないと知っていたから。
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十歳になった日、彼は旅に出る決意をした。
目的は――自分の“血”を辿ること。
150年前に死んだはずの自分が、今ここにいる。
ならば、自分の系譜もまた、どこかに残っているはずだ。
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「俺の血が残っているなら、それは“希望”だ。
それを見つければ、リリィに届くかもしれない」
彼は北へ向かった。
廃墟を越え、魔族の領域を避けながら、静かに歩いた。
剣を持ち、魔力を纏い、誰にも気づかれずに。
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>「再誕は、始まりではない。
> それは、続きの一歩だ」
この日、天野朔は歩き始めた。
まだ誰も知らない。
この旅が、世界をもう一度動かすことを。




