第37話『氷の牢獄』
朔くんが消えた。
炎に焼かれ、声も、気配も、何もかも――風に溶けた。
私はその場に立ち尽くしていた。
魔力が暴走しかけていた。
でも、何もできなかった。
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「……朔くん……」
その名を呼ぶたび、胸が裂けそうだった。
けれど、次の瞬間――冷たい魔力が私を包んだ。
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「約束通り、生かしてやろう……氷漬けでな」
アグド・ネメスの声が、心に突き刺さる。
彼の魔法が空間を凍らせ、私の身体を封じていく。
抵抗する力は、もう残っていなかった。
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最後に思い出したのは、彼の笑顔だった。
そして、あの言葉。
>「……リリィ……」
その声だけが、私の心の奥に残った。
それを抱いて、私は眠りに落ちた。
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氷の棺は、ネメスの屋敷の奥深くに安置された。
魔界の歪んだ空間に建つ、静寂と狂気の館。
時間が止まり、光が届かない場所。
そこに、私は飾られた。
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ネメスは、棺の前に立ち、静かに笑った。
「勇者は灰に、マギデウスは氷に。
この屋敷は、世界の終わりを飾るにふさわしい」
彼は、私を“記憶の器”として保管した。
私の魔力は、彼の精神魔法の核となる。
私は、彼の力の一部になった。
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>「世界が終わる音は、静かだった。
> 誰もが叫んでいたのに、空は何も答えなかった」
この日、希望は凍りついた。
そして、世界は災厄の時代へと突入する。




