第35話『囚われの光』
「リリィ――ッ!」
俺の叫びは、空間に吸い込まれた。
彼女の身体は、ネメスの魔力に包まれ、ゆっくりと消えていく。
まるで、夢の中に沈んでいくように。
その瞬間、空間の色が変わった。
黒と紫が混ざり合い、現実と幻が溶け合うような感覚。
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「彼女は、私の精神領域に囚われた」
「勇者よ。光を失った剣に、何が残る?」
アグド・ネメスの声は、冷たく、残酷だった。
耳ではなく、心に直接響く。
その言葉は、俺の中の“支え”を切り離そうとしていた。
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俺は剣を握り直す。
だが、手が震えていた。
リリィの気配が、遠ざかる。
魔力の流れが、断たれる。
俺の中の“支え”が、消えていく。
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「……リリィ……」
膝が、地をついた。
剣が、重くなる。
心が、沈む。
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ネメスは、玉座に座ったまま、俺を見下ろしていた。
その瞳は、何も映していない。
ただ、否定だけがそこにあった。
「あなたは、彼女に守られていた。
彼女がいたから、立てた。
ならば、彼女がいなければ――あなたは、ただの男だ」
その言葉に、俺の中の過去が揺れる。
戦いの記憶。
敗北の記憶。
守れなかった者たちの顔。
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「……違う」
俺は、かすれた声で言った。
ネメスは、微笑んだ。
「違うと? では証明してみせろ。
光なき剣で、私を斬れるか?」
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その時、微かな声が届いた。
「朔くん……私は、ここにいる……」
それは、魔力の奥底から響いた声。
リリィの意志が、まだ生きている証だった。
彼女は、ネメスの精神領域の中でも、なお俺を呼んでいた。
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その声に、俺は立ち上がった。
剣を握り直す。
この手で、彼女の心に届くまで――戦い続ける。
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「……俺は、誰かのために立ち上がる。
それが、勇者だ。
光を奪われても、心は折れない。
俺は、必ず――お前を取り戻す」
ネメスの空間が震えた。
彼の精神領域に、亀裂が走る。
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>「絆は、奪えない。
> 心は、閉じ込められない。
> 俺の剣は――お前の声に応えるためにある」
玉座の間に、静寂が戻る。
だが、俺の心は――燃えていた。




