第28話『災厄の使徒、バルム襲来』
その日は、風が止まっていた。
鳥の声も、虫の音も、すべてが沈黙していた。
空気が重い。
何かが、来る。
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「パパ……なんか、変だよ」
ユウが不安そうに言った。
ミナも、魔力の流れが乱れていると感じていた。
俺は仮面の奥で、剣の柄を握る。
「……家の中にいろ。絶対に出るな」
「でも――」
「約束だ。守るために、俺がいる」
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そして、それは現れた。
黒炎を纏い、空間を裂いて現れた“災厄の使徒”。
その姿は人型に近いが、目も口もなく、ただ黒い魔力が渦巻いていた。
だが――声は、あった。
「……我が名はバルム。
破壊と否定の化身。
この地に存在するすべてを、無に還す」
その声は、耳ではなく、魂に響いた。
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「……“バルム”…」
返事はない。
ただ、黒い腕が振るわれ、空間が砕けた。
俺は剣を抜き、跳び込む。
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戦闘は、常識を超えていた。
剣が通らない。
魔力が乱される。
空間が歪み、時間すら揺らぐ。
それでも、俺は退かない。
この村には、家族がいる。
守るべきものが、ある。
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>「名乗るなら、覚悟を持て。
> 俺の剣は、名を刻むためじゃない。
> 守るために振るうものだ」
バルムは、俺を見て笑ったように見えた。
そして――次の瞬間、俺の首をはねた。
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村人たちの悲鳴。
双子の叫び。
血が地面を染める。
だが――俺は、立ち上がった。
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首が、再び繋がる。
肉が再生し、呼吸が戻る。
仮面は割れ、素顔が露になる。
「……まだ終わってない」
俺は剣を握り直し、バルムの核を見抜いた。
空間の裂け目の奥――そこに、奴の“存在の中心”がある。
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「空間断裂斬――発動」
剣が、空間を断ち切る。
黒炎が裂け、バルムが悲鳴を上げる。
その声は、言葉ではなく――否定の叫びだった。
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一閃。
世界が、静かになる。
バルムは、消えた。
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俺は、剣を収めて、膝をついた。
双子が駆け寄り、泣きながら抱きついてくる。
「パパ……死んじゃったかと思った……!」
「でも、生きてた……!」
「……守るって、そういうことだ。
何度倒れても、立ち上がる。それが、父親だ」
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>「名を持つ者よ。
> その名が災厄でも、俺の剣は――それを断ち切る」
リリィがいない間、俺は――この村の盾だった。




