第27話『留守を守る者』
リリィが旅立ってから、もう二週間が経った。
家の中は少し静かになったけれど、双子――ユウとミナは元気に過ごしている。
俺は仮面をつけたまま、村の防衛任務やギルドの依頼をこなしながら、彼らの生活を支えていた。
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「パパ、今日の剣の練習、見ててね!」
「わたしは魔法の詠唱、早くなったよ!」
ユウは木剣を振り、ミナは光の粒を指先に集めて見せる。
俺は仮面の奥で頷いた。
「……いい調子だ。そのまま続けろ」
「うん!」
子供たちの成長は、何よりの希望だ。
リリィがいない間、俺が守るべきものは――この日常だった。
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村は平穏に見えた。
けれど、空気の奥に、何かが潜んでいるような気配があった。
風の流れが重く、鳥の声が減り、夜の静けさが妙に深い。
「……何かが近づいている」
俺の直感が、警鐘を鳴らしていた。
仮面の奥で、剣の柄を握る手に力が入る。
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ギルドでも、異変の報告が増えていた。
北の森で魔力の乱れ。
西の谷で魔獣の異常行動。
そして、空に黒い影――誰も正体を掴めていない。
「天野さん、何か……嫌な予感がします」
受付嬢の声も、震えていた。
俺は静かに答えた。
「……何が来ても、俺が止める」
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>「留守を守るということは、ただ待つことじゃない。
> 嵐の前に、剣を研ぐことだ」
リリィが空を目指しているなら、俺は地を守る。
それが、俺たちの夫婦のかたち。
それが、俺の役割だ。




