第2話『誰もいない森で、生きることを始めた』
目が覚めたら、俺はまだ生きていた。
いや、正確には「死ねなかった」。
腕の傷はそのまま。肉が裂けたままで、血は止まってるけど、痛みはずっと続いてる。
「……これ、マジで死なないのかよ」
森の中は静かだった。風の音、鳥の声、虫の羽音。
でも、どこか現実味がない。空は紫がかってるし、木の形も妙にねじれてる。
俺は、異世界に来たんだ。たぶん、間違いなく。
---
小屋に戻って、傷を布で巻いた。
消毒もないし、薬もない。痛みはあるけど、死なないなら、なんとかなる……はず。
問題は、食料と水だ。
森を歩き回って、果実を探す。
見た目はリンゴっぽい赤い実を見つけて、かじってみた。
「……苦っ! うわ、これヤバいやつか?」
数時間後、腹がキリキリ痛み出した。
でも、死なない。吐いて、うずくまって、耐えて……生きてる。
「なるほど。俺、毒見係ってことか」
死なない体を使って、食べられるものを見極める。
赤い実はアウト。黄色い実はセーフ。青い実は……酸っぱいけど食える。
---
火が欲しかった。夜は寒いし、暗いし、怖い。
石を打ち合わせてみる。枝を集めて、乾いた葉を敷いて……何度も失敗。
指を切って、血が出て、痛くて、泣きそうになって――
「……ついた」
小さな火が、パチパチと音を立てて燃えた。
その光が、俺の顔を照らした。
暖かい。生きてるって、こういうことかもしれない。
---
水は雨水を集めるしかなかった。
葉っぱを使って、簡易の受け皿を作る。
雨が降るたびに、少しずつ溜まる水を飲む。泥臭いけど、命の味がした。
---
1週間が過ぎた。
俺は、死なずに生きていた。
食べ物を見つけて、火を起こして、水を飲んで――
誰にも頼らず、誰にも話さず、ただ一人で。
夜、小屋の隅で膝を抱えて座る。
火の揺らぎを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「誰か……誰か、いないのか……ママ……パパ……」
涙が頬を伝う。
死なない体でも、心は壊れそうだった。
---
>「生きるって、こんなに……静かで、痛いんだな」
その夜、俺は火のそばで眠った。
そして、遠くの森の向こうで――誰かが、俺を見ていた。




