第15話『止まった時間の告白』
セレノアに来て、10年が経った。
街の灯りは変わらず美しく、ギルドの塔も変わらず白く輝いている。
でも、俺の周囲は少しずつ変わっていった。
リリィは27歳になった。
魔法使いとしても、人としても、成熟した女性になった。
彼女は、時間を進めている。
でも、俺は――見た目が20歳のまま。
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「朔くん……最近、ギルドの人たちが言ってるの。
“あの人、老けないよね”って。……私も、少しだけ気になってた」
彼女の声は静かだった。
でも、その奥にある揺らぎは、俺にも伝わっていた。
俺は、目を伏せて、言葉を探した。
そして、ゆっくりと口を開いた。
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「……俺は、死なない体なんだ。
異世界に来たとき、魔物に襲われて……それでも死ななかった。
傷は治らない。でも、命は途切れない。
老いもしない。変わりもしない。
俺は、止まった時間の中にいる」
リリィは、何も言わなかった。
ただ、俺の話を最後まで聞いてくれた。
そして――涙を流した。
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「そんなの、辛かったでしょ。誰にも言えなくて、ずっと一人で……」
「……慣れました。でも、リリィには……言いたかった」
「言ってくれて、ありがとう。……私、嬉しいよ」
彼女は、涙を拭いて、俺の手を握った。
「止まった時間でも、私は一緒に歩く。
あなたが変わらなくても、私は変わっていく。
でも、それでも――一緒にいたい」
その言葉は、俺の胸に深く染みた。
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>「止まった時間の中でも、誰かと生きることはできる。
> それが、俺の“生き方”になるのかもしれない」
その夜、俺たちは秘密を共有した。
そして、変わらない俺と、変わっていく彼女が――同じ未来を選んだ。
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