第10話『剣を持って、また歩き出す』
リューデンに来て、10年が経った。
町の広場には新しい店ができ、ギルドの建物も改装された。
道場の床は磨かれ、弟子の顔ぶれも変わった。
季節の移ろいとともに、町も人も、少しずつ形を変えていく。
レイナも、変わった。
今ではギルドの副隊長として、若手をまとめる立場にいる。
あの頃の鋭さは残しつつ、言葉に柔らかさが加わった。
彼女は、経験を重ねてきた。
俺も――同じように、剣を通して多くを学んできた。
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「天野、ちょうどいい。同行してほしい依頼がある」
ギルドでレイナに声をかけられたのは、旅立ちを決めた翌朝だった。
依頼内容は、山道の交易路の安全確認。
最近、魔物の目撃情報が増えているらしい。
「行きます。最後の仕事として、ちょうどいいかもしれません」
「……最後?」
「町を出るつもりです。次の場所へ」
レイナは少しだけ目を見開いたが、すぐに頷いた。
「なら、見送る前にもう一度、あなたの剣を見せて」
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山道は静かだった。
風が冷たく、木々のざわめきが耳に残る。
俺とレイナは、互いに無言のまま歩いていた。
でも、言葉は要らなかった。
剣を通して築いた信頼がそこにあった。
そして――魔物が現れた。
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獣のような体に、岩のような皮膚。
牙をむき出しにして、こちらへ突進してくる。
「左から来る!」
レイナの声に反応し、俺は剣を構える。
魔物の爪が振り下ろされる。
俺はそれを受け、弾き、踏み込む。
「今!」
レイナが魔法を放つ。
閃光が魔物の目を焼き、動きが止まる。
俺は一気に距離を詰め、剣を振るった。
一撃。
魔物は崩れ落ちた。
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「……見事だったね」
レイナが、少しだけ笑った。
俺は、剣を納めながら答えた。
「10年分の経験です。少しは、形になったかもしれません」
「うん。あなたの剣は、誰かのために振るってるって、わかるから」
その言葉に、俺は静かに笑った。
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町に戻ったあと、俺は旅立ちの準備を整えた。
道場の門で、ヴァルドが声をかけてきた。
「行くのか?」
「はい。まだ、守りたいものがあるので」
「そうか。……お前の剣は、誰かの命を守る剣だ。誇れ」
ギルドでも、レイナが見送りに来てくれた。
「次の町でも、誰かの背中を守ってあげて」
「……もちろんです」
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町を出る道は、昔と同じだった。
でも、背負うものは違う。
剣と、覚悟と、積み重ねた時間。
>「この剣で、誰かの未来を守れるなら――それが、俺の生きる意味だ」
風が吹いていた。空は広かった。
そして、俺の旅は――また始まった。
---
完。




