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殺陣。

皆様、感想、評価、ありがとうございます。

でもわざわざ燃料入れなくても、ちゃんと完結まで書くから安心してね。




 天下人は戦地に向かう途上で、その最悪の報告を耳にした。


「太閤殿下様へご報告‼︎ 豊臣秀次様率いる当家の軍勢が、国境にて南部家を中心とした東国連合軍と衝突‼︎ その結果、お味方総崩れで、壊走中との由に御座います‼︎」


「……」


 ベキッ、と扇子を折る音が陣中に響いた。


 怒りにわなわなと震える主君に、家臣達は震え上がり、一寸たりとも体を動かす事が出来ない。


「何たる……、体たらく……‼︎」


 惣無事令を知っているだろうか。


 それは自らの強さを利用した、豊臣政権による絶対の支配原理。


 豊臣家に対する反逆は当然として、その他一切の大名間の私的な領土紛争を禁じ、これを破った者には厳重な罰が下される。


 厳重な罰が、下されなくてはならない。


 他大名を征伐する大義名分であると共に、戦での敗北が許されぬという諸刃の剣である。


 




 が、負けた。


 




 それは豊臣の支配に、大きな風穴が開いた事を意味している。


「軍を退け」


 豊臣家の本隊は敗北を喫した秀次の軍勢である。


 現在、近江に布陣する秀吉の軍勢だけでは迫り来る20万を越す東国連合を、押し留める事が出来ない。


「はっ‼︎ 如何程まで?」


「……大坂までじゃ。再び体勢を立て直してから反撃に移る」


「摂津ですか⁉︎ 近江も京も放棄すると⁉︎」


「……ワシは今、虫の居所が悪い……‼︎」


「ひっ……‼︎ しょ、承知致しました‼︎」


 近江の長浜を治めていた事もあるのだ。


 良く分かっている。


 六角家を打倒した織田軍の最初の上洛と同じ。


 近江から京までの道中は、余りにも守勢に向かないのだ。


 相手が大軍であれば、それは尚更である。


 北陸を支配する南部家は、越前から揚げた物資を琵琶湖の水運を使って補給する事も容易い。


 故に長期戦も望めないだろう。


 当時の情勢を鑑みて仕方が無かったとは言え、南部家に北陸領を譲ったのが口惜しい。


 




 秀吉は関ヶ原で生き残った手勢を、ある程度纏めると、本拠地に向けて早々に引き上げて行った。


 途中立ち寄った京にて、農民上がりである自らの政権の正統性を保証する基盤である公家達に、避難を呼び掛けたが、彼らは結局最後まで首を縦に振らなかった。


 秀吉は怒りを通り越して意気消沈した。


 彼らにとって統治者は、別に誰でも良いのである。彼らはただ上洛した勢力を歓待するだけ。


 乱世にて培った処世術を、考え直させる事が出来なかった。


 救いようが無かったとも言える。


 



 

 日の本の民ならば及びの付く筈が無い、理外の惨劇を阻止する事が出来なかった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「四十と五年ぶりか、都の空や」




 京を眼下に見下ろして、南部陸奥守晴政は呟いた。


「上洛とは何と傲慢な言葉。


 (そも)、人々がいつ落ちたと言うのだ? 上から、下へ。


 日の本のここも果ても、ただそこに生きる民の息吹こそを尊ぶべきでは無いのか?




 (いにしえ)に、暴力で勝ち得た権力で、自らを天などと称し、弱き人々が、更に弱い人々を虐げた。




 権威を語って置きながら、時代の動乱も止められず、時代の英雄に祀り立てられ、それのみに満足すること幾星霜。




 死んで行った民衆に、消えて行った英雄に、滅び絶えた一族に、貴人は顔を会わせぬと、まだほざくか。




 誰にも出来ぬのなら、他ならぬ己がやって見せよう」


 その背に18万頭の鬼を従えて、南部蝦夷王晴政が号令を掛けた。






[人生万物以養天]


(人は天なるものを生み養ったが)


[天無一物以報人]


(天は一物として人に与える事は無く)


[殺殺殺殺殺殺殺]


(故に殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ)






 その日、洛中に吹いた風の名を、


 深くは語らないで置こう。





 南部晴政の言葉を借りるなら、


「お前らの天なら、今頃二条河原で鴉に啄まれてるよ」


 後に遅れて到着した徳川、北条家の両者は、自分達がとんでもない者を引き入れてしまった事実に、ただ笑う事しか出来なかったと言う。


 人は理解を超えた衝撃に、笑いで答えるしか無い。


 大坂城に籠城しながら軍勢を集めていた秀吉も、その報告を聞いてやはり笑った。

 

 そして周りの者が止める間も無く、関ヶ原より命からがら帰還した秀次を己の手で切り捨てた。


 全ての終わりを悟ったが故に、豊臣秀吉では無く木下藤吉郎として、個人的な怒りを発散したのだ。


 一夜にして、朝廷を後ろ盾とした関白の位が、無意味な物と化す。


 怒らずにはいられないし、笑わずにはいられない。


 


「もっと早くに会いたかったのう。


 まつろわぬ民の王、南部晴政よ」




 若き日、貧しい暮らしの中でこの世の全てを憎んでいた猿が、北の空へ向かってぴょこりと跳ねる不思議な光景が天下人の脳裏に浮かんだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 天正15年(1590年)の暮れ。


 南部軍は自領である越前方面へと退却した。


 途中、畿内の惨状を聞いて気が動転した織田信雄が、突然襲い掛かって来たが、訳も無く一蹴された。


 その後、予定を変えて尾張に寄り道して、物資を現地調達して行ったのは言うまでも無い。


 悠々と撤退して行く南部軍の後ろ姿は北陸の豪雪の中に隠されて、程なくして見えなくなったとさ。




張献忠の七殺碑。

初見のインパクトったら凄いよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と歴史系作品を見てきましたが外国勢力ではなくまさか数千年続いた朝廷を日本人(既に南部領は日本ではないと言い切っても良いですが)が滅ぼす展開になる作品は初めてですね…これまでどれだけ朝敵…
[良い点] そうだよねえ。 藤吉郎はもともと「こっち側」のはずだったんだよね。 [一言] 本来他民族である我々に侵略者の親玉が神授王権なんぞ振りかざしたら反発するのは当たり前なんだよなあ。
[良い点] 今に至っても中央の東北蔑視が酷いことがマラソンの件で証明されましたからこういうのはスカッとしますね [一言] 藤原も藤原に汚染された天皇も嫌いだからこういう作品もっと増えてほしい
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