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祭。

久しぶりに平和な話です。

東北の文化を楽しんで行ってね‼︎


 


 某日、一人の若者が南部晴政の私室に呼び出されて、ある任務に就くことを命じられていた。


「お主が今年の祭り奉行だ。励めよ」

 

「ははっ‼︎ 晴政様直々の任命、光栄至極に御座います‼︎」


 良く通る声でそう答えたのは、大浦守信の嫡男である大浦為信。


 若年ながら智勇に優れ、南部家の重臣、大浦家の跡取りとして将来を渇望される男である。


 また、一代で内乱続きだった南部家を纏め上げ、北方の覇者となった晴政に心酔しており、どこか抜けた所のある晴政の陰口を叩いた家臣を半殺しにした事で、一躍家中にその名が知られる事となった。


「祭り奉行、この名誉ある役目に失敗は許されぬ。もし何か不手際があった時は、どうなるか分かっておるな?」


「……噂には、聞いておりまする」






 晴政はカッと目を見開いて叫んだ。


「失敗したら残念ながら、来年もやって貰う事になる‼︎」






 祭り奉行‼︎


 南部領内での経済刺激策として、南部家が主導となって行われる幾つかの祭りを、監督する役目である‼︎


 有り体に言えばこの役目は、誰もやりたがらなかった。


 激務の割に名誉は無く、そして祭りに浮かれた何人かの馬鹿達によって、大抵は何かしらのアクシデントに見舞われるのだ。


 そのような事情もありこの度、晴政の指示なら何でも喜んでやりそうな為信に、そのお鉢が回って来た訳だ。


 案の定、為信は晴政に直々に仕事を任された事で、テンションが上がっており、これから体験する中間管理職の苦労など全く考えていないようだ。


 早速仕事に取り掛かろうと、足早に部屋を立ち去る為信の後ろ姿を、晴政は煙草の煙を吐き出しながら目を細めて見送るのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 辺りが暗闇に沈む頃、その狂乱の宴が幕を開ける。


 街灯も無いこの時代、夜はただ寝て朝を待つだけの時間帯だが、この日だけは違う。


 満月とそこかしこに並んだ灯籠や焚き火が、人々を明るく照らし出す。


 領民達の期待は膨らむばかり、今年で開催10年目、日の本屈指の奇祭にして狂祭、ねむた祭り(地域によって発音は諸説あり)が始まろうとしていた。

 

 時を同じくして、南部領内で二ヶ所の離れた位置からそれが姿を現した。




 八戸、弘前からほぼ同時に出陣した二つの巨大な武士‼︎ 否、人では無い‼︎ 否、生物ですら無い‼︎


 針金と木で出来た骨組み‼︎ それに沿って貼り付けられた薄い紙は皮膚を表現す‼︎


 正体は古今無双の武士(もののふ)を模した巨大な山車である‼︎


 内側から蝋燭の炎で照らし出されたその威容に、領民達は金玉膨らませながら、激烈な声援を送る‼︎


 凄まじく激しき拍子で奏でられる囃子に浮かされるように、山車の先頭に括り付けられた数十頭の軍馬が命すら顧みぬ爆走を開始した‼︎


 巨大な山車が猛スピードで街の中を練り走る‼︎


 山車は余りの大きさと重さで細かいコントロールが効かず、あちこちで建物に衝突するが、その傍若無人な歩みを止める事は無い。

 

 自分の家や店を崩された町人達は、酒を浴びるように飲んでいたせいで、状況が今一つ理解出来ていないようだ。


 山車と併走する半裸の血気盛んな若者達が、特に意味のない叫び声を上げ続けている。


 暴走する山車と同時に、街中に荒ぶった牛が多数放たれる。


 しかし、領民達は怖気付くどころか、自ら猛牛に立ち向かっては吹き飛ばされて行く。


 中には宙を舞った後、落下した衝撃で首がおかしな方向に折れ曲がって、絶命した者すらいた。


 しかしその者の顔を覗き込むと、後悔の色は見受けられず、自分が死んだとも気付いていないような愉快そうな笑みを浮かべているのみである。


 多くの犠牲を乗り越えて、猛牛にしがみついて振り回される男が、懐から短刀を取り出す。


 暴れ回る畜生の腹を深々と割り開いたかと思うと、傷を負って大人しくなった隙に、おもむろに手をその中に突っ込み、臓物を引き摺り出した。

 

 周りに聞こえる大声で、高らかに宣言する。


 桶屋の次郎、肝取り一番乗り‼︎


 桶屋の次郎、肝取り一番乗り‼︎


 周りを取り囲んでいた他の領民達が狂喜乱舞し、勇者を口々に褒め讃える。


 しかし、それで終わりでは無かった。


 彼らがその幸運と勇気にあやかろうと、引き摺り出されて散乱した臓物を奪い合うのだ。


 皆が一様に髭を胸まで伸ばした、半裸の男達が殴り、組み付き、噛み、何でもありの大喧嘩を始める。


 周りで見ている者達もその光景を酒の肴にするだけで、止めようともしない。


 混乱するその場に、別の猛牛が突入して来る。


 更に混乱するその場に、数十頭の軍馬に引かれた山車と、併走する若者達が突入して来る。


 事態は既に収集不能だったが、辺りは悲観する様子も無く、楽しそうな笑い声で溢れていた。




 山車はそのまま数日かけて領内を爆走して回り、東西から出陣した二つの山車が、距離にして両者の中央に当たる青森平野にてかち合った。


 そこからはもう両者が山車をぶつけ合ったり、山車に併走して来た男達が喧嘩をしたり、どこかから持ち出されて来た大筒によって、山車の武士の首が吹き飛ばされたりで、知性の欠片も感じさせない混乱が激しさを増して行く。


 やがて中に仕込まれた蝋燭の炎が引火して山車が燃え上がり、周りの建物に延焼して行く。


 そしてその建物の中の一つは南部軍の火薬庫であった。


 大きな爆発音が南部領に響き渡る。


 周りの建物が吹き飛ぶ、何人かがバラバラの肉片となって絶命する。


 しかし木っ端微塵になったそれらを見ても、領民達は腹を抱えて笑うだけ。


 この光景を見て任務の失敗を悟った祭り奉行の為信は、恐るおそる晴政に事の顛末を正直に話した。


 晴政はこう呟いたという。






「素晴らしい……‼︎」






 南部の民は常在混沌の中にあって、戦心(いくさごころ)を養うのだ‼︎




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 某日、そいつらはあなたの元に突然やって来る。


「悪い子はいねが〜」


「泣ぐ子はいねが〜」

 

 なまはげ‼︎


 出羽国男鹿半島から南部領内全域に伝播した謎の風習である‼︎


 世にも恐ろしき風貌をした神の使いが来訪し、怠惰や不和などを諫め、一年の厄を払うとされる何とも有難き催し‼︎


 しかし伝統的なそれは南部家の支配と共に変容し、領民達を恐怖に陥れるおぞましき風習と化していた。


 特に()()()はご注意を……。




 毎年のある時期になると、南部領全体で同時多発的に、数人からなる隊を組んだなまはげが現れる。


 一度見たら忘れられないと言われる程、恐ろしい見た目。その上、手には本物の武器を携えている。


 なまはげ達は手に持った紙に目を落とす。


 その名も南部領人権(なんぶりょうじんけん)失落者帳(しつらくしゃちょう)‼︎


 酒や阿片に溺れて、暴力を繰り返す者‼︎


 怠惰や淫蕩にふけり、ロクに働かぬ者‼︎


 更生する事が出来ず、犯罪を幾度も繰り返す者‼︎


 南部家への叛意を持ち、政権の転覆を企む者‼︎


 領民達からの匿名の密告や嘆願によって、毎年編纂されるその名簿に名前が載った者が、助かる術はない‼︎


 ある者は神隠しに遭ってどこかへ消える。またある者は朝起きたら、隣で首が無い状態で寝ている。


 そう‼︎ この時期は、なまはげの扮装をした南部忍軍、下衆蒲英(げすたんぽ)による粛清の嵐が吹き荒れるのだ‼︎


 悪人は殺す‼︎ 善良なフリをした悪人は尚更殺す‼︎

 

 働かない者は殺す‼︎ 南部家に逆らう者は必ず殺す‼︎


 善良な民には豊かな暮らしと、安全が保障される‼︎


 それが南部家の強固な支配体制の秘訣である。


 下衆蒲英(げすたんぽ)達は南部晴政の意のままに、偵察、工作、暗殺、粛清を卓越した技術によって冷酷に執行する。


 そのターゲットは悪人に限らず、嘘の密告を行った領民や、支配の過程で賄賂を受け取ったり、横領を行った武士達にも及ぶ。


 身分を問わず人権失落者達を斬り殺す姿を見た領民達は、畏敬の念を込めて、いつしか彼らをこう呼ぶようになったと言う。






 斬蒲英(きりたんぽ)……‼︎






 彼らが好んで食べた携帯食料が、同様の名称で呼ばれるようになるのは、まだまだ先の話である。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 なお、領民達はこれらが古来より続く伝統だと思い込んでおり、晴政の富民政策、もとい強民政策の一環であることは、ほとんどの人間が気付いていない。


 強く豊かな民は封建領主の破滅を招く。


 後年見つかった日記により、晴政が数百年後に起こるその世界的な潮流を、予測していた事が分かっている。


 支配者として、自らの血筋を重視するのではない。


 国家を第一として考える。


 その誇り高き精神が、現代の東アジアの北方を支配する、かの大国の礎となった事は疑う余地もない。




どうしてこうなった。

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