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裸の付き合い。

調子に乗ってどうでも良いこと書いてたら、話が進まなかった……。




 天文23年(1554年)

 八戸城




 南部家諸将は前年の最上家の攻略を無事終えて帰還すると、目標である奥羽の平定に邁進するべく、息つく暇も無く、更なる戦に備えて準備を進めていた。


 前年に引き続き、いざ侵攻を開始せんとした矢先のことであった。






「予定が大幅に崩れちまったな……」


 南部晴政は眼前に並んだ三通の書状を見て溜息を吐いた。


「蘆名、相馬、岩城。こやつらは最上家の万が一の番狂わせを期待して、我らに臣従せず待っておった訳ですか」


 側に控えていた石川高信が、少しだけ苛立ちを含ませた様な声でそう答えた。


 ちなみに普段晴政を補佐する役割の北信愛は、新たに獲得した最上、大宝寺領の支配を安定させるため、そちらに出張っている。


「そんで案の定、最上が順当に滅ぼされたから、こうして今になって臣従の意思を示して来たと……」


「全く、ふざけておりますな……」


「確かにふざけているな。だがオレとしては戦わずに済むんなら、それが一番良い。ウチは銭に余裕はあるが、飯に余裕がないからな。奴らもそれを分かっているのだろう」


「ただ問題は……」






「問題は、こいつら信用出来るのか? ってこったな」






 晴政は面倒臭そうに溜息をつくと、高信に指示を出す。


 信用だとか信頼だとかは直接会ってみなければ、そう易々とは得られないし、出来るかも分からないものである。


 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 ある一団が南部家の本拠地である八戸城に向けて、寒く広大な大地を進んでいた。


「ここまでも、ここからも全て南部家の領土か……。全く馬鹿げた広さだな」


 蘆名盛氏は呆れながらそう呟いた。


 一団の正体は南部家への臣従を申し出た蘆名家の一行である。


 臣従の旨を伝える書状への晴政からの返答は、[直接会いに来い]であった。


 南部晴政は会談に見せかけて盛氏を誅殺するつもりだ、との意見も家中から飛び出したが、どの道、八戸へ赴かず晴政の不興を買えば、最上家のように滅ぼされるだけである。


 徹底抗戦の想定も行なってはみたが、どう頑張ってもジリ貧になってじわじわとすり潰されるだけ。他国からの援軍は来る保証もないため博打のようなものだ。


 博打で国を賭けるほど馬鹿ではない。既に斜陽の伊達家に尽くしてやる義理もない。


 そのような事情を入念に加味した上で、この度、正式に南部家に降伏する運びとなった次第である。


 しかし唯一予想が外れたのは南部領の大きさ、既に出発してから三日月が二回は丸くなっている。


 三日月の丸くなるまで何とやらは、とんだ詐欺であった。


 立派なのは面積だけで、数十年前までは非常に貧しい地域であったはずのその広大な領地では、行く先々で良く開墾された田畑が広がり、往来する商人や精力的に働く領民で賑わっていた。


 彼らの溢れんばかりの生気は、南部晴政の元で戦いという戦いに勝ち続けた自信から来るものだ。


 背中を丸めて飢えと争いに怯えるだけだった民衆は、強力なリーダーを得て勝利の味を知った。


 その光景は皆が貧しい生活の中にありながら、お互いを傷つけ合うことしか出来なかった奥羽の、真の主たる者がこの世に現れたことを示す象徴的な光景である。






 天文23年。それは半ば天命のように、一人の男が日の本の北方を掌握しようとしていた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「蘆名盛氏様ですね? もう既に相馬盛胤様、岩城重隆様は到着しておられます」


「南部陸奥守殿への謁見はどうなっておる?」


「我々は盛氏様をお待ちしていた次第で御座います。貴方様が本日ご到着なされたので、恐らく明日になるかと、それまでは是非ごゆっくりなさって旅の疲れを癒して下さい」


「かたじけない」






 その夜、八戸城にて手厚い歓待を受けた盛氏は、次の日の朝、南部家の家臣に案内され、八戸の街外れの森に辿り着いた。


 こんなところに本当に南部晴政がいるのか? やはり人目につかない場所で、己を誅殺する腹づもりなのではあるまいな。


 疑念を深める盛氏の内心とは裏腹に、案内する男はずんずんと迷い無く歩を進め、やがて森の中に建てられた場違いな掘っ立て小屋が目の前に現れた。


 何だこれは、何やら屋根から煙を吹いているようだが?


 訳が分からず困った様子の盛氏に、驚くべき言葉が掛けられる。


「どうぞ、晴政様が中でお待ちです。それと衣服はここで脱いだ方が良いと思いますよ?」


「は? それはどういう意味で」


「中はとても暑いので。晴政様もここで脱いで行かれました。ほらそこに放ってある服、晴政様のです」


「……」


 もうなるようになれ。盛氏は衣服を脱ぎ捨てた。


 ここまで来てしまったのだから、晴政が自分を殺す気ならどの道、生きては帰れないだろう。


 そして中に入ると衝撃的な光景が広がっていた。






「は、晴政殿。盛氏殿が来るまで、まだ時間がありそうだ。一旦外に出ないか」


「先に出た方が負けだ」


「あ、暑すぎる……。オレもうそろそろ限界かも……」


「先に出た方が負けだ」


 小屋の中に入ると、強烈な熱気に襲われる。






 正体は南部式蒸し風呂、寒不知(さむしらず)‼︎






 それは晴政の要望で建てられた、現代で言うサウナと呼ばれる施設だ。従来の蒸し風呂などとは比べ物にならない暑さである。


 その地獄のような室内には、涼しい顔をしている頭から体まで毛むくじゃらの、いかにも筋骨隆々といった感じの男と、側から見ても明らかにへばっている岩城重隆と相馬盛胤の姿があった。


 盛氏によって開け放たれた扉に、三人が目を向ける。


 見られただけで背筋が凍るような、恐ろしい目をした毛むくじゃらの男、もとい南部晴政がしばらくこちらを見つめた後、口を開いた。






「……先に出た方が、負けだ」






 強制的に参加することとなった謎の勝負は、一番最初からこの中にいたにも関わらず、晴政の勝利に終わった。


 一旦、全員で外に出て水を浴びた後、再び晴政に連れられ、小屋の中へと戻る。


 全員が素っ裸で武器を携行しないという点で言えば、これ以上ない会談場所だと言える。


 だが実態はただの晴政の趣味である。





 

 余談だがこの蒸し風呂は、この時期から南部領に数多く建設されて行くことになる。


 この後、子々孫々に渡って寒冷な南部領に暮らす民達にとって、重要な癒しと憩いの場となった。


 後世において一般庶民から南部晴政の最も重要な功績と考えられているのは、この南部式蒸し風呂の普及である事に疑いの余地は無い。






最近、感想が少なくて寂しいです。

本当に読んでる人いるのか?


別に最新話の感想じゃなくてもええんやで。

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― 新着の感想 ―
久しぶりに歴史モノで面白いのを見させてもらってます。 論文のような戦況描写もなくて読みやすいです。 家は父方が相馬武士で母方が南部武士なのですが南部って面白いですね~
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