南部領は青天井。
申し訳程度の内政要素。
作者にはこれが限界であります。
伊達家連合軍との戦により、南部家は仙台平野一帯をその版図に加え、東北の覇権を確固たるものとした。
1546年の暮れには弱小勢力への圧力を強め、小野寺家が屈服。
南部家の手駒と化した桑折景長、牧野久仲、中野宗時の三人によって擁立された伊達義宣(大崎義宣から改名)は、晴宗の死によって意気消沈する伊達稙宗との争いを有利に進めている。
蘆名家、最上家、相馬家などの元伊達家連合の諸侯は、先の南部家との合戦の大敗によって国内の動揺を招き、それを鎮圧するのに釘付けになっていた。
しかし勝者である南部家も全てが安泰という訳ではなかった。
実は先の外征は、南部家にとってもかなり無理をした内容であった。その上、急拡大した領土の支配の強化に追われ、南部家も動くに動けない状況となっていた。
軍事の面では睨み合いが続き、南部家はこの後数年の間、内政に注力することとなる。
南部晴政は足りない物を他国から奪い続ける自転車操業に、いつか限界が来ることを理解していた。
晴政の指示のもと国力の増大を目指す[南部領第一次五カ年計画]が始まった。
どこかで聞いたことがあるネーミングは、もちろん晴政が名付けたものである。
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南部家は玉山金山、院内銀山を始めとした領内で産出する大量の鉱山資源で得た資金を、領内の開発に投じた。
農業では戦により大量に発生していた耕作放棄地の再生、新たな農地の開拓、領内の治水の推進。検地と隠田の炙り出し。
前線から離れ過ぎてしまった地域は兵役を免除し、先の戦で略奪を行った地域は一時的に年貢を軽くして、領民の懐柔に努めた。
これらには資金が幾ら有っても足りない。
産出する金や銀の収入以外にも稼げるものが必要だと痛感し、他国に売れる物品の生産が進んだ。
まずは南部領で大量に漁れるアワビや昆布など水産物の干物、これらは畿内に持ち込むと非常に高値で売れた。
南部領での牧畜の規模が拡大することによって生まれた、優れた皮革製品。蝦夷での狩猟による毛皮。南部氏網羅法度次第により、それらを生産する者達への差別も抑えられている。
北上山地で取れる豊富な砂鉄を使った製鉄。蝦夷の石炭や、発見された釜石鉱山の鉄鉱石を使った製鉄にはまだまだ発展の余地が見られるが、同時に水車を使った送風機構の開発を加速させた。
水車は治水や穀物の粉挽きにも使えるため、開発は急務として南部家より多額の資金が投じられた。
今は乱世である、武器の販売先には困らない。時には敵対する勢力同士に売る武器の量を調整して、戦を出来るだけ長引かせることまで行われた。
南部家はこの鉄製品を[南部鉄器]として他国に宣伝し、一種のブランド戦略をも推し進めた。
もちろん数多の物品の生産は領民達の生活を向上させて行く。
水産物は当然、現地の人間はそのまま食べられるため、貴重な食料となる。南部家からの支援によって遠洋に出る大規模な漁業も行われ始めた。
他の地域では忌避される肉食は晴政の長年の努力もあって、南部領では幅広く根付いていたし、塩漬けにして保存食とする習慣も生まれ、領民達の腹を満たした。家畜の乳汁もそのまま飲むだけでなく、加工方法が次々と発見されている。
九州を経由して明から仕入れた豚は何でも食べる上に、子沢山なので食用には打ってつけだった。野放しにしたところ人間の赤ん坊を食べてしまう事件も発生したが、南部家直々に管理を厳しく規定することによって、そのようなことも抑えられて行った。
鉄製の農具は、農業の効率を格段に引き上げ、農地の開発も順調に進んだ。
国内投資によって領民に資金をばら撒くことは、畿内より大幅に遅れていた貨幣経済の発達をも促す。
それらをより円滑に回すため、各地の道の整備も行われた。
それと同時に晴政は本拠地を防衛に適した山奥の三戸から、海沿いの平野である商業に適した八戸に移した。八戸の港を大きく拡大し、太平洋の荒波に耐える巨大な船を建造し、商人達にも貸し出す。
八戸は南部領の人、物、金が集まり、押しも押されぬ大大名、南部家の本拠地として南部領の政治、経済の中心地として発展して行くこととなる。
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天文17年(1548年)
「こいつが、鉄砲ってやつか」
晴政は近頃、九州や畿内の戦に姿を見せ始めた火薬を用いて弾丸を飛ばす兵器を眺めていた。
未来の機関銃なんかを知っている晴政にとっては、まるでオモチャのように感じられたが、これが日の本の戦を大きく変えることは流石に承知している。
「火薬も弾丸も、本体の費用も馬鹿になりません。おまけに撃つのに時間が掛かるし、雨のときは湿気って使えない。とてもじゃないですが、晴政様が言うように時代を変える武器だとは思えませんが?」
晴政の指示で畿内より鉄砲を仕入れた北信愛は、怪訝な表情をする。
無理もない。これは違い過ぎる。
英雄、豪傑が刀を持って戦う時代を終わらせるものだ。従来の武器とは違いが過ぎる。
「信愛、随分と欠点ばかりを言うが、大事なのはこれを撃たれたときだ。確かに戦に持ち込んで、これを撃つまでの道のりは長い。だが一度撃たれたら、成す術がない。特に騎兵など良い的だろうな、これは南部晴政を殺せる武器なのだ」
「っ……‼︎ そこまでですか」
「領内の鍛冶師にこいつを作らせろ。作り方が分からんのなら、畿内から職人を雇うか、攫って来い。それと馬と兵士に火薬の轟音に対する訓練をさせろ。肝心なときに怖気づかれちゃ困る」
「しかと承りました」
「ああ、そうそう。こいつの一番の利点を言い忘れてたな」
「?」
「簡単なことだ。これは農民が、それこそ女子供が、士を容易く殺せる武器なんだよ。故に戦いが変わるのだ」
晴政は銃身に火薬と弾丸を込め、遥か先に設置された的を狙って、引き金を引いた。
「熱っつ‼︎」
「ああっ‼︎ 髭が、髭が燃えておりまする‼︎」
乱世にあって日の本最北の大勢力である南部家は、自らを脅かす敵というものが存在しない。
約束された平穏の中で、南部家は静かに力を蓄えていた。
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