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ある晴れた昼下がり。

箸休め回。


平和な回だから、ほのぼのと読んでね‼︎



 南部領との国境付近

 葛西領のある農村





 「おぎゃあ‼︎ おぎゃあ‼︎」


 「生まれた‼︎ 生まれたぞ‼︎」


 村の外れにある農民の弥七の家にこの日、新たな命が誕生していた。


 「元気な男の子じゃ、お二人とも頑張ったのう」


 出産を手伝っていた産婆が、夫婦の労をねぎらう。


 「あなた、名前は決まっているの?」


 弥七の妻は出産の疲れでぐったりとしながら問い掛ける。

 

 「ああ、この子の名前は永七だ。これからの人生を永く、永く幸せに生きて欲しいから永七だ」


 「素敵な名前……」


 妻はそう言うと、疲労のあまり眠りについた。


 「戦ばかりの世の中なんて、この子の時代にはきっと終わる。この子には平和な時代で、幸せになって欲しいなあ」


 弥七が感慨に浸っていると、扉も付いていない家の出入り口の前を、数人の子供達が楽しそうに騒ぎながら横切るのが見えた。


 弥七はあんな風に元気に育って欲しいと願いながら、目を細めて再び、その手に抱く我が子に目を落とした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 「悪い子のとこにはやって来る〜♪」

 

 「風神さ〜まがやって来る〜♪」


 「攫って煮込んでた〜べられる〜♪」


 子供達が輪になってはしゃぎながら、親達から教えられた歌を意味も分からずに歌っている。


 「コラッ‼︎ ガキども‼︎ 縁起でもないこと歌うんでねえ‼︎」


 近くで農作業をしていた農民の男が、怒って子供達を追い掛け回す。


 子供達にとってはこれも遊びである。


 キャッキャッと楽しそうに笑って、男から散り散りになって逃げ回る。


 「食べられとうなかったら、畑を手伝え‼︎」


 騒ぐ男を面白いと思ったのか、男が農作業に戻った後も子供達は、近くに来てはちょっかいを掛けて逃げて行くのであった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 

 「弥七んとこに子供が生まれたとよ」


 「そいつあ、目出度いことじゃあ‼︎」


 「ワシらも生活が厳しい、大したものはやれんが、せめて祝ってやらねばのう」


 三人の男達が田んぼの上で作業をしながら談笑している。


 「この頃、戦が多い。葛西の殿様が伊達の殿様と喧嘩しておるらしいのう、ワシらもいつ死んでしまうか分からん。子供は早めに作りたいものじゃ」


 「残す程の血筋なんけ?」


 「なんやと‼︎」


 二人は田んぼの上で泥まみれになりながら、喧嘩を始めた。


 もう一人の男はそれをいつものことだと、笑いながら見物するのだった。


 ふと畦道に目をやると、子供達とそれを追い掛ける男がどこかへ過ぎ去っていくのが見えた。


 「貧しくともいつまでもこんな風に、賑やかに暮らせたらええのう……」


 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 最初にそれに気付いたのは、村の外れに住む変わり者の又兵衛だった。


 床に仰向けになって、寝転んでいたときのことである。


 僅かだが地面から何か音がする、大地が唸り声を上げているようだ。しかもその音が段々と大きくなっているようにも感じられる。


 地震か?


 家が倒壊して下敷きになったら敵わん。又兵衛は飛び起きた。

 

 だが急いで家の外に出たところで、ある違和感を持つ。


 音が北の方角から聞こえるのだ。そしてやはり音は段々と大きくなっている。


 まるで何かが近付いて来ているかのように。


 北で何が起こっているのか確かめるべく、又兵衛は近くの木の上に登った。


 そしてそれを目撃してしまった。






 地響きを立てながら、凄まじい勢いでこちらに迫り来る、漆黒の津波。近付くにつれてその全貌が明らかになる。


 軍だ、人の軍勢だ。


 まず目に付いたのは軍勢の先頭に掲げられた生首。長い槍の先に刺し据えられた首が、ゆらゆらと前後左右に揺れ、幽鬼が舞っているようだ。


 踊る生首に混じって磔にされた人間の姿も見える。


 それに沿えられるように[反逆者]と書かれた旗が、ゆらゆらとはためいていた。


 高く掲げられたそれらの下に目を向けると、甲胄に獣の毛皮を縫い付けた様な、独特の意匠の鎧を纏った多数の人間が、おびただしい数の軍馬に跨り大地を疾走していた。


 車輪のついた台車を馬に引かせ、その上に乗っている者もいる。


 黒い塊に見えたのは、その黒一色に統一された装備だ。


 地響きは明らかに足音だけでは無かったが、その正体も程なくして分かった。


 太鼓だ、台車の上に大きな太鼓が据え付けられており、その太鼓を打ち手が聞いたこともない激しい拍子で、絶えず打ち鳴らしている。


 軍勢の揃った足音も相まって、はたから聞いているだけで気分が高揚して来る。


 まるで地獄の底から飛び出して来たような、異様というしかない集団だった。


 




 やがて騒ぎを聞いた他の村人達が集まって来る。


 彼らは村に迫るその軍勢を見て呆然とすることしか出来ず、そして村人達の理解が追い付く前に漆黒の軍団が村に突入した。


 「奪え」


 彼らを率いる一際目を引く男が、静かにそう呟いた。


 そこからの村の惨状は語るに忍びない。


 軍勢の目に付いたものは、ことごとく奪い取られる。


 食べ物も、金も、女も。


 逆らったものは、皆殺される。


 大人しく持っているものを差し出したとしても、隠しているものが見つかった場合は、やはり殺された。


 「そんな‼︎ 食い物を全部奪われたら、これから暮らしていけねえ‼︎ 勘弁してくれ‼︎」


 勇気を振り絞りそう言った男がいたが、帰って来た返答は想像の斜め上を行くものだった。


 「生きたくば、我々の軍陣に兵として加われ、さすればお前もお前の家族も救ってやろう」


 あまりに傲慢な要求だったが、背に腹は変えられない。


 村の若い男達は次々と、自分達を侵略した軍に参加する意思を表明する。


 彼らは最前線に配置され、生の可能性が限りなく低い役目を押し付けられることになるのだが、この時は誰もそれを知らない。


 兵と食料を補給した漆黒の軍団は、再び鳴り出した激しい太鼓の合図とともに、そのまま南へ過ぎ去っていった。


 彼らが過ぎ去った村は石器時代に戻ったかのような酷い有様で、そこら中から老人や女子供のすすり泣く声が聞こえる。


 若い男はみんな殺されるか、兵として連れて行かれた。


 既に遥か彼方に見えるだけとなった漆黒の軍勢の最後尾に、大きな旗が掲げられているのを、残された者達は目撃した。






 「北の……、風神……」


 誰かがたまらず、そう漏らした。


 




 [対い鶴に九曜]、[北方鎮護]の旗印。


 日の本北の最果ての魔物、南部家の軍勢に相違なかった。






 亜細亜(アジア)の暴威とは、まこと北より訪れるものである。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 おまけ

 

 この作品の東北周辺の勢力図です。


 マイナー過ぎて入れてない勢力もありますし、国境とかも適当です。


 長尾や伊達は家中で内乱が起きていますが、一つの勢力として一括りにしています。


 北海道はそこまで開拓が進んでいる訳ではありませんが、一応全土が南部家の勢力圏としています。


 蛮族の彦にゃんみたいなのが、今作の主人公です。


 挿絵(By みてみん)






南部軍の行軍は、マッドマックスをイメージして下さい。

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