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天文の乱と北の魔物。

皆様の期待に応えようとして、なかなか筆が進まない。


これは良くない兆候ですね……。


 

 天文15年(1546年)

 伊達家 稙宗派本拠地 桑折西山城



 

 西山城の評定の間には伊達家の主だった家臣が集まっていた。しかし家臣達の数は全盛期の半分にも満たない。


 それもそのはず、伊達家は当主である稙宗派とその息子、晴宗派に文字通り真っ二つに割れているのだ。


 先行きの見えない伊達家の状況を打開すべく、一人の若武者が声を上げる。




 「稙宗様‼︎ 処罰を覚悟で進言致します‼︎」


 若者が諸将の前に出て平伏する。


 その先には一代で陸奥国南部のほとんどを支配下に置いた当代きっての英雄、伊達家14代目当主、伊達稙宗がいた。


 稙宗は白い顎髭を撫でながら、穏やかな笑みを浮かべている。


 「ほっほっほ、申してみよ」


 「家中の分裂はもはや、引き返せないところまで来ており、このままでは稙宗様の地位どころか、伊達家自体の存続が危ぶまれます。南の佐竹家ならまだしも、北の南部家が本格的に進攻してきたら、現在の分裂した伊達家では止めようがありません」


 「ふむふむ、それで?」


 「正式に晴宗様に家督をお譲り下さい‼︎ そして再び伊達家を一つに統合し、まず南部家と同盟を結びます。そして南部家に対価を示して協力させ、離反した蘆名家、最上家、葛西家、相馬家などを再び力によって服従させましょう‼︎彼らは元々伊達家の縁戚です。軽く一戦交えれば、すぐに落とし所が見つかるでしょう」


 「ほほう、そうかそうか」


 稙宗はそう言っておもむろに立ち上がると、上座から降りて、若者の傍へ近づいて行く。


 



 そして畳の上についた若者の手の甲に、()()()()()()()()()




 「⁉︎……っがあああぁぁぁぁ‼︎‼︎」


 手を貫かれた若武者は、声にもならない声を上げて悶え苦しむが、稙宗は気に留めることもなく、ぐりぐりと傷口を抉っていく。


 「何が息子に家督を譲れだ、盗っ人が……‼︎ この伊達家はワシが人生を懸けて築き上げたのだ‼︎ 息子だろうがそう易々と伊達家をやれるか‼︎


 その上、南部の鬼畜共と手を結んで、ワシの義子達を攻めるだと? あ奴らは今は離反しておるが、ワシの家族じゃ‼︎ ふざけるのも大概にせよ‼︎」


 「ぐうっ……‼︎ ならばどうするのですか‼︎」


 「このまま分裂状態を続けるのじゃ、そうすれば佐竹家か南部家がいずれ必ず攻め寄せて来るじゃろう。それを敢えて利用させて貰う」


 稙宗はそこまで言うと、やっと傷を抉っていた刀を引き抜いた。


 若者は傷口を抑えながらも、稙宗を睨み付ける。


 「佐竹か南部が侵攻? それこそ伊達家の終わりではありませんか‼︎」


 「ふん、佐竹に南部。あ奴らはワシらにとって、離反しておる諸大名にとって、そして晴宗にとっても共通の敵よ。奴らの侵攻の際は、内乱は一時休戦となり、(おの)ずと再び協力して戦うこととなる。


 その戦で主導権を握り、伊達連合軍に勝利をもたらすことで、晴宗に味方する家臣達、離反した諸大名からの信頼を復活させ、再び伊達家の名の元に勢力を統合することが出来る」


 激昂したことで老体に堪えたのだろう。稙宗はふらふらとした足取りで上座に戻り、倒れるようにどかっと座り込んだ。


 息を切らしながら何とか言葉を続ける。


 「被害を抑えるために戦い過ぎず、信頼を得るために戦わなさ過ぎず、この年にして生涯最難関の戦に臨むことになるとはのう」


 「稙宗様の手腕を持ってすれば、容易きことかと……」


 突然声を掛けられ稙宗はそちらに目を見やる。そこにいたのは自らの腹心である小梁川宗朝だった。


 「宗朝、評定で発言するとは珍しいのう」

 

 「私は稙宗様に従うのみ……、ただ今回の場合は」


 「?」


 宗朝が突然刀を抜き払い、先程まで稙宗に上奏していた若武者の首を落とした。


 「こやつ稙宗様を睨んでいた故……、御免……‼︎」


 「ほっほっほ、見事」






 伊達家14代当主 伊達稙宗、彼は戦国時代の東北に(うつろ)と呼ばれる強固な縁戚関係を作り上げた。


 抜け出せない洞穴(ほらあな)の中で、互いを家族だから当然だ、と死なない程度に傷つけ合い、互いの傷を家族だから当然だ、と舐め合う。


 不気味で矛盾した共同体だ。


 




 

 安息の、牢獄である。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 伊達家晴宗派 本拠地 米沢城



 

 「親父はまだ渋っているのか‼︎ オレに家督を譲るだけだぞ⁉︎ そこまで実の息子が信用できないのか‼︎」


 伊達稙宗の嫡男、伊達晴宗は家中の大きな分裂を招いておきながら、未だに当主の座に拘り続ける稙宗に対して憤りを感じていた。


 幼い頃は憧れの父親だった。的確な判断力とその智謀で伊達家の勢力を急拡大させた立役者。しかし彼は自らの作り上げたその体制に縛り付けられた。


 陸奥や出羽の一部なら通用したであろうその婚姻政策を、越後の強国、上杉家にまで拡大させようと、息子を養子として送り込むと同時に、その息子に優秀な100人以上の家臣を付けるという、国防のことを考えても本末転倒な、非常に無理のある条件で、実行しようとしていた


 更なる拡大を求めた伊達家の身の丈に合わない政策は、南部家や佐竹家にかえって侮られる結果となった。


 何より危惧しているのは、長らく強い縁戚関係である洞体制のぬるま湯に浸かり切った伊達家を始めとする諸侯が、他国からの侵略に対してまともに対抗することが出来るのかということである。


 周りの勢力が大したことがないのならば、こんな歪な体制でも何とかなったかも知れない。だが現実には佐竹家は普通に強く、そしてその佐竹家の脅威を遥かに上回る、南部家の強さに至ってはシャレにならない。


 軍の数と強さはまさに精強無比、そしてそれを率いるのは敵に対する容赦だとか情けというものを鼻で笑って切り捨てる[風神]南部晴政。


 配下も石川高信を筆頭として北信愛、九戸信仲、大浦守信など粒揃い。何度も言うがぬるま湯に浸かって、いわば楽をしてきたとも言える伊達家に連なる諸侯が、開戦した数日後には首だけになって、南部軍の先頭の飾りとして行軍することになっても不思議ではない。


 事実、南部家はちっとも本気を出していないであろう国境の小競り合いで、南部領と接する葛西家はボコボコにされている。


 そして彼らは今や幕府と朝廷に認められた、奥羽唯一の正当な勢力である。奥羽を支配する南部家以外の勢力は、今や国賊だ。


 だから少々早とちりとも言える程のタイミングで、父に反旗を翻したのだ。その時、すぐ様自分に家督が渡っていたなら、まだ何とか南部家に対抗できる勢力をまとめ直す猶予があったのだ。


 正直言って、今のタイミングで稙宗が晴宗に家督を譲ったところで、もう遅きに過ぎる。


 




 「腹、括るしかねえか……‼︎」






 それでも彼は伊達家を愛しており、伊達家に生まれたことを誇りに思っていた。


 晴宗が悲壮な覚悟を決めたところで、絶対に聞きたくなかった知らせが入る。





 南部軍2万、葛西領に向け南下。いつもの如く現地での略奪と、牛馬を大量に使った兵糧の大規模輸送による神速の行軍である。


 晴宗の元に報告が届いたこの時には既に葛西家の支城である鳥海城は落城し、防衛不可能と見た胆沢城は放棄され、葛西軍は本城である寺池城に籠城しているという。


 噂によると侵攻の前に葛西家当主、葛西晴胤の元に南部晴政は護衛も付けずに訪ねて来て、酒を酌み交わし「無益な争いはもう止めよう、盃を交わして義兄弟となろう」とか(のたま)った翌日(嘘みたいだが、比喩とかではなくホントに翌日)に侵攻してきたらしい。


 事実上の伊達家連合に対する宣戦布告である。本城を包囲される葛西晴胤から、内乱を続ける各勢力に手紙が届いている。





 [かつての家族達へ、恥を偲んでお頼み申す。洞穴(ほらあな)を一歩出たらそこにいたのは魔物であった。南部晴政は放って置けば、遠くない内に奥羽全てを喰らい尽くし、それでもまだその異常の欲望が留まるか分からぬまことの化け物に候。伊達を裏切った拙者のことは見捨ててもいい、葛西家は滅んでもいい。


 それでも皆の魂の奥底に一欠片でも善性が残されているのならば、



 

 

 拙者の愛した陸奥を守ってくれ]


 




 [魔]に挑むは北方武士の誉れなり。


 奥州動乱、開幕。






さあ戦争だ。


楽しくなって来た。

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